2.おじさんは教えたがる
少年もといレスト君について行った先。たどり着いたのは何の変哲もない宿だった。木の香りを漂わせる部屋に入る。何とも風情のある部屋だ。感慨深くなる。
「おぉ。君はここで寝泊まりしているんだねぇ。」
「き、きもちわりぃ言い方だな!」
「心外だよ。ただ気になるだけさ。ほら。ベットの下に何か隠してたり…。」
「するか!!そーいうのは家でやんだろ!?泊まってるとこではやんねぇだろ!」
「へぇ。家ではするんだね?なるほど。レスト君の家のベット下にはお宝が眠っていると…。」
「ち、違う!!そういう意味じゃねぇ!」
茹でダコのように顔を赤くするレスト君。この子は本当にからかい甲斐がある。ついつい意地の悪いことが口から出てしまう。
「まぁ君のお宝は置いて置いて。………この部屋、確かにいいとは思うけど魔素の流れが悪いね。立地の問題だろうけど。」
「?まそのながれ?」
首を傾げる。おまけに言葉はたどたどしく、まるで魔素の流れという単語を初めて聞いたようだった。いや。そんなはずはないのだが。
普通に生活をしていて、魔素に関わらずに生きるのなんて不可能なのだから。
そう思っている僕の予想を裏切るように、レスト君はつぶやく。
「まそって、なんだ?」
「本気で言ってるのかい!?」
「な、なんだよ。本気だよ。」
「………………。」
開いた口が塞がらない、という状況に今の今まで陥ったことはなかったが。今日、この瞬間、初めてそんな場面が訪れた。
魔素を知らない。そんな人間が存在するとは思わなかった。
「…………良いかい。魔素というのは私達が生成できるエネルギーの一種さ。生成過程や効率は人それぞれだけれど、魔法を使うのにも作るのにも欠かせない。たとえ魔族と戦わないから魔法を使わなくても、存在は知っているはずのものなんだよ。」
「………………………そう、なのか。」
バツが悪そうにレスト君が顔を背ける。何故、彼が魔素の存在を知らないのか。それが甚だ疑問であった。
「も、もしかして君、記憶喪失の類なのかい?それとも難病かなにかにでも…。」
「ちげぇよ!ただ、その……俺が無知だっただけだ。そうだ。俺が無知なだけ。」
珍しく勢いをすぼめた様子に、違和感を覚える。
レスト君の話し方では、まるで無知を恥じているよう。いや、恥じているどころか、嫌悪さえあるように見える。
「……………レスト君。僕はああは言ったが、知らないことは恥ではないよ。」
「!」
僅かに肩が震えた。そんな気がした。
「知らなければ知ればいいしね。さっきは驚いたが、それでも状況は理解したよ。取り乱してすまないね。他に気になることがあれば聞いておくれ。僕がなんでも答えるよ。」
「………………。」
レスト君は答えない。唇を固く結んで、黙り続けている。
「魔素のこと。作り方、使い方。なんでも。あぁ。特別にプライベートなことも答えてあげよう。僕のスリーサイズとか。」
「それはいらねぇよ!気持ち悪いな!!」
「まぁまぁそう遠慮せずに。」
「遠慮じゃねぇ!本心だ!」
突然叫びだしたので疲れたのだろう。レスト君は息を荒くながら、こちらを見る。その瞳は僅かに柔らかかった。
「まぁ、でも。…………ありがとう。……色々、教えてくれ。」
「!あぁ。もちろん!それじゃあ何から知りたいかな。やっぱりまずはウェスト?」
「だからスリーサイズは良いっつってんだろ!?」
レスト君の声がこだまする。先ほどの様子とは変わって元気になったよう何よりだ。




