第197話 第二聖女10
沈黙が落ちる。
誰も出てこない。
でも――
(変わった)
空気だけが、変わる。
さっきまでのざわめきが、少しだけ引く。
役人も、動かない。
止まっている。
(いる)
でも、出てこない。
ボクは視線を奥へ向けた。
建物の影。
人の気配。
でも、姿は見えない。
(ここじゃない)
決めている場所は。
ここじゃない。
「……分かった」
ぽつりと落とす。
役人がこちらを見る。
アデリナ様も。
「ポラリス嬢?」
「ここでやってる」
一拍。
「でも、ここで決めてない」
短く。
役人の表情が、わずかに固まる。
(当たり)
ボクはそれ以上は言わない。
「戻る」
くるりと踵を返す。
「え?」
アデリナ様が一瞬だけ戸惑う。
「追わないのですの?」
「ううん」
首を振る。
「逃げるから」
それだけ。
アデリナ様が、ほんのわずかに目を細めた。
すぐに理解する。
「……そうですわね」
短く頷く。
それで十分。
歩き出す。
人の間を抜ける。
混ざった列は、そのまま。
誰も、もう止めない。
(触った)
線に。
(だから、動く)
ここから。
「ポラリス嬢」
横から声。
「記録、ですわね?」
「うん」
頷く。
「札」
「人」
「時間」
短く並べる。
「全部、残す」
それだけ。
混ざった列は、そのまま。
誰も、もう止めない。
「第一試験と同じですわね」
「うん」
変わらない。
「違うのは」
一拍。
「相手」
それだけ。
通りを抜ける。
光が戻る。
さっきの場所が、少し遠くなる。
でも。
(終わってない)
むしろ。
(始まった)
「ザスキア様に報告しますの?」
アデリナ様。
「する」
短く。
「止まってるって」
一拍。
「選んでるって」
それだけ。
アデリナ様は、少しだけ考える。
「……どう返されるかしら」
「分からない」
正直に。
「でも」
続ける。
「見てる」
あの人は。
ずっと。
神殿の白い塔が見えてくる。
(試験じゃない)
でも。
(試験として出されてる)
ズレている。
でも。
(そのまま進む)
ボクは歩く。
止まらない。
胸元の徽章に、少しだけ触れた。
(次)




