合理
屈託のない笑顔を浮かべる日種香。
「まあ、そりゃそうだが……」
「弱い者同士が協力し、強い人を倒す。合理的でしょ」
日種香の言葉に、静守曜子は眉をひそめる。
「急にそんな事を言われても、私は……」
その当然の反応に、俺は思わずごくりと唾を飲む。
心の中で何かを期待してはいる。
かといってそれを強く推すこともできないという、複雑な感情だ。
「曜子ちゃんにだって、何か大事な願い事があるんじゃないの? だったら勝つために協力し合うのは悪い事ではないんじゃない?」
「それは、そうなのかもしれないけど……。でも皆にもそれはあって、そうすると最後には仲間同士で戦う事に……」
「いいじゃない。強い人をみんなで倒して、最後はチーム内で正々堂々とルールを決めて戦う。その方が優勝できる確率は高くなると思うよ?」
理に叶っている。と、横で聞いていて思う。
しかも、あのにこやかな雰囲気と、無邪気な笑顔でそれを説明するから、つい受け入れてしまう。
なんとなくだが、俺には日種香がこの戦いに選ばれた理由が分かってきた気がする。
「信じて、いいのかな」
静守曜子はひとり言のように呟いた。
その言葉を聞いて、俺の心臓は大きく脈打つ。
改めて考えてみれば、彼女の武器は弓矢。
遠くの敵を倒すにはよいが、近くの敵とは戦えない。
そのためには仲間との信頼関係は重要だ。
「だーいじょうぶ! 漣くんの性格は曜子ちゃんもみたでしょ? そして私と漣くんが今のところ何とかなってることは……心配いらないと思わない?」
眉をひそめて目を伏せていた静守曜子に対し、日種香はにこやかにそう問いかける。
それを聞いて顔を上げた彼女だが、その表情はまだ不安げである。
そんな彼女に対し、俺は思わず言った。
「俺なら、信じてくれていいけど」
「えー? 私だって大丈夫だよ!」
日種香が不満そうに言うのを尻目に、俺は数歩、前に出た。
一瞬弓矢を持った手がぴくっと動くも、静守曜子は意を決したように体勢を変えない。
――今、行かないと。
自らを勇気づけると、俺はそのまま彼女の前まで進んだ。
これだけ近くで静守曜子の顔を見たのは始めてだ。こんな形でこの子と出会うことになるとは。
頭の中ではぐるぐると色んなセリフが回っていたが、その中から俺が選んだ言葉は……。
「本当は三回目だけどね。会ったの」
「え? あ……もしかして、最初に私が射った男の子って……」
「だね。ここにきていきなりだったから、かなり驚いた」
「あの時は、そうするしかないんだと思って……」
二人の空間を作りかけていた俺たちを、日種香は一瞬で現実に引き戻す。
「ほらほら! そこで話し込む前にやることがあるよ!」
そして、俺より先に右手を彼女に向かって差し出す。
「よろしくね、曜子ちゃん。私、日種 香。カオルって呼び捨てでいいよ! で、彼がミナト、漣ヨーイチくん」
「あ……うん。その、なんで日種さんは私の名前を……?」
静守曜子は恐る恐る右手をのばしながら、控えめに言った。
日種香はその手をぱっと取り上げると、両手で包みこみ、にやりと笑う。
「みんなの名前は『どぐ丸』に教えてもらってるでしょ? そこから調べたんだよ」
そう言いながら日種香はスマホの画面を開く。
そこには俺の和紙の様に、参加者全員の名前と数字が浮かんでいた。
皆が全く同じものを貰ってるというわけでもないんだな。
静守曜子はブレザーのポケットから刺繍の付いた手帳を取り出し、俺は学ランのポケットから折れ目がついてヨレヨレになっている和紙を取り出した。
どう考えても俺のだけチャチくないか?
紀本 亮平 四 三
日種 香 三
塚原 隼斗 二 一
西野 由佳理 四
静守 曜子 四 一
漣 蒼真 二
国原 創 四
「あれから変わってはないね。西野さんと国原……くんかな? は、どうも動いている様子がないのよね~」
スマホの光を反射し、日種香の眼鏡が妖しく光る。
「塚原君は積極的に動いてるけどイマイチうまくいってないイメージ。圧倒的に強いのが紀本亮平。そして曜子ちゃん、私、漣くんの同盟が現在成立しました、と」
「まずは紀本亮平を倒すのが先決なんかな、やっぱ」
「そんな状況なんだ、今……」
スマホを覗き込みながらふてぶてしい笑みを浮かべ、嬉々としている日種香。
しばらく考え込んだ後、ぱっと顔を上げると、俺と静守曜子の顔を順番にみつめ、言い放った。
「次は塚原隼斗を同盟に引き込むよ!」
『へ!?』




