19.少女は弱い
サヤの一家、リンドウ一族は屈指の強さを誇る血族だった。
小さな里に身を寄せ、山々で修行を行い己を鍛え抜く。それがリンドウ一族だった。無論、サヤとて例外ではない。
弱ければ生きる意味なし。
リンドウ一族のその思想は、かつて魔族に脅かされていた頃からの名残であった。その実、彼等は他の人々を見下していた。また魔族に虐げられたいのか。支配されたいのかと。
呑気な群衆へ侮蔑の念を送っていたのだ。
それがなせるのも強さ故だ。
なのだが。
「弱い。」
サヤが覚えている母の言葉。だったひとこと。物心がついた時に、初めて聞いたのがそのひとことだった。
「サヤ。貴方は弱い。弱すぎる。分かる?弱いリンドウの人間なんてのはいないの。つまり、貴方はリンドウの人間じゃないの。」
「…………………。」
そんなはずはない。
サヤは母の言葉が信じられなかった。
修行は人一倍している。血筋の問題でもない。
故に、自身が弱いなどあり得ないと。
きっと、何かの間違いなのだと。
まだ、力が芽吹かないだけ。まだ、真の力が発揮できていないだけ。それだけだ。
5歳の彼女はそう思った。10歳の彼女もそう思った。12の彼女も、13の彼女も、14の彼女も。
そして今も。だが、一向にその時は現れない。サヤ・リンドウの真の力が発揮される等という時は、やって来ない。
「…………………。」
本当は気が付いていた。
自身の力を。その上限を。
聖槍を持つ少年に負けた時、それは確固たる事実となった。
サヤはあの時、負けた。少年に。歳も変わらぬはずの、物も知らぬ少年に。
「………………違う。弱くない。私は弱くなんかないわ。だって、リンドウの人間なんだもの。あり得ない。あり得ないのよ。」
言い聞かせるように繰り返す。そして特訓という名の逃避へと繰り出す。
『風魔脚』。それが彼女の魔法の名。魔族すら蹴散らす風を纏うもの。しかし、それだけ。早いだけの脚は彼女を現実から逃避させるのに役立つが、追い求める強さには、てんで役立たなかった。
「悲しいほどに弱いがね。その脚も、技も、私には遠く及ばないかね。」
サーカス団の男がサヤを見下す。地面に伏すサヤを。
「…………。」
違うと。弱くなどないと否定をしたかった。しかし、出来る材料などない。
サヤ・リンドウは正真正銘、力の無い弱者だったのだから。
「……………私、は……」
「おや。泣くのかね。それはいい。涙は弱者の特権だがね。さぁ、無様に泣くといいがね。」
男が歩み寄る。そして、持っていた三日月型のナイフをサヤへと振り下ろす。
月明かりに照らされる刃。だが、それは彼女を傷付けることはなかった。
「弱者?こいつが?それはちげぇな。」
「「!」」
男は勿論、サヤも乱入をした第三者へ驚きを隠せなかった。
やって来た少年。レスト。彼は身を固くする2人に構わず続ける。
「こいつは強ぇよ。お前の言う弱者なんかじゃねぇ。」
レストは男の腕を強く握りながら、愚直な瞳でそう告げるのだった。




