11.おじさんは面倒くさい
レスト君が泊まる宿の一室。そこには主のレスト君と僕、それから突如襲ってきた少女の3人がいた。
とはいっても、襲いかかってきた少女はレスト君に敗れて床に座り込んでいるのだが。
「さて。レスト君。この子、どうする?」
安牌なのは、ここら一帯の治安を維持している騎士団に受け渡すことだ。
突然襲いかかり、その脚技でこちらを害そうとしてきた。それだけで騎士団に渡す理由は十分だろう。
「どうって…どうもしねぇけど…。」
「「え?」」
思わず僕と少女の声が重なる。
それもそのはず。今、レスト君は言ったのだ。少女を、自身を襲ってきた人間を見逃すと。
「理由を聞いてもいいかい?」
「理由……。だって、こいつ、俺の槍目当てで暴れたんだろ?てことは、他のとこでは暴れねぇし迷惑もかけねぇってことだよな。」
「それはそうかもしれないけれど…。」
だがその言い方では、まるで自分に迷惑をかかる程度ならば許容すると言っているようなものだ。
「うーん。まぁ君がいいなら、僕は構わないよ。」
「そうか。ならこの話はこれで終いだ。」
そうして話を閉じようとした矢先。
黙っていた少女が鋭い声を発する。
「待ちなさいよ。なに、終わらせようとしてるのよ。」
立ち上がり、レスト君へ詰め寄る。しかし、先ほどより殺気は薄れている。
代わりに浮かぶのは屈辱か。
「騎士団に渡さない?私が他に迷惑かけないから?舐めたこと言ってんじゃないわよ。私が迷惑かけない保証は?確証を得られるぐらい、貴方は私のこと知ってるわけ?」
「知らねぇけど…つぅか、お前、騎士団に受け渡されたいのか?」
「違うわよ!でも気に食わないの!私が、そんな価値もないって、言われているみたいで……とにかく腹がたつのよ!!」
「えぇ……。」
敗者であるはずの少女は勢いを増して、レスト君へ食ってかかる。逆に勝者であるはずのレスト君が押されている。
「べ、べつにお前に価値がねぇって言ってるわけじゃねぇけど…」
「じゃあなによ!!」
「なにって……あぁもう!おっさん、助けてくれ!」
急に僕へとお鉢が回ってくる。が、残念ながらレスト君の期待には応えられそうもない。
「すまないね。レスト君。女心と山の天気は僕でも予想がつかないんだ。」
「な、なんじゃそりゃ…。女ってのはめんどくさいんだな…。」
「うん。そうみたいだね。」
「誰が面倒よ!聞こえてるわよ!!」
随分お怒りのようだ。だが、この感情も、少し経てば今日の空模様のように青一色の清々しいものになるかもしれない。
それほどまでに、女心は難儀なのだ。と、思う。
「あー…。もう。じゃあ渡す。お前のこと、騎士団に任せる。」
「な、なんでそうなるのよ!!私、あんなとこ嫌よ!」
「えー!?渡せっつったり、渡すなっつったりめんどくさいなほんと!」
「また言ったわね!面倒って!!」
2人は再び口論を始めた。
ここまでくると息があっているのかもしれない。
若人2人。それも息がぴったり。
その瞬間、僕の脳裏にはとっておきのアイディアが浮かんだ。
「よし。それじゃあ間を取って、この子も旅のメンバーに加えるというのはどうだい?」
「どの間だよ!?」
「おっさんは黙ってなさいよ!!」
「…………そんな。僕のとっておきの善意が……。」
わざとらしく肩を落とす。
すると2人は案外あっけなく引いた。
「べ、べつに俺はおっさんの案が悪いって言ったわけじゃねぇんだ。」
「そうよ!ただ反射的に言葉が出たって言うか…。」
「良いんだ。僕はおっさんで、空気が読めなくて、おまけに肩も上がらなくなってきたからね…。2人がそう言うのも仕方ないよ……。」
「おっさんが一番めんどくせぇな!?」
「……………私より酷いみたいね……。」
部屋の隅で年甲斐もなくいじけながら、蹲ってた姿勢のまま、顔だけをあげる。そして、2人を見る。
「それで、どうするんだい?一緒に来るのかい?」
「……………。」
僕の問いと、レスト君の静かな視線が少女に向く。
少女はしばし目を見開いたあと、言った。
「仕方ないわね。そこまで言うならついて行ってあげるわ。」
「いや。別にどうしてもってわけじゃねぇけど。」
「なっ!?そこは空気読むところでしょ!?」
「そうだそうだ。それじゃあもてないぞレスト君。」
「おっさんは黙ってろ!」
「おじさんは黙ってなさい!!」
若者2人の怒鳴り声が響く。
どうやら僕はすっかり老害になってしまったようだ。




