強襲
「さすがに四対一もなんだし、手伝うよ」
動きを止めた紀本に向かって、にこやかに近づいていくジャージ男。
どうやらこちらの味方と言うわけではないようだ。
やや反応に戸惑うこちらのメンバーの動きは気にも留めず、普通に歩いてくる。
さすがの紀本もどういう風に接すればいいのか、判断に迷っている風に見えた。
「なんだ? アイツ」
やや構えを解いたハヤトは、困惑した表情でその様子を眺めている。
眉を少し寄せている静守曜子は、構えを解く様子はない。
それに対し、日種香は予想外の展開に少しニヤニヤしながら、スマホの動画撮影を回し続けている。
たった一人の紀本ですら、奇襲でやっとだった。
「そこにもう一人加わるのは……」
まずいな。
そう言おうとした瞬間だった。
「うわ!」
国原と思われる学生の叫びが響いた。
「そうくるか!」
ハヤトの声がやや上ずっているのも無理はない。
残り数メートルまで近づいてきたそいつに対し、紀本は問答無用で斬りかかったのだ。
正確に目線の高さに斬りつけられた一閃を、かろうじて仰け反ってかわす男子学生。
「ちょっ!待っ」
両手を前に出して下がるも、問答無用で紀本は斬りかかる。
再びの斬りつけを、今度はなんとかステップでかわす。
その動きは、別に何かの達人のようにはみえないが……。
とはいえ、あの攻撃をなんだかんだで回避しているのはすごいと思う。
しばらく紀本と男子学生の攻防を眺めていた俺たちは、少し気が抜けていたのだろうか。
ふと紀本ともう一人の男子学生から、神経が留守になった瞬間だった。
一瞬姿勢を低くしたかと思うと、紀本は地を這うつむじ風のように急にこちらへ走り込んできた。
それを察知して放たれた静守曜子の矢も、一瞬にして木刀で払いのける。
そうしてなお、その速度は緩まない。
錯覚でそう見えているのかもしれないが、恐ろしいスピードだ。
横から袖をつかもうと手を伸ばすハヤトを体さばきでかわすと、そのまま紀本は静守曜子に迫った。
素早く第二の矢を継ごうとするも、すぐに間に合わないことを悟り、彼女は目を閉じ、これからくるであろう衝撃に覚悟を決めた。
「くそ……!」
走りながら右手を後ろに振りかぶる紀本に向かって、俺は全速力で飛び込んでいった。
俺のその行動を、わずかな目の動きだけで確認する紀本。
先ほど、囮になった俺の目の前でやられたことでも思い出したのだろうか。
それとも静守曜子にはギリギリ木刀が届かないと思ったからだろうか。
振りかざされた木刀は、彼女には当てられることなく振り抜かれ、そのままの勢いを保ったまま……俺の方に投げつけられた。
「え」
真っ直ぐにこちらに飛んでくる木刀は、こちらからは小さな点にしか見えず、それを認識した時点ですでに俺の眼前に到達している。
当たる……!!
「キャ!」
え?
後ろから甲高い声が響いた。
なにが起こったかわからず、俺は呆然と振り返る。
するとそこには、飛んできた木刀が身体をかすめて尻もちをついた日種香の姿があった。
――俺には当たらなかった……のか?
確実に目の前まで飛んで来ていた木刀を、無意識に一瞬でかわしたとは思えない。
――しかし、木刀は確かに俺には命中せずに後ろに抜けていった。
再び前を向いた俺の前には、ハヤトに襟元を抑えつけられている紀本の姿と、地面に倒れこんでいる静守曜子の姿。
紀本はどうやらハヤトに締め技をかけられているようで、気を失ってしまうのは時間の問題だろうか。
俺はいまだに意識のはっきりしないまま、周囲の様子をもう一度確認した。
「当たった様に見えたのに」
すぐ横から声がした。
そこに居たのは……。
さっきまで紀本に攻撃されていた男子学生。
そう、国原と思われるジャージ男だ。
手には紀本が持っていた木刀が拾いあげられている。
その木刀が、ゆっくりと振り上げられ、そして……。




