ソフィアにしか出来ない事
ソフィアが完全にサラマンダーの魔法を封じてくれているおかげで俺達はかなり楽に戦えていた。《フレイムブレス》は《ホワイトブリザード》で、《メテオストライク》は《アイスランス》でそれぞれ相殺していた。後は残る《ヘルインフェルノ》を使われた時も対応出来れば完璧だ。そこはソフィアに任せてあるし、既に2つの魔法を相殺している点から考えて、安心しても大丈夫だろう。
サラマンダーが体をくの字にして回転し、勢い良く尻尾を振り回した。それをバックステップで回避して、更に攻撃を加えていく。サラマンダーの身体の炎も最初に比べると随分と勢いが弱くなっていた。弱っている証拠だろう。流石のサラマンダーも後衛のソフィア達を諦めたのか、《メテオストライク》を対処されてからは俺達から先に仕留めようとしてきていた。
サラマンダーは俺達5人に囲まれ、遠距離から2人が《アイスランス》を撃ち込まれ、魔法を使ってもソフィアに相殺される。もうサラマンダーにはもう起死回生のチャンスはないだろう。あるとすればまだ使っていない《ヘルインフェルノ》だけ。だがそれもソフィアが対応してくれるはず。
俺の考えの通りにサラマンダーも考えたのか、とうとう《ヘルインフェルノ》を使ってきた。一瞬でサラマンダーを中心に、周囲の俺達5人を炎が飲み込んでいった。
「させない。アブソリュートゼロ!!」
サラマンダーが使った《ヘルインフェルノ》が発動した瞬間、ソフィアの魔法がその熱量を根こそぎ奪っていった。ソフィアの放った《アブソリュートゼロ》は《ヘルインフェルノ》を相殺するだけにとどまらなかった。
「お、おい!あれ見ろ!」
「サラマンダーが凍ってるっすね」
「すごいな……」
リディックさんとベイルさん、それにグレイノースさんは純粋にソフィアの魔法の威力に驚いていた。弱っていたおかげか《アブソリュートゼロ》はサラマンダーをも氷漬けにしていた。そして氷漬けにされたサラマンダーはそのまま絶命したのか、こちらが止めを刺さずとも粉々に砕け灰になって消えていった。
「ジャイアントサーペントの時もそうだったが、上位魔法っていうのはこんな威力が出るもんなのか?」
「まさか。こんなおかしい威力が出せるのは仲間内の中でもソフィアだけですよ」
「そうなのか。エルフやドワーフとかの妖精族は魔法が得意と聞いた事があるが、こういう事だったのか」
実際ソフィアが魔力増幅を完成させた時に俺も2本のスティレットを借りてやらせてもらった事がある。言っている事は理解出来ていたのだけど、魔力の流れを操ると言うのはかなり難しい。魔法を使う時であればスキルの恩恵なのか、ある程度魔力の量を調節する事は出来た。だがスキルを使わない所での魔力操作となると俺には無理だった。リディックさんの言う通り魔力操作に長けたエルフの血筋を受け継いだソフィアだから出来たのだろう。
「単純にエルフだから威力が高いっていう訳ではないんですけどね」
「ほう、そいつはどういう事だ?」
「ほら、宝石って魔力を増幅させるでしょう。ソフィアは魔法を使う前に左右の武器にある宝石間で魔力を循環させて増幅し続けていたんですよ。俺にはそんな芸当出来ませんでしたから、やっぱりエルフというのが関係しているとは思いますけどね」
別に隠している訳ではないので、リディックさん達にソフィアの魔法の威力に関して簡単に説明した。
「そんな事が出来るのか。おい、エミリオ。お前出来るか?」
「実際にやってみないと分かりませんが、僕でも難しいのではないでしょうか。でも修行していつか僕も使えるようになりたいです!」
「よし、出来るようになりやがれ!そしたら俺達ももっと楽が出来そうだ」
「が、がんばります!」
どうやらエミリオさんは本格的にソフィアを尊敬してその後を追いかけている感じだ。ソフィアも魔力増幅のおかげで魔法の威力はピカイチだからな。その威力を見たら憧れる魔法使いの人達がいてもおかしくない。それよりそれをやらせる理由に楽が出来るからとは、なんともリディックさんは楽したいという目的がまったくブレないな。
サラマンダーも居なくなり、ソフィアの魔法で周囲の熱量を奪ったおかげか、今まで暑かった気温が下がり過ごしやすくなっていた。しかし早くしないと火口の方からの熱で再び気温は上昇してしまうだろう。その前に登りきって、ホワイトゲートを目指そうという事になった。
登っている最中にソードディアーが襲ってきたりという事もあったが、難なく対処して無事にホワイトゲートまで辿り着く事が出来た。
「それじゃ次の層に行くぞ!」
「あ、ちょっと待ってください。俺達はここで帰ります」
「なんでだ?日没にはまだ時間あるだろ?」
次の階層に行く気満々だったリディックさんが俺に尋ねてきた。俺はもともと早めに切り上げて装備屋に行こうと思っていた事を伝えた。
「それじゃ仕方ねえな。また会ったらよろしくな」
リディックさん達は俺達に挨拶をしてホワイトゲートの中へと入っていった。
「それじゃ俺達は帰ろうか」
俺達も続いてホワイトゲートに入り、ダンジョンの外へ出てティーリアの街へ向かったのだった。




