神事
消えゆく御霊。
呆然とその場に立ち尽くす俺。
そんな俺の背後に、コンコンと堅い皮靴の音が聞こえてきた。
「さすがは曜子ちゃんだね!」
振り向いたところに居たのは、元気よく緑のスカートを翻す日種香。
「剣を振り上げる一瞬。わずかな隙が生まれたから……」
そして、やや目を伏せながら、暗い表情をしている静守曜子の姿。
「いや、でもあの暗幕のわずかな隙間からそれを狙うって、凄すぎない? もっと元気出してよ!」
「放つ瞬間は集中してたから……。でも、今になって、なんだか申し訳なくて……」
対称的な空気を発しつつ、二人の女子高生が俺のそばに集まってきた。
「あー。何とかやったんだな、あいつを」
暗幕をかき分けつつ、ハヤトも壇上に現れる。
俺はヨレヨレ和紙を取り出した。
紀本 亮平 三 三 休
日種 香 三
塚原 隼斗 二 一
西野 由香理 四
静守 曜子 四 二
漣 蒼真 二
国原 創 四
「おお。ついに紀本の数が減った」
達成感が芽生えると同時に、これだけの作戦を練ってようやく倒せた紀本亮平の能力に、今後の不安が募る。
「てか、この展開、読んでたのか?」
満足げな日種香に対して、ハヤトがぶっきらぼうに尋ねた。
その瞬間。
一瞬だけ真顔になった後、いつものように意地悪そうな笑顔を作ると、日種香はシシシと笑った。
「さあ、どうでしょう~」
日種香の言葉に、ハヤトは感心とも呆れたともいえない微妙な表情をつくり、鼻を鳴らした。
誤魔化してはいるが、どうやら日種香は、紀本があの動きをする可能性まで考えていたらしい。
ちょっと……怖いな。
やはり油断はできない。俺の中の警戒心が少しだけ膨らんだ。
―――――――――――――
話は少し過去に遡る。
あれは俺がまだ小二ぐらいの頃だった。
須上神社では、大晦日から元旦にかけ、毎年恒例の神事が行われている。
それは大勢の参拝者に向けて、拝殿の上から餅を撒くというものだ。
大勢の人でごった返している境内でそれを手に入れるのは並大抵のことではない。
だがその餅を掴むことが出来れば、その一年は幸福になれるという、ありがたい行事なのである。
投げられる餅は全部で十個ほど。
周囲を大の大人に囲まれた俺は、必死で手を伸ばし、冷たい夜の空を見上げていた。
一つ、また一つと、餅は大勢の人々の間に吸い込まれて消えてゆく。
こっちに来い!
俺はそう強く祈っていた。
するとその願いが叶ったのか、握りこぶし大ほどの塊、紙に包まれ、赤い紐で縛られた餅が、闇夜の中をすいっと飛んできた。
「来たー!」
俺は大声を出して、全力で手を伸ばした。
しかし周りの大人たちとの身長差は歴然。
俺の手に届く前に餅は誰か知らない人の指にかかる……はずだったのだが。
一瞬指先ではじいたのか。それとも風に流されたのか。
餅は無数に延びる手の間を抜け、まっすぐに俺の掌の中に収まった。
……今となってはほんの些細な幼少期の記憶。
だが俺は今、ふとその時の事を思い出したのだった。




