15.【ガルドの片鱗】
「はぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」
金麗の声色が、朝靄の樹林に木霊した。
リデアの驚愕の叫びに耳を塞ぎ、アキトが眉をひそめる。
「ど、どうしたんだよ・・・」
「だ、だって」
興奮、いや驚愕を押さえ込めない瞳が、アキトを見た。そして、リデアが口を開く。
「大魔石がこの村にあるなんて、知らなかったわ。」
溜息をついて、己の失念にリデアが視線を落とした。
肩を落とすリデアにアキトが告げる。
「アワリティアと・・・関係あるんだろ?」
リデアの脱帽の仕方に、それを感じて、思考を伝える。
リデアは額を軽く押さえて、悩ましそうに頷いた。
「アワリティアは、魔石を集める『魔石ハンター』って呼ばれてる。」
「ま、『魔石ハンター』か・・・」
いや、安直な名前ではあるが、それがあの戦闘力を秘め、劣悪なる悪魔を従えているのだから笑えない。
アキトに戦闘力が全くないのも原因だが。
しかし、この村、レリィに聞いた事が正しければ、この村の地下に、アワリティアが現れる可能性が高い。
「ここに危険が及ぶかもしれない・・・か。」
呟いた言葉に、リデアが苦渋の表情を浮かべる。
自身の使命で討伐を依頼された化物が、なんの罪もない人々を手にかける可能性が出てきたのだ。リデアにも思うところがあるのだろう。
声に出さずにアキトがそう思考した。
「ガルド氏に、少し話を聞かないとね。」
「ああ。ここで籠城戦的な事をするかもしれないしな。」
「ぅぅ。」
リデアの声を疑問に思い、アキトがその表情を覗き込む。
リデアもどうやらガルドが苦手らしい。リデアのような少女にまで嫌われるような事を、あの男はしていた。
アキトの心中に、レリィの事がよぎる。
あの景色と、レリィの孤独を見て、救い出すと決心した。どんな方法だろうと。
「とりあえず、宿で昼ご飯食べれるみたいだし、それからでもいいんじゃないか?」
「そ、そうね。」
ーーーーー
「にしても、こんな宿をよくすぐに用意できたな。ガルド・・・氏は。」
並んだ料理を食しながら、素朴な疑問を言ってみる。
それに対するリデアの答えは、意外だった。
「ああ、これは多分、『私達用』なのよ。」
「・・・・・・どういう事?」
『私達用』。
それは、リデア達用に先に用意していたのなら、なんの準備もなく用意できるであろう。
しかし、そうする意味がわからない。
「ここ、アキトは私達以外の客を見た?」
「?そういや、全く見てないな。」
「つまり、そういう事よ」
私達用、他の宿泊客の不在、大魔石の因縁。
アキトの思考回路が導き出した答えは、
「分からん」
「そうかも。私は、これ、経験があるから」
「?」
リデアが語り始める。
「大魔石を興都に献上するかで、もめたって言ったわよね?」
無言で頷いてみせるアキト。
「大魔石があるっていう情報を、村の中で知られて、それを調べられると厄介だから、ここで監視紛いの事をしているのよ」
「厄介?」
「大魔石のがあるっていう情報を興都に伝えられて、大魔石を徴収されたら、この村の商売は、衰退する。」
リデアの圧倒的推理に感心しつつ、少し違うという確信を抱いた。
それは、この村の商売が衰退するというところだ。
おそらく、村の建物を見る限り、住民には最低限の利益しか与えていないのだろう。
ポーションの製造に加わる人々へは、最低限の資金。そして、残った財産をガルドが使う。アキトの予想は、実際当たっている。
「あ」
フォークを刺し、かちゃりと皿にあたる音が響いた。
いつの間にか、昼食を食べ終わっていたらしい。
「それじゃあ、ガルド氏のところへ行きましょうか。」
「ああ。でも、いま居るか確認しようぜ。」
「どうやって?」
まぁ、見てなという意思表示を込めて、人差し指を口の前で立てるアキト。
それを見て、リデアが再び椅子に腰を下ろす。
「リデア、魔法の用意しといて」
「・・・?うん」
一瞬嫌な予感がリデアによぎるが、魔法を発動するのが自分だと認識して、リデアが手中にマナを込める。
一方アキトは、ゆっくりとした歩みで従業員のところへ歩き出す。
「なぁ、少し聞いていいか?」
「なんでしょう?」
老人の従業員に声をかけ、返事をするその男に近寄る。
「いま、ガルド・カーミフスは居るか?」
老人は、一瞬驚愕を顔に出し、それをすぐにおしこめる。
過去、この監視制度に気付いた者はいても、ガルド達のグルであるここの従業員にアポを取る者は、いなかったのだろう。
「申し訳ありません。私は、ただの従業員ですので・・・。」
慌てて繕った作り笑いで、白々しい嘘を吐く。
老人が腕を背中の方へ隠したのを、リデアは見逃さない。
「安心しろ、仕組みは分かった。いま言わないと、俺の独断だが興都に報告する。」
「ぬ・・・ぁ」
全く安心できない事をいい、さらりとリデアを老人の粛清対象から除外させる。
アキトの言葉に戦慄し、老人が覚悟を決めた。
背後から切り抜いたナイフを老人がアキトに突き刺し・・・
「そういう事ね・・・」
金色の魔結晶が、ナイフを粉々に砕いた。
嘘の様に自身の手中を見つめる男に、アキトが笑う。
「俺は魔術を噛んでてな、おとなしく教えろよ。」
リデアの魔法を自身の力に仕立て上げ、アキトが更に老人を脅迫した。
悔しげな老人が言う。
「ガルド様は、今日は大魔石に行っている。」
「そ、ありがとよ。」
何事もなかった様に席に座るアキトに、リデアが呆れた視線を浴びせた。
「いや、ちゃんと聞き出せたから大丈夫。」
「はぁ、」
溜息をつくリデア、その少女にアキトがたずねた。
「さっき、経験があるって言ってたよな。」
監視制度の種明かしの時に、リデアが言っていた事を思い出し、質問する。
この世界は大掛かりな隠蔽工作を日常生活で行なっているのか、それが気になったのだ。
「ええ、私が竜伐だから、大魔石を献上しなかった事に恨みを持ってるんじゃないかってね。」
「なるほど。」
過密なスケジュールの出鼻を挫かれ、リデアとアキトの雑談はしばらく続いた。
午後。暇を持て余すアキトは、遭遇した。
『カーミフス大樹林の悪業』に・・・。
ガルドの悪業が今、暴かれる。
今日はもう1話、19時に投稿します。(少し暇になった今の時期に、ストーリーを進めなければ!)




