18.少女は気付く
特訓を行おうとしたサヤ。しかし、レストが頑なについてくるのでとうとう諦めることにした。
「はぁ。今日はもう寝るわ。」
「おう。そうしろそうしろ。」
2人はそうして『第2テント』へ戻ろうとする。
が。サヤは突然立ち止まる。
「……………レスト。先に帰ってなさい。」
「?なんでだよ。」
「なんでもよ。ほら。」
「あ、おい。」
ぐいぐいと背中を押し、有無を言わせぬ様子。レストは食い下がろうとする。
「大丈夫よ。ちゃんと帰るわ。指切りでもしましょうか?」
「……………おう。そうしよう。」
「じょ、冗談だったんだけれど…まぁいいわ。」
幼子のように、互いの小指を絡ませて約束をする。しっかり帰ると。
サヤは不思議な気分になる。
まさかこの歳になっても指切りをするとは思わなかった意外性と、そして愚直にも従ったレストへ対する思いが合わさってのことだった。
「じゃあ先に帰るけど、ちゃんとお前も来いよ。」
「大げさね。ちゃんと行くわよ。」
乱雑に手を振って、レストを見送る。
そして。1人になったサヤは冷たく言い放つ。
「……………出てきなさいよ。いるんでしょう。」
彼女の独り言。ではなかった。確かに対象がいる言葉。
それを証明するかのように、近くの茂みが揺れる。現れるは奇抜な衣装をした男。サーカス団で見かけた男だった。
「流石の君でも気付いていたかね。」
「当たり前じゃない。そんなバレバレな尾行、気付かないわけないでしょう。」
サヤはそう言いながら構える。彼女の武器、ご自慢の脚を。
「で。何が狙いなのよ。」
「予想はつくと思うがね。無論、あの少年の槍だがね。」
「……………やっぱりね。」
男の語る槍。レストの持つ槍は聖槍と呼ばれるもの。特殊な力は無いにせよ、希少性が高く売れば中々のものになる。価値のあるものだ。
「で?なんで私を狙ってるのよ。槍を狙うならレストを狙うのが定石でしょうに。」
「あぁ。それは簡単なことだかね。」
爪先の長い靴を地面にのめり込ませて、続ける。
「君の方が弱いだからだかね。人質には最適。そう思わないがね?」
「…………………『風魔脚』!!」
サヤはその瞬間、足を畳んですぐに伸ばす。
疾風がそのふくらはぎを沿うように取り巻く。彼女は風だ。またたく間に相手との距離を詰める。が。
「短絡的。やはり私の予想は当たっていたかね。………『バウンス』。」
「!?」
男が唱えた途端、サヤの脚が地面に沈む。前に、進めなかった。
「ちっ…!」
そのまま倒れ込み、男を見上げる。
「悲しいほどに弱いがね。その脚も、技も、私には遠く及ばないかね。」
「黙れ。」
「技で勝てなければ口でかね?…………哀れだがね。」
「…………………。」
サヤは己の拳を握りしめる。
この状況は屈辱以外の何物でもなかった。
力負けをしているという事実。そして、それを指摘されたこと。その全てが少女サヤにとっては許しがたかった。
それでも、抵抗が出来ない。彼女には対応するすべが無かったのだ。
出来ることと言えば、地面へ伏すだけ。それだけだった。




