1.おじさんは絡まれる
広がる草原。ただっ広く何もない緑。それは僕の心の内のようでもあった。何もなく、ただ風邪に揺られ凪いでいる。この草原は僕自身だ。
「おい。」
そう考えるとただの草木も愛着が湧くものだ。何故ならこれらは僕と同一であり、自分が決して孤独でないという証明だから。
「おい!」
歳のせいか、上がらなくなった肩。ぼやけ始めた視界。近ごろは目を細めなければ手元の文字がよく見えないのだ。悲しい。
「おい!聞いてんのかおっさん!」
おまけに近頃は耳も遠く、人の話を聞き返すことが多い。相手も呆れ、ついには何でもないと濁すのだ。悲しい。
「おいこら!!おっさん!調子乗ってんなよ!!!」
瞬間、肩が何かに触れた。何だろうと思い振り返ると、1人の少年がいた。僕より背が高く、青々しい若さを見せる少年だ。
「どうしたんだい少年。道に迷ったのかい?実は僕も迷っているんだ。人生という名の道に…。」
「んなこと知らねぇよ!くせぇこと言ってんだよおっさん!」
「この歳になったら臭いことも言いたくなるのさ。それに、ほら。体臭も臭くなるからね……。」
「だからんなこと知らねぇって!!」
少年は頭をかきながら叫ぶ。中々良い反応をするこの子をおちょくるのは楽しい。
「まぁそう言うなよ。少年。」
「あぁもう!うぜぇな!!俺はんなこと、話したいんじゃねぇよ!いいか!おっさん!このあたり。最近魔族が多いんだ!だからお前みたいなやつ、餌になっちまうぞ!!」
「へぇ。僕を心配してくれたってわけかい?」
「ち、ちげぇよ!良いから早くどっかいけ!じゃあな!」
少年は顔を赤くして走り去っていく。本当に面白いぞこの子は。
「なっ、なんでついてくんだよ!くんな!」
「いやぁ。でもほら。君、面白いから。」
「人を馬鹿にすんなよ!つかおっさんのくせに追いつくのかよ!俺に!!」
そうは言うが、その実、かなりつらい。明日は筋肉痛で動けないかもしれない。が、今、この少年を逃がしてしまったら何となく惜しい。
なので、追いかけることにした。
「は、はぁ。はぁ。はぁ。あ、あり得ねぇ。普通、街まで着いてくるか……?」
「着いてくるだ。実は。」
「あぁもう!何だよお前は!!」
なんだよお前は。そう言えば、自己紹介をしていなかった。この少年についていくことにしたわけなのだから、自己紹介はマストだろう。
「紹介が遅れたね。僕はアリー。見ての通りしがないおじさんだよ。髪が薄れて、脂っこいものも受け付けなくなったしがないおっさんさ。」
「お前の胃袋も髪も知らねぇよ!!」
「それで、君は?」
「お、俺はレスト。」
「まさか素直に答えてくれるとはね。レスト君。君、大丈夫かい?詐欺とかに引っかかっらないかい?」
「余計なお世話だな!お前が答えろって言ったんだろ!?」
少年、もといレスト君は息も絶え絶えになりながら膝をつく。どうやら疲れているようだ。僕のせいか。少し申し訳ない。
レスト君は僕を見上げて言う。
「……………おっさん。俺についてくって、本気で言ってんのか?」
「もちろん。まぁ君が旅をしていたら、の話だけどね。学生だったら付け回すのは忍びないよ。」
「…………………そうかよ。」
立ち上がる。かと思うと、僕に背を向けてしまった。
「宿。この先。ついてくんならいいけど、うるさくすんなよ。」
「さっきから声が大きいのはレスト君だぞ。」
「お前のせいだろ!!」
何はともあれ、旅をしているらしいレスト君についていくことにした。
ひとりで放浪するというのはいかんせん寂しい。旅は道連れ世は情け。ふたりで楽しい旅にするとしよう。




