8.少年への来客
無事レスト君の魔法を名付けられた。その為か、腹が空いてきた。安堵のせいかもしれない。
「レスト君。そろそろご飯にでも…」
そう言いかけた瞬間。ドアがノックされる。
客人かと思い、レスト君へ目配せをするが、彼は首を振る。
「……………来客の予定はねぇ。」
「そうかい。なるほどね。」
僕は咄嗟に『サーチアイ』を発動させる。それにより、視界は線のみの世界となって、周囲一帯全てを見通せるようになる。
それから見えたのは、扉の先に立つ人間。数はひとり。体格的に少女だろう。
「こんにちはー!」
僕の考えは的中していたようで。その少女は場違いなほど呑気な声でドアをノックする。だが、確かに殺気が混じっていた。
「……………さて、レスト君。どうする?」
「どうするも何も出ねぇよ。知らねぇやつが来たときは出るなって、お袋も言ってた。」
「なるほど。賢明だね。ただ、それは相手が常識のある人間だった場合だ。」
それと同時に、ドアが蹴破られた。
やはり、相手は常識知らずの人間側だったようだ。
「どうもー。返事がないから、いないと思ったのだけれど。なんだ。いるじゃない。」
「………お前。ここ、宿だぞ。そのドアだって、お前の家のじゃねぇ。」
「あら。知ってるわよ。で?」
「でって…、お前な、」
レスト君が相手のペースに乱されそうになり、咄嗟に間に入る。
「まぁまぁ。お嬢さん。君は僕たちに何か用なのかな?」
「えぇ。別におじさんにはないけれど。用事があるのは貴方によ。」
「俺に…?」
どうやら思い当たる節はないようだ。
普段であれば、若人同士が仲睦まじくするチャンスだと騒ぎ立てるのだが、如何せんそうもいかない。
少女の殺気は未だ健在なのだから。
「えぇ。貴方、ロンギニウスを持っているそうね?雑魚のくせに。」
「!」
レスト君は少女の嘲笑に対し怒ることもなく、身を震わせる。槍をかばうように。
「勿体ないから私によこしなさいよ。そっちのほうが槍も喜ぶし、前の亡くなった持ち主もあの世で喜ぶんじゃないかしら?」
「…………………。」
言い返す言葉はいつまでたっても聞こえてこない。
薄々勘付いてはいたが、やはりレスト君の恩人は亡くなっていたらしい。彼の様子からして、レスト君を庇う形でか。それならば、強くなりたいという願いも頷ける。
「で?早く、よこしなさいよ。ほら、早く。」
「レスト君。」
僕が彼に掛けるべき言葉。その正解は分からない。だが、確かに今この瞬間、彼へ何かを訴えかけなければならないことは明白だった。
「君は、何故旅をしているんだったかな。」
「俺、は……。」
瞳が揺れる。想いと呼応し、迷いが生じているようだった。
僕はただ待つ。次の言葉を。彼の意思を。




