ソードディアー
鋼鉄の旅団と一緒に行動することになった俺達は、24層に向かう前に一度ホワイトゲートの前で休憩を取った。鋼鉄の旅団がフレイムレオファントム戦で疲労していたのもあり、それとは別に24層の予習もする必要があったからだ。
24層は山のフィールドらしい。出てくるモンスターはソードディアー。見た目は鹿だが角が刃となっていて、身体の要所からも刃が伸びているというモンスターとの事だ。突進の破壊力には注意が必要と記載されていた。
それとは別にボスだ。21層から3連続で遭遇しているが、流石に4連続とまではいかないだろう。しかし、遭遇した時の事を考えてボスの記載を読もうとしたら、リディックが俺の読んでいる本が気になったようで声を掛けてきた。
「なあ、さっきから何を読んでいるんだ?」
「何って次の階層の予習をしているんです。この本冒険者ギルドで売ってたでしょ?」
「ああ、あれか。俺も勧められて1冊だけ買ったが、読んでねーな」
「団長、読んでくださいよ。あの本結構重要な事書いてありますからね」
「グレイが読んでるから大丈夫だろ」
「自分で読むのが面倒だからって、面倒事を全て俺に押し付けても困りますよ」
「まあ、いーじゃねーか」
リディックさんも買ったは良いが読んでないらしい。なんて勿体無い。初級編なら魔法の詠唱も載っていて、練習すれば魔法を使えるようになるというのに。
そういえばエミリオさんとネロスコードさん以外魔法を使っていなかった。俺達とは違って純粋な戦士系なのかもしれない。そもそも俺達はスキルポイントが多くもらえるけど、リディックさん達はそうじゃない。きっと魔法まで取得する余裕がないのだろう。
「グレイノースさんの言う通りです。命が懸かっているんですから情報は大事ですよ」
「ショウジさん、もっと言ってあげてください。団長は俺達の言う事を聞いてくれませんから」
口が悪くて言う事を聞いてくれない。なんでそんな人がリーダーをやっているのだろうか。実際グレイノースさんの方がしっかりしていてリーダーっぽい。俺は思った事をそのまま口に出してみた。
「でもこうして見ているとグレイノースさんの方がリーダーっぽいですよね」
「よく言われるぜ。実際パーティーの事は全部グレイに任せてるしな。俺はただ好きな時に好きな事をやる、それだけだ」
それではグレイノースさんが可哀想だ。でも思わぬ所からフォローが入った。
「でも口が悪いだけでちゃんと俺達の事を考えてくれてるのは知ってますから」
「……ッチ、めんどくせえ。そろそろ休憩も十分だろ。24層に行くぞ!」
リディックさんは照れ隠しをするように一度舌打ちし、話を無理やり切り替えて両手剣を担ぐと、ホワイトゲートの方へと歩いていってしまった。
「ね、口は悪いけど悪い人じゃないでしょう?」
「かもしれないですね」
なんとなくリディックさんが皆に慕われているのが分かったような気がする。俺とグレイノースさんはお互いに笑いを堪えるようにしてリディックさんの後を追ったのだった。
そしてやって来た24層。前回は木々が鬱蒼と生い茂っているような山だったが、今回は木々はなく砂利が敷き詰められたような地面が広がっていた。
「足場が悪いな」
リディックが24層に着いた途端に悪態をつく。確かにこの階層のモンスターはソードディアーで、主に突進して攻撃してくるようだし、受け止めるには踏ん張りが利かないから余裕を持って回避をするしかない。
「ホワイトゲートは山頂にあるそうです。この足場で山登りは少々厳しそうですね」
さらにシェリーが言うにはホワイトゲートの位置は山頂の方だという。となると遭遇するソードディアーはほぼ斜面の上側から攻めてくるという事だ。地の利もモンスター側に傾いているという最悪のフィールドだった。
「でも行くしかない」
「そうだね、ソフィアの言う通りだ。足場に気を付けてゆっくり進もう」
足元に注意しながら俺達は山を登り始めた。そしてベイルが一足先を歩いて様子を伺いながら俺達を誘導する。残りの鋼鉄の旅団の4人と俺達4人は縦に並び2列に隊列を組んでその後を追った。
「団長!モンスターが来るっす!」
そう叫ぶとベイルは急いで斜面を下って合流してくる。俺の《探知》にも今反応が現れ、モンスターが近付いてくるのが分かる。ベイルは俺より先にモンスターを見つけたのだ。つまりは《探知》を持っている俺より索敵能力が優れているという事だった。もしかしたらベイルも《探知》を所持しているのかもしれない。
モンスター達が纏まりながら斜面を下ってくるのが視界に映った。その数は5体。今の人数なら余裕で相手できる数だが、地の利は相手側にある。油断は禁物だ。とは言っても一度突進を回避出来れば、立ち位置が入れ替わって俺達が有利になるんだけどね。
モンスターの姿も近付いたおかげで良く分かるが、ソードディアーの頭の角、何あれ格好良い。冒険者の心得には刃物が生えているって書いてあったけど、刃物って感じではなく完全に剣と言えそうな金属が飛び出している。しかも個体差があるみたいでその剣の形はバラバラだ。曲線を描いているものもあれば稲妻のようにギザギザしているものもある。多分倒した時には角とかの素材が貰えそうだがソードディアーの角なら良い武器が作れそうだ。これは是非欲しい。
ソードディアーが間近に迫る。避けようとしても追跡してきてそれを阻止してくる。何故か狙いは俺みたいだ。ギリギリで避けても横並びで突撃してきているので、隣に居るソードディアーにやられる事だろう。避けられず受け止められないならその前で止める。
ダークネスダガーでは砂利で突き刺さるか不安だったので、ツインエッジを向かってくるソードディアーの手前の地面に向かって左右に《投擲》した。その間に《スチールワイヤー》を1本通し、ソードディアーの足を引っ掛ける作戦だ。ソードディアーの角とかを観察していたおかげか、膝から上には剣のようなものが生えているのだが、そこから下は何も生えてなかったのだ。それであれば《スチールワイヤー》が切断されるという事もない。
ソードディアーは下り坂で勢いもあったせいで、《スチールワイヤー》に足を取られるとすぐに転倒し、周囲のソードディアーを巻き込んでいった。結果それはお互いの身体から生えた剣がお互いを傷つけ貫き、それぞれが致命傷を受け灰になって俺達の所まで辿り着く事はなかったのだった。




