14.【聖域と呼んだ場所】
「これは、すげえな」
心の底から感嘆の声をあげ、得意げなレリィに顔を向ける。
「お前が作ったのか?」
「いえ、これはユルド様から頂いたもの。」
アキト達の前にそびえるのは、この村の周りにあるカーミフス大樹林の木々に負けぬ大きさの大樹だった。いや、ただの大樹ではない。
この木には、大人が3人ほど入りそうな小屋が作られている。
それは、さながらツリーハウスだった。
「って、ユルド様っていうと?」
アキトの頭には、一瞬現村長であるガルド・カーミフスの顔が思い浮かんだ。
名前は酷似している。
アキトの中でガルドは嫌な奴という印象が拭えない。
「ユルド様は、ガルド・・・様の実の父親に当たります。」
「父親か・・・」
そして、ユルド・カーミフスの名を初めて聞いたことと、現村長がガルド・カーミフスということをあわせると、おそらくユルド・カーミフスは既に故人だろう。
レリィの顔に一瞬よぎった悲痛の表情が、何よりそれを裏付けている。
「とりあえず、中に入ってください」
「いいのか・・・?」
レリィが自身の聖域とまで呼んだ場所に、出会って1日も経っていない部外者を入れていいのだろうか。
そんな事を思考していると、無言でレリィが入室を促した。
それならば、と大樹に取り付けられた扉を開ける。
中には、上階へ続く螺旋階段が伸びていた。
螺旋階段を登る。そして、その部屋へと足を踏み入れ・・・
「うお・・・」
その高台からの景色に、目を奪われた。
朝日が照りつける世界を見下ろして。そう、太陽のように一点からではなく、全ての空から照らされる朝日。
その景色は、その異世界特有の朝日の刺し方、周りにある木がこの木より低いという環境、中規模の村。この要素が合わさりできていた。
「綺麗でしょう?」
「ああ・・・・・・」
それから、程よい沈黙が流れた。
アキトの心情を察して、レリィは話掛けない。これが話をしないための策だったなら、アキトは見事に術中にはまっていた。
しかし、それは違う。
アキトが少しの名残を惜しみながらレリィを振り返った時、しっかりと少女は話し出す。
「ユルド様は、突然消えました。」
ーーーーー
両親を物心つく前に失った私は、村長だったユルド様に引き取られた。
カーミフス家での日々は楽しかった。息子のガルドは独立して一人暮らしをしていたため、私を軽蔑する人はいなかった。
本当の親子のように私は接した。ユルド様達もそうだった。毎日のようにそう言ってくれた。
両親を得て、良心を得て、その平穏は、2年前、確かな音とともに崩れ去った。
「これがあれば、俺たちの村は唯一の村になる。」
「黙れ、この村を貴様に託すつもりはない・・・!」
「あのクソガキに譲るってか?」
「そうだな、座学に優れ、清い心を持ったレリィならいいかもしれぬ。」
「んだと!」
当時現在とそこまで変わらない年齢の私は、ガルドとユルド様の会話を聞いていた。
このカーミフス村の地下に、重要世界資源『大魔石』が見つかった。
大魔石を媒介にポーションを作り、自身の利益を得ようという者。
大魔石を興都へ献上し、黒竜討伐に役立てようとする者。
前者がガルド派、後者がユルド派として、小さい闘争が起こった。
人数的には圧倒的にユルド様の味方が多かった。しかし、興都献上に村が傾いた時、ユルド様の死亡が伝えられた。
ーーー村長位をガルドに譲るという遺書とともに。
最初は、村も揺れた。でも、ポーションによる安定収入が出始めると、次第に村は落ち着いた。
黒竜討伐甚大な被害という報告に、皆目を背ける事になったが。
そして今、この村はガルドによって回され、私たちのような孤児はガルドの部下として役職につかされた。
ーーーーー
「って事は」
「この村は、ポーションに頼った商談しかしていない」
圧倒的なモノカルチャーでもあるが、あの男によって孤児が労働を強いられるなど、許される事ではない。
疲れて死んでしまいたいという感情を、少しアキトもわかってしまった。
レリィはまだマシで、その刃をガルドに突き立て、自身を滅ぼす者がいれば、それは本当の不幸に他ならない。
「なぁレリィ。」
「なんですか」
「ここに、通ってもいいか?」
「え?」
予想外の切り返しに、動揺して言葉を返した。
「迷惑ならいいんだが、」
「そ、そんな事は・・・」
なぜ、そんなめんどくさい事をするのか。不思議な感情に胸を満たされ、違和感に鼓動が高鳴った。
まっすぐな眼でアキトは言う。
「この景色を毎日見たい。」
まっすぐな心でアキトは言う。
「お前がまた変な事をしないか見たいしな。」
震える声をなんとか隠し、レリィがアキトに言葉を告げた。
「もちろん・・・構いません・・・。」
「ありがとう」
消え入りそうな声で言ったレリィをあえて見ず、アキトは螺旋階段へ向かう。
迷いのない足取りで。
「それじゃあ」
「は・・・い。」
コツリという音が反復し、止まった足音が扉を開く。
アキトの不器用な気遣いに甘え、うずくまった。
レリィの声に浮かんだ涙に、アキトは気付きここを後にした。さっきまで名残惜しそうに見ていた景色を1回も見ずに。
ーーーああ、この感情は安心だ。
流れ出す涙を必死で拭い、レリィは思う。2年間の孤独の海から、アキトはレリィを連れ出そうとしている。
それが頼もしく、安心できて、嬉しかった。
枯れたと思った自身の涙は、アキトによって再び溢れ出した。
数年ぶりの涙は、しばらくの間止まらなかった。
ここでレリィがアキトに惚れるちょろイン展開はしません。(と思う)ここはまだ始まりです。アワリティアVSアキト達にご期待ください。




