20.少女は立っていた
レストが男の腕を握っている。
それでもなお、男は余裕を崩さない。ように見えた。
「はっ。お嬢さんが弱くない?その証拠はあるのかね。現に彼女は地面にはいつくばっている。それは弱さの証拠じゃないがね?」
「ちげぇな。」
間髪入れずに首を振る。
「こいつは弱くなんかねぇ。だって、まだ諦めてねぇから。」
「………………。」
諦めていない。レストは確かにそう言った。サヤは、地面に這いつくばり己の技でも太刀打ちできなかった少女は、決して諦めていないと。
「………………なんで。」
その疑問は男からではなく、サヤ自身から発せられた。
「なんで、そう思うのよ。……………私は弱いわ。その男の言うとおりよ。だから、もう…」
諦めているのだ。
続けようとした言葉は、レストに優しく否定された。
「ちげぇな。じゃあ、お前はなんでここにいんだ。」
サヤがこの場にいる理由。それはただひとつ。特訓をしようと思ってのことだ。
ならば何故、特訓を行おうとした。
「……………それ、は………」
理由など明らかだった。
強くなりたいから。未だ、自分へ期待をしていたいから。だから、彼女はここにいた。
諦め悪く、情けなく。けれど、やはり彼女はここにいた。
「…………私の力は…まだまだこんなもんじゃないって…」
サヤは震える足を鼓舞して立ち上がろうとする。だが、不思議と柔らかくなった地面に足を取られて動けない。
「きっと、もっと強くなれるって…いえ、違うわね。強くなってやるって、思ったからよ。」
その答えに対して、レストは満足気に笑った。
「そうか。なら、こんなとこで寝っ転がってる場合じゃねぇな。」
「…………ふ。……えぇ。そうね。」
サヤの瞳に光が戻る。いや。初めから光は灯っていたのだ。少し弱まっていただけで、確かに強い意志と共に光はあった。
「……………な、なんだがね。たかが意思表示の一つで、私に勝てると思っているのがね。」
「意思表示…?貴方はまだ、そう思っているの。」
「何……?」
男は僅かに後退りする。だが、彼の優勢は変わっていない。そのはず。だというのに、この少女の余裕はなんだ。
答え合わせはすぐにやって来る。
「まだ気付かないのね。」
その瞬間、地面へ埋まっていたサヤの足が引き上がる。土塊がパラパラと舞う。
「なっ!?」
男の魔法、『バウンス』。対象を柔らかくする。地面へかけることで、相手の足を取ることが出来る。のだが。
サヤの『風魔脚』の前では無意味だった。
彼女はその魔法で脚に風を纏う。脚の周辺に漂う風は、激しく吹き荒れて地中の砂を弾いていったのだ。
「私は勝つわ。貴方に。こんなところでモタモタしてられないもの…!」
地中から出た足。その周囲には轟々と風が。
「私の技が貴方に届かないですって…?なら、届かせてみせるわ!『風魔脚』!!」
サヤの足が、男の腹に突きささる。
そこに立っていたのは、ただの少女ではなかった。強さを追い求め続ける意志を持った人間がそこにはいた。




