供養
まともに戦えずにお互いの刃によって死んでいったソードディアー達。なんとなく申し訳ない気持ちになりつつも、戦いだから仕方ないよねと自分を納得させようとした所に周囲から追い討ちが入る。
「今のは敵でも可哀想に見えるぜ」
「そうっすね」
「戦いたかった」
「戦う前に転んで死ぬなんて、あたしだったら立ち直れなそうです」
俺も転倒させるだけが目的だったんですよ。まさかお互いの刃に切断されたり刺さったりして死ぬとか思ってなかったんです。ええ、私がやりました。ごめんなさい。
「ですが、一番効率の良い倒し方なのは間違いなかったですね。多少運の力もありましたが」
「まあ、楽に倒せて良かったじゃないか。モンスターはまだまだ襲ってくるんだし、山登りもある。体力が温存出来たと思っていこう」
「……ありがとう」
シェリーとグレイノースさんがフォローを入れてくれる。でも確かにグレイノースさんの言う通り、この砂利だらけの足場が悪い環境で山登りをするのだ。体力を残しておく事に越した事はない。でないと疲労で上手く動けず、ソードディアーにやられるなんて事があるかもしれない。流石にそうなる前に休憩を取るはずだが、タイミング悪く連続で襲われたらそれも出来ない。つまり俺が言いたい事は楽に倒せて良かったねという事だ。
なんとか気持ちを持ち直してツインエッジを回収する。そして、ある事を思い出し《道具》のウィンドウを開く。ソードディアーから何か素材が手に入っていないか確認していった。すると項目の一番下に新しくエッジホーンというアイテムが増えていた。取り出してみるとこれまた見事な角と言えばいいのか、剣先と言えばいいのかわからないが、とにかくエッジホーンを入手した。戦う事の出来なかったソードディアーの代わりにこの素材で武器を作り、戦いの場で使用して供養しようと心に決めたのだった。
「ショウジ、それさっきのモンスターの?」
「うん。武器の素材になりそうだから欲しいなーとは思っていたけど、本当に手に入れちゃった」
「それで武器を作るです?」
「そうだね。ソードディアーの供養に武器にして戦いで使おうかと。流石に俺もあれはないなーって思っちゃったし」
「それが良いと思うです」
アペルも武器にするのに賛同してくれる。アペルの武器もデスサイズの刃で作らないといけないし、ちょうど良いタイミングだ。
「そういえばアペルは作る武器を何にするか決めたの?」
「んー、まだ迷い中です」
「そっか。スキルにも関わってくるからじっくり考えて決めてね」
「はいです」
俺もデスサイズの刃を使って作るとしたら、やっぱり能力が付いている死神の鎌は魅力的だ。ただその場合《鎌術》のスキルを新しく取得するまで戦闘面が厳しくなるだろう。それに鎌だと両手を使って操るから盾は持てないと思う。そうなると防御面に不安が残るのは気のせいではないはず。遠距離からの飛び道具くらいならばグリムリーパーと同じように鎌を高速回転させて盾代わりにする事は出来るだろう。だがそれ以外は流石に盾として使うには無理があるだろう。
「おい、まだまだ登らなきゃならないんだ。さっさと行くぞ!」
「すいません、今行きます」
既にベイルさんが先を歩き始めていた。俺達は再び2列に並んでそれを追いかけていく。ベイルさんの索敵能力もあり、順調にソードディアーと遭遇してはそれらを倒していった。もちろん俺はソードディアーを転倒させる事はせずにツインエッジで斬り伏せましたとさ。
そして山頂付近まで近付いたは良いが、近付くに連れてどんどん気温が上がり始め、暑さに体力を奪われる前に一度休憩をとる事にしたのだった。普通なら標高が高くなるにつれ気温が下がる。しかし、今この状況は逆だ。もしかしたら元の世界と法則性が違うのかもしれないと思っていたら違う理由でした。どうやらこの山は活火山のようで山頂の火口に近付いている為、その熱が伝わって周囲が暑くなっているようだった。という事は更に登ればもっと暑くなる。今休憩を取る事にしたのは正解だった。
休憩中する事がなかったので前回の休憩で読めなかったこの層のボスを調べた。24層のボスはサラマンダーだそうだ。サラマンダーって確か火の蜥蜴だったはず。生息地も火口周辺と書かれていた。となるとホワイトゲートも山頂付近にある為、必然的に遭遇する確率が高い。
「あ、団長。なんかモンスターがくるっす!いつもと違って1体だし、もしかしたらボスかもしれないっす!」
休憩しているとベイルが何かを察知したみたいでそれをリディックに報せた。ベイルの発言から間もなく俺の《探知》にも反応が現れたが、今回のモンスターは少数の群れで行動していたソードディアーと違い、ベイルの言う通り単独で動いていた。俺もボスが来る予感がし、敵襲に備えて臨戦態勢に入った。待ち受けていると周囲の気温が更に上がっていく感じがした。それはそうだろう。俺達の前に現れたのは今さっき冒険者の心得で見たばかりの燃え盛る炎で形作ったような巨大な蜥蜴だったのだから。
「団長、やっぱりボスが出たっすよ!」
「うるせえ!見りゃ分かる。あいつのせいでクソ暑いしさっさと倒すぞ!」
サラマンダーによって周囲の気温が上がる中、俺達とサラマンダーの戦いが始まるのだった。




