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妖精に転生した私は、年上の摂政殿下にめちゃくちゃ甘やかされる  作者: サイ


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44.新しい噂

 翌朝。

「ナノリア様、おはようございます!」

 勢いよく扉が開いて、パウラ が駆け込んできた。

 タウンハウスにいる間はパウラのお世話でって話をしていたけど……なんていうか、うん。

 部活の合宿みたいなノリで起こしに来たな。

「パウラ……? おはよう」

 いつもより元気に見える。もっといつもは脱力系なのに。

 王都に帰って来たからだろうか。

 いつもよりお世話してくれて、一緒に朝食のダイニングへ歩く。

「噂になってますよ」

 ぼそっと言われて、思わず聞き返した。

「噂?」

「はい。街でこんなにだから、国中に回るんじゃないですかね」

「一体何の……?」

 昨日の今日で、アディノスの暴挙が漏れたのだろうか。それはそれでかなり王国の未来が心配だ……。

「王妃様の事です。ナノリア様への仕打ちによって、妖精王がお怒りで……妖精姫が王城を去るって」

「なんで……」

 思っていたこととは違った。

 妖精王の話が出てくるとは思わなかった。

「ロフェリア王国の国民にとって、妖精の事は最大の関心ごとですから」

「あ……そう、なの?」

「巷でナノリア様がどんな風に言われてたか、関心はないかもしれませんが」

 関心なら昔もなかったし、正直今もそんなに……。そもそも私の存在を国民が知ってたんだっていうのも驚きだ。

 パウラのこの言い方だと、あまり印象はよくはなかったんだろうか。

「ナノリア様は毒蛾の妖精だって王妃様が公言していましたから。国王陛下の死がナノリア様のせいじゃないってちゃんと噂になってましたよ」

「ちゃんと、って……」

「ナノリア様を失ったのは……王妃様の誤解が原因だ、王妃様が責め立てなければ、ナノリア様はここに留まっていたかもしれないって」

「そんな——」

「噂が広まるのが早いな」

 低い声がして、見ればブレイクがダイニングの入り口に立っていた。

 いつもの落ち着いた雰囲気で、けれど少しだけ眉が寄っている。

「ブレイク様、おはようございます」

「おはようナノリア。痛いところはないか?」

 昨日色々あったからだろうか。一晩経っても、特に筋肉痛もない。

「大丈夫です」

「……もう街まで広まっているのか」

「あ、はい……私の家のご近所さんの話では」

 パウラは家に帰っていたらしい。

「他には何か言っていたか?」

「いえ。妖精王がお怒りで、妖精姫が王城を去るって話だけです。王妃様が妖精の加護を失わせた、と」

「そんな……」

 私は思わず声を漏らした。

「浮かない顔だな」

 ブレイクがドアを開けてくれて、そのままダイニングの中に入る。

 既に朝食の準備は整っていた。

「これからどこで暮らすにしても、悪い噂は断っておいた方がいい」

「まさか」

 椅子を引いてくれたブレイクの顔を見上げる。ブレイクはいつもの顔だった。

「わざと……?」

「意図的に流したわけではない。止めなかっただけだ」

「そんな、王妃様のせいって……」

 本人はもう内城の奥深くで噂も届かないところにいるけれど。それでも、悪者を作り上げたようで引っかかる。

「……気にする必要はない」

 ブレイクの声は静かで、落ち着いていて、私の心を読んだようだった。

「アディノス殿下の事に関しては、一先ず口止めはしておいた」

 これ以上王家の権威が失墜したら、妖精の加護が弱まっている今とんでもないことになりかねない。

「本来ならすべてを明らかにして、国中で謝罪をしても足りない所なんだ」

「と、とんでもない」

「妃殿下の事だけでも、王家は厳しい目にさらされるだろう。アディノス殿下がこの先どういう道を選ぶのか、見守って……必要とあらば、この話は追って公表してもいいかと思っている」

 そ戸まで言われると、複雑な気持ちだ。

 私は、平穏に、静かに過ごしたい。

 コーンワルドでひっそりと……。

 だからこそ、王妃サフィアに対しても恨み言を言うよりも別れを告げようと思ったんだし。

 ブレイクは私の表情を見て、少しだけ息を吐いた。

「君が気に病むことはないが……そうはいかないか」

「なんていうか……わかりません」

 このもやもやがどういう気持ちなのか、よくわからなかった。

 確かに昨日は別れを告げてすっきりしたと思ったけれど。

「王妃の事を思いやっているのなら、その国民の噂が王妃殿下の耳に入ることはまずないだろう」

 それはわかる。関心もないだろう。

 私は頷いた。

「いずれにせよ、これ以上噂が大きくなる前に王都を離れた方がよさそうだな。今日中に帰り支度を整えよう。ナノリアさえ良ければ」

「はい」

 私はまた頷いた。

 帰る——そう思った瞬間、胸の奥がすこしだけ軽くなった気がした。

 そうだ。ここはもう過去の場所で、ナノリアも妖精虫も、あの王城で死んでしまった。

 その想いを受け継いだと思うのなら、私にできることはもう、自由に生きていくことだけなんだろう。

 アウルラディスが言っていたように、健やかにいる事で国が加護を得られると言うのなら。

 窓の外では、自然豊かなタウンハウスの庭の木々が風に揺れている。

 葉の影が白い壁に揺れて、朝の光が柔らかく反射していた。

 土の景色も素敵だけど、やっぱり、コーンワルドの風が恋しい。

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