夏の日記
太志の夏。
話の繋ぎとネタ蒔きです。
今年の夏。僕は長い長~い夏休み。ゆっくり夏休みなんて・・・・中学2年生以来かな。
夏休みの宿題で、僕にとっていちばん手強かったのは『日記』。普通の庶民の生活で毎日イベントがある訳はないです、かと言ってゴム印で「特記事項無し」という訳にも行かない。あれこれ発掘して捏造しても限度がありました。
このへん、田舎で逃避生活していると余計変化が薄くなると思ったのですが、変な仲間(妖)のからみもあって出来事だらけでした。まあ、日記に書いて提出できるような話ばかりでは無いですが。
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梅雨明け早々に村の世話役さんの所で集会がありました。僕も一応農家扱いなので、集会に参加させられました。今年の梅雨は小雨ばかりで雨量になりませんでした。そのため夏の水不足が心配だそうです。田植えのあと、池の水位が戻っていないので、田へ流す水を絞るかどうかという相談。下の川からポンプで揚水するにしても、最悪の年はその川も干上がるとか。だからうちの前の溜め池が村の命綱だったそうです。え、次の寄り合いは僕の家でやるって? 「池持ち」って、ナニ?
夏休みの定番、ちびたち誘って毎朝ラジオ体操。ちびたちはおもしろがってますが、僕は全然からだが動きません。老化は関節からって。意外なことに珠子さんも毎日参加。曰く『猫って基本早起きなんだよ』って、終わったらすぐにゴロっとなってるけど。陽子さんは『朝から元気だねえ』って言いながらちょっと参加。動きがどことなく体操というよりも拳法っぽいです。
体操といえば、ここ数日ちびたちが熱心に見ているのが体操競技。床運動と跳馬がお気に入りです。陽子さんの所にもテレビはあるのに、なぜか僕の所へ来て見ています。そのあとパソで動画見て研究?してます。跳馬の馬を作って欲しいって言ってます。
家の仕事。炊事と掃除と洗濯と・・・・ これは普段どおりですね。アサガオの観察のかわりに家の前の畑の野菜の世話。今年は雨量が少ないので、気をつけて水やりしなければいけません。スイカは失敗しましたが、キュウリは予想以上の好成績。少しですが農協の直売に出しました。一応これで『農家』です(税金対策上重要)。
勉強。朝のうち、ちびたちは勉強しています。国語と算数は僕が教えてます。そのあと、なんと珠子さんが英会話を。珠子さんって女学校に通っていたんですよね。それにしても流暢です。横で聴いている僕も勉強になります。
午後は工作の時間。前の職場の先輩は「旋盤とフライス盤があれば何でも作れる」って言ってました。何でもっとは行かないけど、うまく組み合わせて使えばけっこうな物が作れます。さらにアタッチメントがあると使いい道が拡がります。機械でアタッチメント作ってこれで機能アップした機械でアタッチメント作って・・・・ ひと工夫してチルトテーブルを作りました。ナイフ作りが楽になります。
今のところ最大の収入源のナイフ作り。半分以上冗談で作ったトゲトゲ装飾過剰の謎剣が非現実的な値段で売れました。おそらくあの武器屋の御近所がフイギュア屋やコスプレショップという立地が関係しているのでしょう。運転資金に余裕ができたので、試しに前の勤め先の関係で知った会社で黒化処理かけてもらいました。謎な形状で訝しがられましたが「ファンタジーな剣」と説明するとおもしろがってくれました。やはり剣と魔法はロマンですよね。
夏休みが終わったらそのまま秋休み・・・というのは悲しいので、職探しは継続中です。僕の経歴が中途半端すぎるからか、正社員どころか常勤の仕事も今のところありません。それでも短期のバイトがひとつありました。ふた駅向こうの町の試作屋さん。『手送りのフライスと旋盤で簡単な加工ができて加工用の図面書ける人』という募集で行くと、レース用バイクの部品だそうですが、打ち合わせもとに簡単な図面起こして1点物を作る仕事でした。形は全然ちがうけど、ナイフ作りと似た工程で面白かったです。打ち合わせから線引いて加工の段取る。機械部品下請けの営業という経歴も役に立ちました。また忙しくなったら声を掛けてくれると言ってくれました。
村内の連絡で、「隣村の川でヌートリアが増え、川沿いの田畑を荒らしているので見かけたら注意」というのがありました。陽子さんは「ヌートリアって何者」と。すっごく大きな鼠のような生物と説明したら、珠子さんは「そいつらなら、ちびたちと水遊びに行って見つけて、もちろん、全滅させたよ。」「だって、鼠だよ!」と。狩り猫なら当然なんだそうですが、獲物を玄関先に並べられなかっただけ良かったのかしら。後始末を尋ねると「あ、食べたかったの?」「腐った屍骸で川が汚れないように、ちゃんと埋めたよ」って。ありがとうございます。
陽子さんは毎週4日午後はケーキ屋さんで仕事。1か月がもう1月伸びて、さらに無期にアップしました。夏休み中は学生が少なくて暇だそうです。逆に子どもが家にいると総菜が売れるらしく、珠子さん(スナおばちゃんの所でバイト)は忙しいようです。珠子さんは夕方から行って、(あれば)売れ残りを持って帰って来てくれます。だから、なんとなく僕のところで夕餉の団欒に。そのまま節約と称して僕の所で風呂に入って帰ります。風呂掃除は僕の担当。
夕方に村のオバ様たちが襲来。夏祭りのお手伝いの事でした。僕の方はあらためて世話役さんが来るらしいです。オバ様たちは陽子さんと珠子さんに関心があった様子。幸い珠子さんとちびたちは留守。浴衣姿の陽子さんがお相手しました。
「あまり喧噪なのは好かないので、良さそうな所を探していたら、ちょうど良い空き屋があるという話を聞いて。
商店街のケーキ屋で働いてるけど。あ、娘さんが私のことを見たって。ありがとうございま~す。
高校生ぐらいの子? ああ珠子ね。そう、惣菜屋の手伝いしてる。そう、あそこ。
珠子とは姉妹ではなくてね。東京で出会って、向こうでも一緒の家を借りていたんでね。そう、シェアハウスって言うやつだね。
あの惣菜屋のおばちゃんと私は昔の知り合いでね。その紹介でこの家に住むことになったんだよ。
ちびっ子たちね。あれ、実は私の親戚の子でね。しばらく私の所で預かっているんだよ。そうだねえ、ここの小学校に通うことになるかもしれないね。
」 陽子さん、さすがにコミュ力高いです。村のおばちゃんと融け合ってます。うまく躱しながら説明になっているところがすごいです。
夏の定番テレビ特集は怪奇物って、うちには妖怪が居着いてますね。昨晩は各地の化け猫にまつわる話。見てて珠子さんが「あっ」て声を出しました。東京の宝飾店の先々代が特注したという招き猫が写ってました。片耳が半分茶で反対耳が半分黒。出演していたのは当代店主で、先々代の奥さんの実家では、何代にもわたってこの姿の三毛猫が娘たちを見守っていたというのです。どうやら珠子さんの話のようでした。
今日は妙にチャラい格好の若い男が、珠子さん尋ねて来ました。「えっと、ボク、山向こうの神社から来たのですが。あ、怪しい宗教の勧誘じゃないです」チラシを1枚出して「これ、珠子様にお渡しください」ってめちっちゃ怪しかったですが、「あ、ボクはすぐのバスで帰らなきゃいけないので」とあわただしく帰って行きました。下の国道を通っているコミュニティバスは1日2往復だから、乗り遅れると遭難します。
チラシは神社のお祭りの案内でした。珠子さんに見せると、茶髪のにいちゃんは「繭神様のお使いね。おそらく化けた猫でしょ」って。珠子さんは繭神の蔵守猫の子孫らしくて、一種のリクルートみたいです。繭神はもともとは養蚕の神様でファッション関連全般にも関わっているそうです。その神様はポップ系衣料担当でょうか。
らいむちゃんがビデオの撮影に来ました。前に撮ってネットに揚げられてたのは『戦え!ねこみメイド(PV)』。今度は本編の撮影だそうです。珠子さんはふりふりメイド服、らいむちゃんはピンクのロリ服。らいむちゃんがお嬢様で珠子さんがそれを守るストーリーのようです。襲うモンスターは、僕が鉄材を溶接して骨格を作って、まわりに藁を括り付けて。そこそこしっかり作ったつもりだったけど、珠子さんの攻撃で完全に破壊されました。編集して冬のイベントで販売するんだそうです。イベントって、年末のアレでしょうか。




