緊張
自らに向けられた殺意。
何も言葉を発することのできない俺。
……。
眉をよせて堅い表情を作っていた彼女だったが、やがてふと力を緩めた。
そして、矢の先を下におろす。
「あ。えーっと……」
「おやー? ラッキー」
ようやく息をつき、声を出した俺と日種香。
それに対し、静守曜子はまだ少し強張った表情のまま言った。
「……ここではあんなことは起こらないと思ってた」
「あんなこと?」
静守曜子の言葉に、日種香が素早く反応し、俺の方に顔を向けてくる。
「あー……。さっき、やられそうになってるのを助けた」
事の経過を知りたがる日種香に、俺はやや躊躇いつつも説明を行う。
「へ? 助けた? それで?」
「代わりに俺がやられたっていう」
「ぷぷっ! やっぱりキミ、そういう人なんだね!」
俺の言葉に対し、日種香は口元を押さえて含み笑いをする。
その様子をみていた静守曜子は、ほんの少しだけ表情を緩めて、再び言った。
「でも、もうあんな事、しない方がいいと思う」
「え?」
思わず静守曜子の目を見つめる俺。
物音に反応するネコのように、日種香もぴくっと顔を上げる。
「だって、貴方にだって叶えたい願いがあるのでしょ? けれど、最終的に選ばれるのは一人だけ。だったら……」
「もしかして、わざわざお礼と忠告を言いに来たってこと?」
突然、日種香が意地悪そうな笑顔を作り、言った。
「え? いや、そんなつもりでは……」
そう言いながら、少し目を泳がせる静守曜子。
「でも結果的にはそうなってるよね~」
静守曜子の反応に、日種香はニヤニヤしながら目を細めている。
ずっと緊張状態で何も言えなくなっていた俺は、そこでようやく言葉を発した。
「どう……いたしまして?」
最後を疑問形にしてしまうところに、ダサさが垣間見える。
俺がそのセリフを言ってしまったので、彼女は少し目を伏せながらも、小さく呟くしかない。
「う……ありがとう……」
「何なのキミたち。もしかして元々知り合い?」
相変わらずニヤニヤしながら、日種香が俺と静守曜子を交互に見比べる。
しかし、静守曜子はすぐに真顔になって、言った。
「いえ。初対面……じゃなかった。まだ二回目ね」
うぐ。毎朝見かけて覚えてるのは俺の方だけで、向こうはやっぱり覚えていないのか。
だがそんなことは想定済みだ。俺はあえて何も言わず、彼女の意見を尊重することにした。
「まあ、そんな感じだな……」
きっぱりと言い切る彼女と、やや消沈して呟く俺。
双方を見比べている日種香は、それをどう感じたのか……。
真意を掴ませない彼女の態度に、少し不安は残る。
日種香はしばし上目づかいで静守曜子を見つめる。
しばし考え込むようなしぐさをとると、やがてぽんっと手を打った。
そして言い放つ。
「じゃ、曜子ちゃんも一緒に行こっか」
『え!?』
日種香の言葉に同時に声が出る、俺と静守曜子。
「だって、チームは数が多い方がいいでしょ?」




