21.おじさんは対峙する
「ん、ぅ…。」
妙な息苦しさを覚えて目を覚ます。
首を横に向けると隣にいるはずのレスト君の姿がなかった。
「?あれ。レスト君…?」
身体を起こしてテントの中を探す。だが、彼の姿はない。
僕は一人で眠れないような歳ではないが、それはそれとして一抹の寂しさを感じることはある。
なんて言えば、また気持ち悪いぞおっさんと言われてしまうだろうけど。
「うーん。何処へ行ったんだろう…。よし。……『サーチアイ』。」
詮索ばかりするのはよろしくないだろうが、やはり気になるので魔法を使うことにした。
『サーチアイ』を発動させる。
すると視界が線だけの世界へとなる。
テントの端、ランプの曲線、その全てが僕には線で構成されているように見えた。そして、遠く。1本でできた線が動く。
「………レスト君……ではないね。」
テントのすぐ外に、その動きはあった。
異様なほど腰を屈めて音を立てない姿は、只者ではなかった。
正体不明の人間、あるいは魔物が襲ってくる前にテントを出る。
「あっれー?おじさん起きたんだぁ。」
テントの外には一人の青年がいた。見覚えがある。確か、サーカス団の一人だったような。
そんな彼は三日月型のナイフを見せつけるようにくるくると回しながら立っている。
「おや。僕のことを知っているのかな。」
「いいや?ただ、アンタは聖槍ロンギニウスを持ってるガキと親しそうだったからね。」
「へぇ。なるほど。」
つまり、この青年の狙いはレスト君だというわけだ。
「ちなみに聞くけれど、君はどうやってレスト君から槍を譲り受けるつもりだい?」
「譲り受けるだって?アッハッハ!」
乾いた大きな笑い声が響く。
周囲の宿泊客は未だ目覚めない。あるいは、何か施されたのか。いずれにせよ、ここにいるのは僕だけ。
「奪うんだよ。殺してでもね。少なくともあの聖槍はガキの命より価値がある。」
青年は僕めがけてやって来る。
「『ミラージュ』!」
魔法を唱えながら、三日月型のナイフを投げる。
すると、不思議なことにひとつのはずのナイフが二重三重にも重なって見えた。
「なるほど。面白い魔法だ。」
「面白いだって!?強がりは程々にしなよ!」
ナイフが迫りくるなかでも、青年はペースを落とさずこちらへ向かってくる。
ナイフと青年。2つの脅威がやって来る。
「『サーチアイ』。」
ということはなかった。
再び視界が線のみの世界になる。そこでは、幻影のナイフなど実体を持たず、意味をなさない。
つまりは、視界にすら映さないのだ。
たったひとつの飛来するナイフを避ける。僅かに横へずれるだけ。
「!ハッ!一度避けたぐらいで…、ッ!?」
言いかけて、青年は動きを止める。
そして、地面へしゃがみ込む。
「な、にを、した…?」
「………………。」
理解が追いつかない様子の青年を見下ろす。
今、彼の行く末は僕に委ねられていた。




