考察
この子と最初にチームを組んだのはラッキーだったかもしれない。
校舎内でランダムに戦うと考えると、建物の構造を把握しておくことはかなり大事なことだろう。
俺は慎重に歩を進めると、壁にぴたりと身体を寄せて階段の方を警戒する。
そして少し腰を落としながら向こうを窺って、誰もいないことを確認してから、さっと曲がる。
「よし。誰もいないな」
日種香に対して、上階に進むことを促す意味も込めて、小さく呟く俺。
そんな俺の動きを見ながら、日種香はゆっくりとニコニコしながら後ろを付いてくる。
「キミが居てくれると、かなり頼もしいね」
そりゃ、誰かと遭遇したら、まずやられるの俺だしな。
そんなことを思いはしたが口には出さず、苦笑いだけを浮かべておいた。
しかしチームって、一人に比べるとどうしても、音、を出してしまうよな。
これって奇襲戦だと敵に居場所を教えてしまって、すごく不利な気がする……。
三階に上った俺たちはまず左右の部屋の配置を確認し、それから日種香の指示で先に進んでいく。
三階にあるのは音楽室。その隣に美術室。そして多目的教室とかかれた広い教室。
なのだが……。
「ここ、変わってるね」
多目的教室の扉を最初に開けた俺たちの前にあったのは、椅子だけが壁際に積まれた、普通の教室の倍ぐらいのサイズの空間。
そして部屋の中央にある……謎の『岩』。
「明らかにこれだけ浮いてるもんなあ」
俺は一見なんの変哲もない自然石を、ぺたぺたと触りながら言う。
両手を回せばギリギリ届くぐらいで、それほど大きい物ではないが、少し押したぐらいでは動く様子もない。
「……おそらくはこのゲームの開催者側の何かなんだろうけど、今の段階ではわかりっこないわね」
日種香は岩を軽く叩いてみたり、周囲を回って画像を撮ったりしながら呟く。
「まあ、それもそうか」
俺もこの岩の意味を色々と考えてはみたが、これといった考えも浮かばず、ぶらぶらと部屋の中をうろついていた。
「あ」
ふと窓の外に目をやって、俺はあることに気付いた。
「どうかした?」
俺が突然声を発したので、当然日種香は尋ねてくる。
まだ確証があったわけではなかったので少しためらいはしたが、俺は気づいたことを口にした。
「ここ、神社の裏山だ」
「うそ!」
あまりに突拍子もない俺の言葉に、日種香は目を丸くして言う。
だが、俺は漠然と景色を眺めながら、徐々に確信を強めていた。
俺がここにくるきっかけになった須上神社は、『石凪山』というそれほど高くない山の麓に建てられていて……
俺はその山に子供のころからよく登っていた。
「いや本当。山頂から見おろす町の景色、ここと同じだ」
「ほんとに~~?」
日種香はローファーをこつこつと鳴らしながら俺の横に並び、窓の外に向かって目を細めた。
そしておもむろにスマホでその写真を撮る。
「神社の裏山には学校なんてもちろんなかったけど、でもこの景色には見覚えがある」
素早い動きでスマホの画面を操作している日種香を横目に、俺は窓にぴったりとくっついた。
「……確かに、周辺景色からの位置予想だとその可能性はあるみたいね」
「そんなことまでわかるのか!」
俺は日種香の情報処理能力に驚きつつも、そのコメントの内容自体には、やはりという印象を受けた。
「こうやって色々分かってくると、改めてこのゲームが今現実に起こってることなんだって、再確認させられるね」
日種香は窓から入る光に眼鏡を反射させつつ、微かに笑みを浮かべた。
「ん?」
彼女の方から視線を窓の方に戻した俺は、再びあるものに気付く。
「今度は何?」
日種香は再び近づいて来て、俺の目線を追う。
俺が見ていたのは、見下ろす町の景色よりずっと手前。
角度的にはほとんど真下に見える、体育館の渡り廊下だ。
「あの茶髪。塚原ってやつかな」
そこにはさっき静守曜子をかばった俺を倒した男子生徒、塚原隼斗の歩く姿が見えていた。
向こうはまだこちらに気づいていない。
「ホントだ。……画像で見る感じ、間違いないね」
「なんとかしてうまく倒せないだろうか」




