情報
一時的な協力関係を結んだ俺と日種香。
日種香は自分のもつ情報を俺につらつらと教えてくれる。
「紀本亮平」
さっき言った通り。伯父さんが道場やってるだけでなく、お父さんが刀鍛冶師。
なんていうか……剣に染まってる人だ。
一瞬見ただけだったけど、無表情で目が怖かった、この人!
「塚原隼斗」
県立一宮。去年の暮れに柔道の県大会で優勝している。
昔のデータはないから、最近実力をつけてきた選手なんじゃないかな。
なんか画像で見る限り、茶髪でチャラい感じだね。
「静守曜子」
星心女子学園。町の道場で幼いころからずっと弓道をやってるぽくて、大会でも数々の賞をとってる。
現在三段で、部内ではエースだね。
てかすんごい美人! この黒髪ロングの艶とか、羨ましすぎる……。
「漣蒼真」
翠陵高校帰宅部。
……小学校のころに全国模試に名前が一回載ったことを除いて、特に実績はなし。
椅子に座りながらスマホをいじっていた日種香は、くすくすと笑った。
「ほっといてくれよ」
俺はそんな彼女を横目で見ながら、扉の向こうの様子を小窓から確認する。
「西野由佳理」
宮上学園高等学校。
……この子も何か実績があるわけじゃないね。
……あ、読書コンクールで何回か賞をとってるか。
「いまいち選ばれた基準がわからないな」
廊下には人の気配はなく、俺は少し扉から離れて日種香の方に近づいた。
「国原創。……この人、一番不思議。ネット上に全く情報が落ちてないね」
「へえ。おれ以上に取柄のない奴、いるんだな」
俺は日種香の手元を見ながらぼそっと呟いた。
しかし彼女の反応は冷たい。
眼を細めたままスマホの画面を素早く操作し、抑揚のない声で答える。
「ネット上にデータがない学生なんているのかな。どこの学校かぐらいは絶対分かると思ったんだけど」
彼女は少し眉をひそめると、不満そうにスマホの画面を消し、立ち上がった。
「ま、いいか! そろそろ行こ!」
そういいながら扉の方に近づいてくる日種香の表情は、また明るく無邪気な様子に戻っていた。
「行こうって、どこへ」
そんな俺に対し、日種香は再びスマホの画面を開いた。
「ん、それは?」
そこに出ていたのは何かの見取り図。
状況から察するに、それは……。
「ひひ。ここの学校の地図」
「なんでそんな物を!」
思わず身を乗り出す俺をみてニヤリと笑みを浮かべると、彼女はいくつかページをめくる。
するとそこには別の階の見取り図が現れる。
「もちろん、自分で調べながら作ったんだよ」
え、ここに来てからこの短時間で?
その小さな端末で?
「すごいな……」
あまり電子機器に詳しくない俺は、素直に感嘆するばかりだ。
科学技術の発展? 恐るべしである。
「でもまだ全然未完成なんだよね。ってことで!」
彼女はびしっと指を立てると、やや張った声で言った。
「まずはこの学校の地図を作るところから始めましょう! 情報を制するものは世界を制す! だよ!」
「おお。なるほど」
やや温度差のある俺に対し、少し冷やかな目を向けつつも、彼女は意気揚々と歩き始めた。
そして、ぴたっと俺の後ろに立つ。
「じゃあ、お願いね」
「へ?」
「先導して安全を確保するのがキミの仕事!」
まあ……そういうもんかもな。
たしかに軍師は後方で指揮をとるものだ。
前線で戦うのは特に取柄もない奴の役目ですよね。
俺は心の中でそんなことを考えながら、扉の向こうを覗き込む。
そして誰もいないことを確認すると、静かにドアを開けた。
どうやらこの階は特殊教室ばかりのようで、学生が授業を受ける校舎とはまた別の建物の様だ。
「ここは管理棟。三階建てで、一階が職員室と保健室。そして二階が今いる階。三階はまだ未踏破なので……さ、いきましょ!」
そういうと、日種香は少し背伸びをする様にして、俺の肩をぽんと叩いた。




