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妖精に転生した私は、年上の摂政殿下にめちゃくちゃ甘やかされる  作者: サイ


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34/50

34.惚れこんでいる

 どうやって戻ったか覚えてないけど、気が付けば部屋の中にいた。

「——ですって」

 パウラが何か言ってるのに生返事を返してた。

 ——パチン!

 目の前でパウラが掌を合わせて大きな音が鳴る。

 はっとしてみれば、パウラは手拭いで手を拭っていた。

「あ、すみません。虫が。花について来たみたいで」

「あ……ありがとう」

 ドライフラワーにする花の準備で、拡げて仕分けしてくれていた。

「……そんなにショックでした?」

「え」

「公爵様の結婚」

「や……どうなんだろ。そうかな」

 実際、何にショックを受けているのかは自分でもよくわからなかった。

 パウラは以前からアディノスよりブレイクを推していたし、実際私がブレイクに惹かれてるのを知ってるんだと思う。もう取り繕う必要もないか。

「恋愛の対象外だってのは、分かってたんだよね。……最近特に」

「うーん。公爵様もお年ですしねえ」

「お年って……まだまだ若いと思うけど」

 まあパウラもまだ20くらいだから、彼女からしてもだいぶ年上ではあるけど。

「でも、ナノリア様。よく考えてみてくださいよ。何もない所で転ぶわけないのに手を貸したり、毎日たった2分でたどり着くダイニングまで送迎したり。それって普通ですかね」

「……………」

「子供に対するにしても行きすぎてるって思いますけどねえ」

「……………」

「気があるかないかで言えば、あると思うんですけどねえ」

 私は思わず顔を上げた。

 本当に……?

「——っや、危ない危ない。パウラの口車に乗るところだった。そんな、簡単に言わないでよ」

「口車って……」

 パウラは肩をすくめて、作業に戻った。パチン、パチン、と花の枝を切る。

「でもさっきの会話だって、別に拒絶したわけじゃないじゃないって思いますけど」

「そう? 露ほども、って。なかなかだと思うけど」

「噂を立てるなって事ですよね。公爵様とナノリア様が——なんて話が少しでも上がったら、最近のナノリア様の性格からいうと断れないんじゃないかとか、プレッシャー与えるんじゃないかとか。ていうか普通に怖いですよ。20以上離れたおじさんからの縁談って、普通は——」

「パーウーラー!」

 いくらパウラでも言いすぎだ。

「や、一般論ですよ」

 パウラもさすがに言いすぎたと思ったらしい。

「——すみません。違いますよね。公爵様はそんじょそこらのおじさんじゃないです」

「ブレイク様は——」

 そこで、止まった。

 ブレイク様は——その先が、たくさんありすぎて言えない。思うだけでこんなに胸がいっぱいになるのに。

 パウラは黙って花を束ねながら、ちらりと私を見るから。

「優しいんだよ」

 ぼそりと一言、それしか言えなかった。

「まあ、そうですね。ナノリア様には優しいですね」

 前国王が亡くなった後、ブレイクが摂政についてから、長雨に不作に、地震——このロフェリア王国はかなりの危機に見舞われていた。きっと妖精の加護が減ったからじゃないかと思う。

 それを大きな混乱なく、ブレイクが支えてきた。それってものすごい事だと思う。

 それだけでも尊敬できるのに、一人の男の人としても魅力的で。優しいし、余裕だし、強いし。

 そもそも顔がいい。声もいい。——もう全部いい。

「——あー……」

 パウラが無表情のまま声を上げるから、何かと思って目を向ける。

 何だろうその顔は。もううんざりとまではいかないけど、はいはい、みたいな。

「なに?」

「もういいですよ。分かりました。ナノリア様が惚れこんでるってのは、よくわかりました」

「え、何? 私何か声に出てた?」

「顔に出てます」

 パウラは部屋の鏡を指さした。

「見てみてくださいよ、真っ赤ですよ」

「え……」

 確かに、顔が熱いから、見るまでもないんだろうと思った。


***


 その日、夕食前にブレイクはいつものように私を迎えに来てくれた。

 心なしか、何だか顔が浮かないような。

「……ナノリア、行こうか」

 声も少し硬い。

 ——もしかして、盗み聞きが、ばれた?

 手を差し出されていつものようにその手を取る。

 ブレイクは歩き出し、ついていく。

「……………」

「……………」

 沈黙が重い。

 いつもはブレイクの方から色々と話してくれるのに。

『あの……』

 同時に声を上げて、階段を降りる途中、二人で立ち止まった。

 珍しくブレイクが言い淀んでいる。

「何か、言いかけたか?」

「その……いえ」

 ここで、盗み聞きがばれましたかとか言うのは絶対に墓穴だ。とりあえず相手の出方が知りたい。

 聞いていたかって言われたら、謝ろう。潔く。

「……いや、やはり言わないというのは良くない」

「は」

 心臓が止まりそうになった。

 ——やっぱり聞かれてた!?

 頭の中でぐるぐる考える。心臓の音が聞こえそうだ。

 ブレイクが懐から一通の手紙を取り出した。

「これを見てほしい」

「え……」

 差し出された封筒には、王家の印章。

「これは……」

「アディノス殿下からの手紙だ」

「あ、なんだ……って、え!」

 そっち!

 今まで悩んでたことが吹き飛んだ。

 ブレイクは淡々と続ける。

「ポール以下、王国騎士を拘束している件についてやり取りをしていた。殿下は返せと要求してきた。代わりの騎士を派遣するから、と」

 あの襲撃以降ポールは無事捕まえて、公爵領のどこかに拘禁しているって聞いた。今回私について来た王国騎士も全員、取り調べしながらまだ拘束中だ。

 声は静かだけれど、どこか怒りを抑えているようにも聞こえた。

「……返すんですか?」

「返さない」

 即答だった。

「公爵家に対する明らかな攻撃を看過することはできない。関与していなかった王国騎士に関してはいずれ解放しても良いが、どちらにしてももう王国騎士は不要だ。ナノリアももう王城に戻る気はないだろう?」

 私は小さく頷いた。

 戻る気なんて、もうない。

「追加の王国騎士も不要だと伝えるつもりだ」

 ブレイクは手紙を折りたたみながら言った。

「大事なことだから、直接会って言ってくる」

「……直接?」

「——実は、手紙にはナノリアを早く帰還させるように、という事が書かれていた。

「……………」

 適当にやって、帰ってこい——ここに来る前に確かにそう言われた。

 わざわざ、どうして呼ぶような……。

「あ、もしかして、私のお金」

 私が王城にいた方がいい理由といえば。

「ブレイク様、私の生活費……えっと……」

 何て言っていいのかと思考を巡らせたけど、その必要はなかった。

 ブレイクは私の気にしていることを分かってくれていた。

「ナノリアの生活予算は、コーンワルドにいる間は止めている」

 やっぱり。きっとそれで、日々の生活費が少なくなったからだ。

 今までのように私が王城にいれば、その分お金が自由に使えるから。

 はあ……と、長く重いブレイクのため息が落ちた。

 深刻なその様子に心配になって見上げたけど、目が合うとブレイクはいつものように微笑む。

「——色々と、殿下と話さなくてはいけないことがありそうだ。手紙では難しいだろうから、直接会ってくる」

 ブレイクが王都へ行ってしまう。

 仕方ないと分かっていても、胸に穴が開くような気がした。

「ナノリアがコーンワルドに留まる事も、しっかり伝えてくる」

 だったら。

「私も……」

 思わず声を上げていた。

 頼ってばかりじゃ駄目だ。

「私も、行ってもいいですか」

「ナノリアが? しかし君は、二度と会いたくないと言っていたじゃないか。無理する事はない」

「行きたいんです。お願いします」

 私がコーンワルドに住みたいと言う話なんだから、私が行って直接言わないと。ブレイクが勝手に連れて行って返さない、奪われたなんて言い出されたら大変だ。

 私が行って直接、アディノスに二度と帰らないって言う。

 あいつはきっとまだ私が言いなりになると思ってるだろう。自分に惚れ込んでいるって思って、まだ現実が見えてないだろうから。

 妖精の加護の事、どこまで話すかは決めてないけど……とにかく私の居場所はコーンワルドなんだって、ちゃんと決別したい。

 それができるって、今は思えた。

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