鳥居
謎のゲームに参加する前。
俺は毎朝、片道二十分ほどかけて自転車通学をしていた。
学校は田園風景が住宅地と混在している片田舎の、小高い丘の上にある。
俺の家は新興住宅街の中にある3LDKのマンション。
そこから人通りの多い駅前を抜け、いつも渋滞している広い国道まで出る。
国道に出るとそこにはすぐバス停があり、俺が家を出る時間にはいつも何人かの学生やサラリーマンが立っている。
その中に、彼女は居た。
自分(現在まだ成長中の170cm)よりは、きっと少し低い。
だけど女子にしては長身で、細身。
長くツヤのある黒髪をポニーテールにしており、いつも背筋が真っ直ぐ伸びている。
やや切れ長の目元に、きりっとした太めの眉。
綺麗に手入れの行き届いた髪を風になびかせている。
紺のブレザーに、緑と黄色のストライプのネクタイ。
上着と同色のプリーツスカート、白いハイソックスに黒いローファーというスタイルは、通学路の途中にある有名なお嬢様学校の制服だ。
……今日もいるな。
声をかけるでもなく、ただそう思いながら、俺は彼女の横を通り過ぎる。
それがささやかな喜びであり、苦悩であり、そして日課だった。
もっと言えば、それがあるから毎朝ちゃんと起きて学校に行っている。のかもしれない。
名前も知らない女子。
向こうは時々チラっとこちらを見ることもあるが、その瞬間にこっちが目を逸らしてしまうので、お互い目が合ったことはない。
周りに誰もいなければ軽く声をかけてみよう。
ここ以外の場所で会った時は必ず声をかけよう。
そんなことを考えながら、俺はいつも彼女を後にする。
……とか言いながら、結局なにも行動しないまま、今に至っているわけだが。
―――――――――――――――――
気が付くと、俺は地面にうつ伏せに横たわっていた。
そこは見覚えのある、四つの鳥居のあったゲーム開始の場所だ。
最初の時は細かく気付いてなかったが、そこには石畳がきっちりとひかれている。
四方にそびえる鳥居に向かって四本の参道が伸びている異様な構造だ。
空を見上げても黒い空間以外は何も見えず、外なのか室内なのかもわからない。
ゆっくりと立ち上がって首を回してみるが、頭の痛みなどは全くない。
……たしかにあの時頭を殴られた?
ような感覚があったが……。
しばし考え込んでいると、正面の鳥居の奥から、ゆっくりと何かが近づいて来た。
「む」
思わず体中に緊張が走るが、徐々に近づいてきたそいつの姿は
……土偶の着ぐるみ。
「どぐ丸か……」
「さっそくやられたか」
「ぬ」
うめき声を上げる俺に対し、どぐ丸は和紙を見るように促す。
紀本 亮平 四 二
日種 香 四
塚原 隼斗 三
西野 由佳理 四
静守 曜子 四
漣 蒼真 三 休
国原 創 四
さっきもあったけど、『休』ってのは、いま校舎内にいないってことかな……。
そんなことを考えつつ、俺は呟いた。
「やっぱ、さっきので俺はやられたのか」
「うん。ちなみに木刀で後ろから頭蓋骨をかち割られました」
顔をしかめる俺に対し、どぐ丸の着ぐるみは無表情で言う。
「怖いことさらっと言うなあ。……にしても、この紀本ってやつ強いな」
「基本的に、開始初期の行動にはかなり個人差がある。今時の若者は消極的なことが多いかな」
「まあ死なないと分かれば次からはなんとか……」
「慣れて来ると皆、自分の得意な才能をフルに発揮して面白くなるから、勝負はそれからやな」
俺は和紙を四つに折ると、再び学ランのポケットにそれを入れつつ尋ねた。
「そういやライフは4つって言ってたけど、四回やられたらどうなるんだ?」
「……場合によるな」
「え?」
「まあそろそろ行かないと。ここに居られるのは15分までだよ」
そういうと、どぐ丸は再びもと来た鳥居の中に、足を大きく上げながら歩くコミカルな動きで消えていった。
『場合による』ってなんだよ!
俺は不安な気持ちを抑えきれないまま、特に理由もなく今度は右側の鳥居に入った。




