変化
くっそ~! やっぱソウちゃん強えな! 俺の目標は打倒ソウちゃんだぜ!
へっへっへ。ハヤト! いつでもかかってこい! 何度でも受けて立つぜ!
小学生の頃。
俺は数年だけ町の柔道教室に通っていたことがあった。
そこには仲の良い近所の友達がいて、俺たちはいつも切磋琢磨していた気がする。
その頃の俺は、今と違ってなんでもそつなくこなせていた。
学校の成績もトップクラスだったし、運動もそれなりだった。
親に何気なくやらされてた柔道も、そこそこ強かった。
逆にその友達は、何をやってもぱっとせず、俺をライバルというか、憧れの様に思い、いつも付きまとってきていたように思う。
確か……シオヤハヤトだったっけ。
漢字までは覚えていないが、たぶん、塩屋 隼斗だ。
小学校四年生の時、俺が隣の学校に転校してしまってからは、徐々に疎遠になってしまった。
ハヤトの家は内科の開業医で、町ではそこそこの有名人だった。
それに対し、俺の父親は町の信用金庫勤務。しかも係長クラスのしがないサラリーマン。
今思い返せば。
学校では成績もよく、人望もあった(今となってはそう思う)俺に対し、ハヤトの両親はいろいろと良くしてくれていたと思う。
まあ、何をやっても芽の出なかったハヤトが、勉強にも柔道に対しても努力を怠らなかったのは、ひとえに、俺に対するライバル心があったからだと思う。
今、久しぶりに会ったとしても、顔も変わって分からんだろうなあ。
改めてハヤトという名前をみて、ふと俺はそんな当時の事を思い出していた。
――。
そして今。
ここは何故か神社の裏山にある、謎の学校の中。
デスゲームの真っ最中。
俺、静守さん、日種香の三人は、塚原隼斗の前に居た。
「少し話がしたいんだけど、いい?」
「いいも悪いも、この状況じゃどうしようもねーだろ」
場所は管理棟の一階廊下。
日種香の予想通り、多目的教室からもっとも遠いところにあった扉から建物内に入ってきた塚原隼斗は、そこで静守さんの矢に狙われ、身動き取れない状態になっていた。
それほど派手ではないが、柔道少年としては珍しい茶髪。
青いブレザーにグレーのズボン。
ネクタイはせずにカッターシャツの第一ボタンを開けており、そこから黒いTシャツが顔をのぞかせている。
間違いなく、静守さんの前に突然飛び出して(間に割って入った)俺を倒した、あの塚原隼斗だ。
「単刀直入にいうんだけど……同盟組まない?」
「は?」
身構えていた塚原隼斗だったが、どうみても戦えそうにない、可愛らしい眼鏡少女である日種香にそう言われ、明らかに面喰らっていた。
「君を倒した曜子ちゃん。そして君が倒したソーマもすでに同意済みだし。悪い話じゃないと思わない?」
腕を組みながら自信ありげに笑みを浮かべる日種香の横から、おれはタイミングを見計らって数歩前に出る。
「さっきやられたのは俺が無茶をしただけだし、全然気にしてないしな」
そう言いながら自嘲気味に笑ってみせた。
そんな俺の顔を呆然と見つめていた塚原隼斗だったが、何やら急に構えを解き、目を丸くし始める。
「もしかして、ソウちゃん?」
「え?」
予想外の反応に、俺は思わず訊き返す。
「さっきは急だったから気付かなかったけど、やっぱり漣蒼真って……ソウちゃんだったのかよ!」
いや、ちょっと待て。たしかにハヤトって名前はそうだけど、俺の幼馴染は塩屋内科のハヤトであって、お前は塚原だろ?
しかもあの頃の、ちょいデブのハヤトは、今のイケメンのお前とは……。
「全然面影ちがってるけど、もしかして、一緒に道場行ってた、あのハヤト?」
一応聞いてみる。
「ハハ。やっぱりヨウちゃんか! オレだよオレ! ヨウちゃん全然変わってねえし!」
「ちょ、ちょっと何! 私にもわかる様に説明してよ!」
急にフレンドリーなオーラを出しまくる塚原隼斗と俺に対し、日種香は眼をきょろきょろさせながら聞いてくる。
なんとなく場の空気を読んだ静守さんは、構えはそのままで、矢の狙いをそっと斜め下に外している。
「どうやら俺の、幼馴染らしい。……何故か名字が違うけど」
まだ完全には納得していない俺は、やや疑心暗鬼のままそう答える。
「ハハ……。おやじとお袋が離婚してな。今は母方の姓を名乗ってるからな……」
そう答えるハヤトの眼は、なにやら落ち着かない。
「けど、今のオレはあの頃の俺とはだいぶ違うぜ! 柔道だって県大会で優勝したし、成績だって学年でトップテンには入ってる!」
あのハヤトが、こうも変わるとは。
見た目や体格だけでなく、もじもじしていたあの頃からは想像もできない堂々たる態度、そして積極的な性格。
それに引き換え、今の俺は……。
「すげーなハヤト。俺はミド高には入ったものの、勉強もあんまりしてないし、柔道もとっくにやめたんだ」
それを聞いた眼前のハヤトは、一瞬驚いた様な表情をしたが、すぐに元の通り自信ありげな表情に戻って言った。
「そうなのか。まあいいんじゃね? 人それぞれだろうからな! とりあえず俺はやっぱり医学部に入る気だし、柔道でもいけるところまで行く気だぜ」
なにやら複雑な家庭環境がありそうだなハヤトの奴。でも、今のあいつからは、生きる気力みたいなものが迸っている。
だが、一瞬だけ目の奥に浮かんだ俺への感情は……嘲り?
「なんとなく事情は察したよ。じゃあハヤトくん。同盟オッケーだよね?」




