15.おじさんは食す
僕たちはサーカス団が設営するテントのうち、観光客が足を休められる場所にいた。テント前には『第1テント』と看板がある。
その中は簡易的な休憩場所になっており、細長い椅子とテーブルが並べられている。
底に腰掛け、レスト君が買ってき串焼きを早速頂く。
「うーん。やっぱり串焼きはいいねぇ。」
肉はもちろん、タレが良いのだ。ほどよい塩気と粘り気のある液体。それこそ串焼きに適したタレである。
「ん。中々ね。まぁ私はもっと生焼けのほうがいいけど…。」
「生焼けって腹壊すぞ…?」
「レアって意味よ!レア!それに魔族の肉はそんなに腹なんて壊さないわよ!」
サヤ君はまたレスト君へ食ってかかる。だが、対するレスト君は彼女の言葉に対して驚きを見せた。
「ま、魔族の…肉…?」
「?えぇ。そうよ。」
そういえばレスト君は知らないことが多いのだった。彼の知らないことを僕が教える。この旅はその為でもある。
「サヤ君の言う通り、これは魔族の肉さ。」
「魔族って食えんのかよ…。だって、あの、スライムみてぇなやつとか、つの生えてるやつとかだろ…?」
「うん。それでも食べれるんだ。そもそも魔族も元は人だしね。」
「!?そうなのか!?」
レスト君は声を上げる。拍子に持っていたくし焼きを落としそうになった。
「元は人って言うけれど…魔族の先祖は魔物と交わった奴らよ?正気じゃないわ。少なくとも同じ人だったとは思えないわね。」
「そうは言うけど、生物学的には先祖は一緒さ。」
「まぁ、それはそうだけど……。」
サヤ君は不満げだった。それも無理ない。人が魔族を食すように魔族も人を食す。というか、魔族は人が主食だ。そんな奇妙な食物連鎖をする生き物同士が同じ祖を持つ、とするのは受け入れがたいのかもしれない。
「……………俺はゲテモノ料理を食ってたのか……。」
「ゲテモノだなんて変なこと言うのね。別に、今まで口にしたことぐらいあるでしょう?」
「ね、ねぇよ。」
その返答にからかいすらもない、声がした。
「本当に?」
彼女の顔は真剣そのものだった。
「本当だ。………変なのは自覚してる。」
「………………そう。」
サヤ君は眉をひそめた後、僕の側に来てそっと囁く。
「ねぇ。おじさん。もしかしてレストの奴、記憶喪失とかその類いの…?」
「僕もそう思ったんだけどね。そうではないらしい。」
「そうだよ!記憶喪失じゃねぇ!ただの無知だ!悪かったな!」
どうやら聞こえていたらしい。激しい反論がやってきた。だが、僕としては知らないことは何も問題があるわけではない。
のだが。サヤ君はそうでないらしい。
「へぇ。貴方なぁんにも知らないのねぇ。ふぅん。」
「嫌な言い方だな。忘れんなよ!お前、俺に1回負けたんだからな!」
「なっ!?1回でしょ!それにまぐれよ!まぐれ!」
「試してみるか?」
「はっ!望むところよ!」
2人はすぐに血気盛んな方向へと行ってしまう。これも若さ故か。いずれにせよ、こんなところで大騒ぎを起こしてほしくない。せっかくのサーカスなのだから。
「まぁまぁ2人とも。その辺でッ!?」
「おじさん!」
「おっさん!」
止めようとした矢先、僕の腰はうねりを上げる。再び、ぎっくり腰という名の衝撃がやって来たのだ。
「…………歳食うってのは大変なんだな……。」
「えぇ…。そうみたいね。」
「憐れむのは止してくれよ!!」
歳を取れば良いことだってあるはずだ。そのはずだ。そう思って、僕は若者2人に反論するのだった。




