境界
「まあとりあえず行ってみよ~!」
ある程度皆の意見が出揃ったあたりで、日種香は握りこぶしを振り上げ、強引に皆の出発を促した。
今までに俺が行った事のある場所は、教室が並んでいる校舎、管理棟。そして体育館だけである。
日種香のスマホに入っている地図をみると、他には運動場。さらにその横にプール。そして学生食堂や部活動の部室などが入った建物、および武道館があるようだ。
教室の数などから考えて、大きくも小さくもない一般的な規模の学校といえるだろう。
「みんなはバラバラに動いていたし、このゲームではスタート地点も他の人とは同じにならないみたいだから、誰とも会ったことがないというのは偶然じゃないと思うんだよね~」
「人が来ないようなところでじっとしてるのかな……」
日種香の言葉に、静守さんは小さく首をかしげながら言う。
「それか人をよけながら絶えず移動してる、とか」
俺はそんなことを言ってはみたものの、この学校の広さでそれはかなり難しい気がした。
「一人二人ならいけるだろうけど、他に6人もいたら無理なんじゃ?」
まあ確かにそうだよな。
ハヤトの言葉に、俺は思わず苦笑いをつくる。
しかし、日種香はふと気がついたように、真顔で小さく呟いた。
「それが無理じゃない、のかもしれないね」
「え?」
俺は思わず訊き返したが、日種香は意地悪そうにニヤリと笑ってその問いには答えず、ドアの取っ手に手をかけた。
「まあ、まずは探検してみましょ」
その言葉を合図に、みなぞろぞろと部屋を出る。
俺は最後に部屋を出る間際、ドアの近くに立ててあった、何箇所かへこんでいる金属バットを手に取り、そっとドアを閉めた。
最初にここにきたばかりの時は、周囲を警戒するあまり探検や調査をする余裕はなかった。
しかし、こうやってじっくりと歩いてみると、いろいろな発見がある。
たとえば、校舎の外。
学校の敷地の外には果てしなく森が広がっているように見えるのだが、そこに入ることはどうやら出来ない様子。
敷地の外側に見えている森は、壁に描かれている絵というか……なんとなく実在しているものではない風に見える。
「ていうかこれ、終わるまで出られないのか? もしかして」
ハヤトの言葉に、全員が神妙な表情になる。
うすうす考えてはいたのだが、こうやって改めて脱出の方法がないことを思うと、段々と恐ろしい空間に閉じ込められたという気がしてくる。
「神さまのお祭りの一環って言ってたけど……」
たしかに最初にそういう説明は受けた。
神々の集会の余興だと。
しかし、今ここで行われていることは、仮想空間とはいえ殺し合いだ。
あまりめでたい行事の一環だとは思えない。
八百万の神々にとって、人間とはどういう存在なのだろうか。
まさかペットや見世物のような扱いだと思いたくはないが。
「まあ、にっぽんの神さまって色々いるからね。祟り神や貧乏神。荒ぶる神なんかもいる。終わればきちんと帰してくれるってことと、ちゃんと願い事を叶えてくれるんなら何でもいいけどね……」
日種香の瞳が眼鏡の奥で鋭くなっている。
俺のいままでの経験によると、これは彼女自身にも明確な回答がない問題を思考しているときの特徴だ。
学校中をうろうろしていて、一番気になるというか、理解不能なものが『岩』である。
以前、管理棟の最上階に丁度ぎりぎり手が回るぐらいの小さな岩があったが、あれと同じようなものが校内には他に七つ、全部で八つあることが分かった。
正門、校舎の最上階、管理棟の最上階、武道館。そして学校の敷地の四隅。
要は等間隔で、学校全体を均等に囲んでいる様な配置だ。
「神社には『杜』という神域があるように、この岩は外界との境界を表しているのかも……」
日種香よりも先に、静守さんが正門の中央にドンと置かれた最後の岩に、そっと触れながら呟いた。




