提案
そういうと彼女は俺の方をまっすぐに見つめ、意味ありげな笑みを浮かべた。
しかし、俺はその視線を跳ねのけると、平然と言い放った。
「いやおれ、本当に思い当たるもんないし、特技も何もないんだけど」
「うそ!」
あまりにも俺が堂々とそう答えたからだろうか。
彼女は当てが外れたというように、眼を丸くした。
「いやほんと。部活とかやってないし。成績も悪いし。実は何かの達人、みたいな設定もないし。今もポケットの中も何も持ってないし、ほら」
そう言いながら俺はポケットを軽くたたき、両手を上にあげる。
「本当にそうなのかなぁ……」
彼女は片方の眉を大げさに上げつつ、こちらをチラチラと見てくる。
そしてしばらくぶつぶついいながらスマホを操作した後、ぱっと顔を上げ、明るい声で言った。
「キミ、もう二回もやられてるんだね。なんなら一緒に行こっか!」
「は!?」
突然の提案に、俺は思わず大きな声を上げる。
すると彼女は口元で指を立てて、しーっと、俺の不意の大声を諌める。
確かに、校舎の中には他のライバル達がうろうろしてるんだった。
油断は禁物だ。
「私ひとりじゃ、男子を倒すなんて無理だし、キミも一人よりは二人の方が心強いでしょ?」
俺はしばし考える。
冷静に考えて、一人で行動するよりはチームを組んだ方が有利だろう。
あと、急に裏切られたときのことなどを考えると、男子と組むより、女子と組む方が安全だとも思うし。
なんとなく彼女の性格には危ういところが隠れてるような気はするが……。
「分かった。同盟を結ぼうじゃないか」
「やったぁ!」
俺の答えに対し、小さく飛び上がって喜びを表現する彼女。
こんな態度を見ている限りは、あまり深い思慮がある様に思えない。
が。女子とは恐ろしいものだからな。油断は出来ない。
「とりあえず他の参加者の様子を探るまでは。ってことでいいかな」
「そうだね! 打倒、紀本亮平!」
彼女は一人拳を突き上げ、気合いを入れている。
そして、不意にくるっと振り返ると俺の方にすたすたと歩いてきた。
そしてさっと右手を差し出し、ぱっと手を開く。
一瞬ぎくりとするが、俺も腹を据えて右手を差し出す。
そんな俺の表情を見透かしたかのように、彼女はにんまり笑って言った。
「だーいじょうぶ! 罠とかじゃないよ!」
そして、彼女の小さな手は俺の右手をぎゅっと握りしめた。
俺も彼女の握手を、ほどほどの力で握り返す。
「まあ、その時はその時だ」
「またそんなこと言って。てかキミの手、あったかいね」
思春期以降、女子と手を握ったのってフォークダンス以外では初めてだな。
などと考えていた俺に、その一言。
俺は思わず彼女の眼を見たが、直ぐに逸らして手を離した。
「まあ、緊張して手汗かいてたしな」
そんなしょーもない返しをしながら、あらぬ方向に目をやる。
そのとき俺は、どこかおぼろげに、バス停のあの子。
静守曜子の顔を思い出していた。




