始動
お決まりの意地悪な笑顔を浮かべつつ言葉を溜める日種香。
口を開こうと息を吸い込んだ瞬間。静守曜子がぽろっと呟いた。
「罠、かしら」
「なんで言っちゃうの曜子ちゃん!」
「ご、ごめんなさい!」
天然な静守曜子に見せ場をつぶされ、頬を膨らませていた日種香。
彼女の作戦は単純だ。
あまり複雑だと臨機応変に対処しづらい。だそうで。
神出鬼没。かつ、発見した相手に対して一瞬の躊躇も見せない紀本亮平。
「彼と真正面からやり合うのは無理。だから体育館に誘い込む」
四人は一旦バラバラになり、二人が体育館の中に隠れる。
そして残りの二人を体育館の周りに配置する。
「外の二人は囮だとばれないよう、ゆっくりと距離をとりながら移動ね」
あとは、体育館の中で、残りの二人が罠を張って待つ。
「私と曜子ちゃんはもちろん中で待つから、ソーマとハヤト。囮作戦頑張ってね!」
作戦のあらましを説明し終わると、日種香は眼鏡をくいっと上げつつ、ニンマリと笑って言った。
管理棟と体育館はかなり近い距離にある。
体育館は長い渡り廊下で校舎とつながっており、その校舎の裏手、少し小高いところに管理棟は建てられている。
ある程度見通しのいい立地だ。
「移動時が一番危険だからね!」
動き始める前に言った、日種香の高い声が耳に残っている。
先に静守曜子。続いて日種香が体育館の中に入るのを確認する。
次に俺とハヤトは順番に体育館の両サイドの定位置へと移動。
そして茂みに隠れ、周囲を窺う。
……ゆっくりと時計回りに移動だったな。
俺は作戦通りに行動を開始する。
作戦前。
待ち構えていても紀本が体育館の方へ来なかったらどうするんだ?
という質問をしていたのだが、日種香の答えはこうだった。
「なんとなく私たちの気配は伝わってると思うんだ。大声ではないけど、会話とかしてるしね。だからほっといても向こうから絶対来る! うん」
さすがの天才軍師さまも、そこまでうまくことが運ぶかな?
と、数分前まではそう思っていたのだが……。
「すごいな、あの娘」
猛然とダッシュしながら、俺は半笑いで呟いていた。
茂みに身をひそめ、移動を開始しようとしてすぐのことだった。
俺は体育館の裏手よりさらに奥、運動場やプールがある方向。
そちらから一人の男子生徒が、ここが一見普通の学校ではないかと思うほどの自然体で、ふらりと歩いてくるのが見えたのだ。
しかも走っている様子などまったくないのに、接近速度が明らかに通常の徒歩より早い。
そして、一見意識から消えてしまいそうなほど無造作な構えで、木刀を右手に下げている。
黒髪の短髪。鋭い目つき。一目でわかった。
……あいつが紀本亮平だ。




