16.おじさんは取り合いをされる
食事を終えた僕たちはいよいよサーカスの演目を見に、『第3テント』を訪れていた。
『第3テント』は他のテントの中心に位置し、大きさは1番。中に入ると段々と積み重なっているような階段がステージを取り囲んでいる。
僕は折角なので間近でショーを観ようと、1番下に位置するステージに近い席へと座った。
そして、サーカスの幕が開ける。
ステージ端にいる楽器隊が軽快な音楽を鳴らす。拍子に舞台袖から奇抜な衣装を身に着けた人間が軽やかなステップを踏んでやってくる。
見ようによっては滑稽だが、そう思わせないのは観客の目を引きよせるほどの鮮やかな所作のおかげだろう。
色とりどりの人々は中央にあるトランポリンへと飛び移る。そして、そのまま跳ねる跳ねる。
ひとつのトランポリンに2人、3人と、さらに数を増やしていく。しかし、決してぶつかることはない。
言うならば人間型のジャグリングのよう。
「あぁ……やっぱりすごい……。」
思わず掠れた声が出た。
それほどまでに、僕にとって彼等は羨望の眼差しを向けるに相応しい人々なのだ。
いや。相応しいというのは随分な上から目線か。
だがそう形容してしまうほどにも、僕は彼等の存在が好きだ。僕やレスト君やサヤ君、それだけに限らずあらゆる観衆の注目を受けるサーカス団。
僕は彼等が羨ましかった。
「いやぁ。すごかったな!」
気が付けば、いつの間にか演目は終わっていた。
いつだってそうだ。食い入るように見つめる割には、僕は演目中の記憶がない。楽しんでいたはずなのに。
「サーカス団ってのは意外とやるのね。見直したわ。」
「偉そうだなお前!」
「偉いわよ。だって私はお客さんよ?知らないのかしらレスト。お客様ってのはね神なのよ。」
「お前みてぇな横暴な神がいるなら討伐してやるからな。」
「ふん。人間風情が。かかってきなさい。」
「…………いったい2人は何の話をしてるんだい……?」
気が付けばレスト君とサヤ君はよく分からない話をしていた。神がどうとか。呆けていた僕も悪いが、置いてけぼりというのは寂しい。
「おっさん!この神を倒すぞ!」
「出来るかしら。貴方たちに!」
「…………………ごっこ遊びかい……?」
意外にもノリが合うのか、2人は神とそれを倒す人間になりきりあっていた。
「えっと……僕はどうすれば…。」
「おっさんは俺の仲間!」
「いえ!私の仲間にしてあげるわ!特別に!」
両腕が引っ張られる。痛い。
若者2人に取り合いをされるというシチュエーションは嬉しいはずだが、今は訳の分からぬ状況のため、それほど嬉しくない。
「ど、どっちでもいいんじゃないかな…。」
「よくねぇ!」
「よくないわ!」
両サイドから怒号が飛んでくる。
2人の遊びは本気のようだった。




