14.おじさんは痛みに襲われる
「うぅ…。」
僕は腰を抑えていた。ぎっくり腰という名の爆弾が爆発したあと。痛みは最高点を迎えている。
「だ、大丈夫かおっさん…。」
レスト君は僕を支えながら顔を覗き込む。いつもならば、優しいねとからかうのだが、今回はそうもいかない。そんな余裕は毛ほどもないのだ。
「はぁ。ちょっと待ってなさい。」
そう言ってサヤ君はどこかへと行く。
かと思えば、戻ってきた彼女。手には何やら革の袋が。
「はい。これ。これで腰を冷やしなさい。ぎっくり腰には効くと思うわ。」
恐らく水か氷の入った袋を差し出してきた。手に取るとやはり冷たく、気持ちの良い温度だった。
「ありがとう。助かったよサヤ君。」
「べ、別に感謝されるほどのことをしたわけじゃないわよ。」
「お。なんだお前。照れてんのか?」
レスト君の茶化すような声と同時か、ほんの後にサヤ君の飛び蹴りが炸裂した。勿論、行き先はレスト君の脇腹だ。
間一髪、避けたものの、彼女の足が空を切る音は確かに聞こえた。
「あぶねぇな!?いきなり蹴るんじゃねぇよ!」
「うっさいわね!貴方が変なこと言うからでしょ!」
「変じゃねぇよ!照れてんのかって聞いただけだろ!」
「それが変なのよ!誰が!いつ!照れてるようにみえたって!?」
「お前が!さっき!だよ!」
僕の直ぐ側で2人は言い合いをする。参戦をしたかったが、やはり余裕はない。腰の痛みは治まったものの、いつ再びやってくるか分からないからだ。
「ま、まぁまぁ2人と、もッ!?」
「おっさん!」
「おじさん!」
止めにかかろうとした瞬間に、腰の内部がじんじんと痛みだす。じんじん、なんて生易しいものではないが、それ以上の形容は出来なかった。
「と、とにかく座ってろ!もういい歳なんだ!」
「そうよ。安静にしてなさい。」
「…………………その優しさが何故か痛いよ……。」
ずいぶんと年寄り扱いをされてしまった。
僕は自分をおじさんと認識しているが、それほど労られるような歳ではないと思っていたのだ。まだ。
だからこそ、2人の優しさがかえって悲しくなってしまう。
「僕はもう歳なんだね……。」
遠くを見る。空は今日もきれいだ。僕の容体など気にもとめていない様子。
「…………どうすんだ。おっさんがナーバスになっちまったぞ…。」
「どうって…。そうだ。病は気からっていうものね。逆に若者らしく扱ってあげましょう。」
「よし。そうだな。」
2人は何やら内緒話をしていたらしい。
おじさんの僕は入れてくれないらしい。
「おい!腰がいてぇぐらいで落ち込むなよ!まだまだ人生はなげぇだろ!」
「そうよ!貴方なんて若輩者なんだから、早く立ちなさい!」
「…………そうだよね。腰が痛いぐらいでウジウジするなんて情けないよね……早く立たないといけないよね……。でも痛いものは痛いし……。」
「あぁもう!何してもウジウジしてるじゃない!」
痺れを切らしたのか、サヤ君が僕に飛びかかろうとする。彼女は本当にアグレッシブな少女だ。そのエネルギッシュさえも羨ましい。
「どうどう!落ち着けよ!ほらおっさん!なんか美味いもんでも買ってくるからよ!」
「本当かい!?それじゃあ串焼きを頼むよ、5本…いや6本!」
「立ち直り早いわね……。」
サーカス団が設営しているテントのうち、いくつかは観客向けに食事を提供していた。
実はそれも楽しみだったのだ。腰の痛みになんて構っていられない。僕はレスト君が串焼きを買ってくるのを待ちわびておくことにした。




