気配
この学校を戦いのフィールドにしたのは、普通に考えれば『どぐ丸』(の着ぐるみを着た何か)だろうから、その考え方はおそらく正しいだろう。
「てことはなんだ? この岩を全部壊せば、ここから出られるってことか?」
ハヤトが片方の眉を上げながら、やや語気を強めて言葉を振ってくる。
それに対し俺が何かを言おうとする前に、日種香がうーんと唸りながら答えた。
「それか、この学校の存在自体が危うくなるか、だよね……」
「……そんな可能性もありうるのか」
俺は小さく嘆息をつきながら、ぼやくしかなかった。
「とりあえずこれで学校のマッピングは完了!」
なにやらタッチペンでずっと作業をしていた日種香は、そういいながらスマホを誰に見せるでもなく天に掲げた。
「で、結局、西野と国原は見つかってないけど、どうすんだ?」
大げさな身振りで達成感を表現している日種香を横目で見据えつつ、ハヤトはぶっきらぼうに言う。
「まだ行ってないところがあるのかな……?」
静守曜子はややうつむきながら、口元に手を当てて考え込む仕草。
それをぼーっと見つめていた俺は、ふと何かの気配を感じておもむろに振り返った。
は? え?
「あ、紀本」
そこには教室棟の方から平然とすたすた歩いてくる紀本亮平の姿が見えていた。
おもわず名前を口走ってしまうほど、自然な歩き方で近づいて来ている。
一瞬何が起こっているのか理解できなかったが、やがてその状況が呑みこめてくる俺達四人。
「そうくるんだ……。なるほどね」
日種香は眼鏡の位置を軽く直しつつ苦笑いを浮かべた。
「力の抜けた、いい歩き……」
一瞬だけきゅっと眉を寄せると、静守さんは腰に結わえている筒から矢を一本を取り出し、静かに構える。
「これは……やるしかないんだよな?」
誰に問いかけるでもなくハヤトも肩を回し、戦いに備える。
相手が四人いても倒せる、そう考えているのか。
それとも相打ち覚悟でも気にしないつもりなのか。
以前に見た時と同じように無表情で、やや細められた目だけを鋭く光らせながら近づいてくる。
「彼の戦闘能力で残り三つのライフがあれば、仮に途中で相打ちになっても勝機はあるんだよね~……」
日種香は後ずさりしながら小さく呟く。
「彼にとって、一番の問題は飛び道具の曜子ちゃん。次に狙うのは残りライフが二つの、ハヤトとソーマ、かな……」
少しずつ下がりながらも日種香はこの先の展開を考える。
微動だにしない静守曜子。
少しずつすり足で前に進むハヤト。
「一人も倒さずにやられるのは困るはずだから、まずは、矢を回避してすぐに曜子ちゃんを攻撃できる距離まで近づくかな」
そんな俺達の動きを軽く確認しながら、日種香はスマホを動画撮影モードにした。
少しでも多くの情報を収集するという、飽くなき戦略的思考だろうか。
――そして、皆が自分の仕事をする中。
一人、何をするのか決めかねているのが俺だった。
真っ向から立ち向かって敵うはずもない。
かといって誰かがやられてる所に攻撃できるような性格でもない。
あ、でも日種香がさっき、紀本は静守さんの弓を警戒して、最初に攻撃してくるだろうって言ってたから、俺はそれを防げばいいのか。
ということは、まずは静守曜子の斜め前に出て……。
ん?
なんとなく方針がまとまって来たところだったのだが、急に場の空気が変わった。
紀本の歩みが止まったのだ。
――。
「おーい。手伝うよ」
誰?
先ほど紀本が出てきた教室棟の方から、突然今まで見たことのない別の男子学生が現れた。
黒髪で長めのボサボサ髪。
身長は俺と同じか、それよりも少し低いぐらい。
元々なのかどうかは不明だが、にやけた顔付き。
他には特に変わったところはないが、あえていえば、そいつの服装が紺色のジャージに運動靴だということぐらいか。
まるで寝巻のまま抜け出してきたかのようだ。
こいつが……『国原 創』、か?




