17.【どこまでも強く力を欲する】
「さて、見つかる前に済ませるか・・・」
「あの、何か体術の心得でもあるんですか?」
レリィがアキトの体を眺めてそう尋ねた。
窓枠を掴み取り、難無く侵入をしたアキトの手際と身体能力に驚いたのだろう。
「こっちじゃアスレチックはやってないのか」
アキトの身体能力。それは、幼少から行ってきたアスレチックによるものだった。
田舎生まれ田舎育ちのアキトに、ゲームやラノベは手に入れ難く、店頭に並ぶのも5日は後だった。
その合間、できた遊びはバトミントンとアスレチック。身体能力の向上は必然だった。
「あすれちっく?」
おかしな発音でアスレチックについて聞くレリィに、ああ、と前置きして話し出す。
「体を鍛える楽しい施設。みたいなところだ。」
「変わったところに住んでいたんですね。」
「まぁな」
苦笑いをして歩き出す。
今は、大魔石の情報を手に入れる。そして、陥没の原因を突き止め阻止。みんなまとめて大団円。ではなく、しっかりと悪は裁く。
アワリティアも、マモンも、あの男も、そして
「これ・・・」
「私の昔の部屋です」
「扇子・・・か?」
アキトの手に取った扇子は、開いていた扉のすぐそこに落ちていたものだった。
レリィが瞳を潤ませた。その悲しい感情を、緩和してやる術を、アキトはいま持ち合わせていない。
だから、我慢してもらう。いま、少しの悲痛をこらえれば、それからのレリィの悲しみをぶち壊してやれる。
「レリィ。案内・・・してくれよ」
「・・・はい」
だから、安心させるように、アキトはレリィの手を取った。
忘れてしまったその暖かさ、覚えてしまった孤独の紛らわせ方、それをしっかりと離さない掌で・・・。
ーーーーー
「ここが、ガルド様の部屋です。」
「やっぱ豪華な装飾ばっかだな・・・」
美しい造形のライトに、凹凸のない壁面。金縁に囲まれた輝かしい絵画。全てが美しく、それでいて醜い。
アキトは、躊躇なくその書斎へと踏み入り、机の引き出しを開けた。
1段目は少々の硬化と紙幣。2段目には印鑑のような四角い箱と、おそらく朱肉であるスポンジのような物。そして、1番大きい引き出しには、お約束。
「はぁ」
動かない木の感触に溜息をつき、しゃがんだ体を立たせる。
開かないという意思表示を、首を横に振り行い、その場で瞑目する。
鍵を破壊されたと気付かれず、特殊な器具を使用せず、時間のかからない方法。
「あ・・・」
そして、思い出した。
逆転の発想である。扉があるから部屋があると思う。鍵穴があるから、鍵があると思い込む。
ガルドは、首に鍵を下げていなかった。ガルドの服には、ポケットは見つからなかった。つまり、この家の中に鍵があるか、鍵がないか、のどちらかである。
そして、ガルドの性格を考慮すると、
「なるほど。」
2段目の引き出しを開けた。そして、そのまま引き出しを引き抜いた。
2段目の引き出しがあった空間は、入り口を作った。
3段目の屋根となっていた2段目の引き出しを抜く。すると、
「開いた・・・。」
「・・・すごい」
「そうだろ?」
驚愕に目を丸くするレリィに笑いかけ、3段目に入っていた紙を取り出す。
アキトには理解できない文字の羅列に頭をひねり、レリィに後を託した。
「調査報告書?」
「なんだそりゃ」
箇条書きで記された書類に目を通していくレリィは、美しい声で内容を読み上げる。
「土属性の大魔石であり、特殊な効果をもつ」
「・・・」
「周囲に物体があれば、それを土のマナに変換して大魔石の一部にする。」
「・・・」
「土以外の物は、触れない限り吸収されない。」
「・・・」
「大魔石の一部を液体化させ、ポーションを製造する事ができる。」
「・・・」
「大魔石に溜め込めるマナには限りがある。」
「・・・」
「大魔石が破壊されれば、溜め込んだ土のマナを放出し、そのマナは土になる。」
レリィはよく分かっていない。しかし、アキトはしっかり理解した。
日本で図書館のミステリー小説を読み尽くした挙句、現在3周目のアキトは理解した。
いや、そんな事をしていなくても分かってしまう。
「レリィ。陥没の原因は、やっぱり大魔石だ。」
「なにか、分かったんですか?」
自身の目に見落としがないか考えるレリィに、安心しろと言い聞かせる。
「地下で周囲の物体っていったら、土だろ?」
「はい・・・」
「周囲のものっつっても、土以外は魔石に触んないと吸収されないらしいが、地下は土だらけだ。」
その土を大魔石がどんどん吸収して、大地は薄くなっていく。
「土がなくなれば、」
「か、陥没が起きる?」
今気付いたと顔を青ざめさせるレリィ。
新たな試練は、この事だった。
暴虐の悪魔、マモンを従える強欲の魔石ハンター。アワリティアの強襲。
一太刀の刃で世界を穿つ剣豪、白銀の剣士。
そして、カーミフス村を丸ごと消すほどの大陥没を起こす大魔石、いやそれを引き起こすガルド。
陥没した穴にアワリティアが飛び降りたのは、そのためだったと納得し、さらなる苛立ちをアキトは覚える。
この報告書を読んで、あの魔石の空気に触れれば、村の安全を守れるかなど、わかるはずだ。と、考えて、アキトは気づかない。
ガルドは、その陥没から身を守れる手段があるからこの開発をすると。
「ポーションを作って大魔石の溜め込んだマナを削れば、その分大魔石は大地を削りマナを補充する。」
「陥没の原因は・・・」
「ああ、ガルドってことになる。」
どこまでも卑劣に進むガルド。
どこまでも美しく進むリデア。
どこまでも孤独で進んだレリィ。
どこまでも強欲に生きるアワリティア。
どこまでも被虐的に生きるマモン。
どこまでも鋼のように生きる剣士。
そして、どこまでも弱く、どこまでも足掻き、どこまでも強く在ろうと、どこまでも狡猾に敵を刺すアキト。
孤独の少女と数多の命を巡った闘いが、静かに幕をあげる。
その切って落とされた火蓋に、最弱の少年は求める。その最弱はもとめる。
ーーー力を求める。
ちなみに作者は某死亡系ラノベを4周しました。16巻面白かったです。アニメ2期求む!




