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妖精に転生した私は、年上の摂政殿下にめちゃくちゃ甘やかされる  作者: サイ


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30/50

30.恥ずかしい

 ベッドに潜り込んだまま、私はいっそ寝てしまおうと目を閉じたけど。

 たっぷり寝た後で、再度眠れるわけもない。

 顔から火が出そうで、しばらく動けそうにないけど。朝食の時間は迫って来ていた。

 廊下の向こうでセレナらの声もする。

「リーフェルの量を……減らした方が……」

「でも……ナノリア様が気に入っておられますもの……」

「しかし昨夜の様子を見るに……」

「体への影響は……」

 何やら困ったように相談しながら、準備してくれてるらしい。

 昨日の私の醜態を見ていたらしい。

 ——見られてたんだ。

 そりゃそうか、ブレイクはいつも私の部屋に入る時、ドアを開けているし。私が眠ってしまったのなら、あの後セレナを呼んだんだろう。

 あの後……。

 布団の中でさらに悶えた。

 しばらくすると、控えめなノックがする。

「ナノリア様……起きておられますか?」

 セレナの声だ。

 私は顔だけ出して返事をした。

「……はい」

 そっとドアが開かれる。

「その……お加減は……?」

「昨日の事、覚えてらっしゃいますか」

 口々に言われて、私はベッドから出た。

 心配かけちゃったかな。

「ナノリア様」

 こそ、と枕元にパウラが来る。

 身支度はセレナらに頼むけど、部屋の片づけはパウラが担当してるから基本的には一緒に来る。

 普通下級メイドは顔を出さずに裏方に回るものだから、見知った顔がある方がいいだろうっていう配慮だと思う。

 見ればパウラはなぜか清々しい顔をして、またぐっと親指を立てていた。

「私はいいと思いますよ。あの王子様よりこっちの方が」

 パウラ……小声で言うところはいいけど。私はセレナにみられないようにそれをそっと下ろさせた。

 うんうんと頷いている様子がいつも通り過ぎて、私もちょっと冷静になった。

「そんなつもりじゃなかったんだってば」

 お世話してる子供から突然言い寄られたら、ちょっと……かなり困るだろう。

 困るとか、煩わしいとか思われたら——やだ、どうしよう。結構ショックかも。

「ナノリア様、お花……どうしましょう」

「え?」

「お好きなのは分かっているんですけれど……昨夜、この花の香りで酔っ払ってしまうようだと、ブレイク様からお聞きしたんです」

「じゃあ、どんどん使ったらいいんじゃないですかね」

「パウラ」

 黙っててくれ。

 私が恥ずかしがっているのを、セレナは察してくれてるみたいだ。

「とてもお可愛らしかったのですけれど。酔っ払うということは、体調が心配です。二日酔いなどはないのでしょうか」

「あ、うん。それはなさそう。むしろすっきり」

 ずっと夢見心地でいたいって思うくらいだ。

「でも、そうだね……ふわふわしてるから。あまり酔っ払ってるのも良くない気がする」

 麻薬のようにトリップしちゃったら大変だしね。

「それでは、花を少し減らしましょう」

 セレナはそう言って古い花から下げてくれた。

「公爵様が心配しておられましたもの」

 心臓が跳ねた。

 昨日のことを思い出して、顔がまた熱くなる。

「では、朝食は食べられそうですか?」

 身支度を手伝ってくれるけど、私はできるならこのままちょっとベッドにいたい。

 自省する時間をください。

「——お部屋にお持ちしますね」

 セレナは私の様子を見て、そう決めて出ていってくれた。

 なんて気遣いのある人だろう。



 けれど、しばらくするとまたノックがした。

「ナノリア」

 ブレイクだ。

「入ってもいいか」

 私はすぐには返事ができなくて、固まった。

 けれど沈黙の間も、ブレイクは待ってくれてるみたいだった。いつまでも待たせてはおけない。

「……どうぞ」

 小さく答えると、扉が静かに開いた。

 ブレイクが入ってきて私を見るなり、ほっとしたように息をついた。

「具合が悪いと聞いたが……大丈夫か?」

 その声が優しくて、いたたまれない。

 どんな顔をしてるだろう……見る勇気が出ない。

「……すみません」

「謝ることはない。昨日のことは、リーフェルのせいだろう。妖精王が言うくらいだから、きっと悪いものではないのだろうが……」

「本当に、ご迷惑を——」

「まさか。迷惑なんていう事はない。もっと甘えてくれていいんだ。私を家族と思って……なかなか、前国王陛下のようには思えないだろうが」

 あ、そっちか。

 私は顔を上げてブレイクを見た。昨日は照れて赤くなっていたのに、今はいつもの優しい顔をしている。

 一晩かけて、あれをそういう風に結論付けたんだろう。

 確かに、ナノリアは誰にも甘えられずに来たけど……。

「私、ブレイク様をお父様のようにはみてないです」

「あ、そうだな。すまない」

 がっかりしたような声。

 ああ、そうじゃなくて。

「ブレイク様の事は好きですけど、お父様のよう、という事ではなくて、家族のそれじゃなくて、その……」

 恋愛の好きなんです——いや、ちょっと待って。ブレイクにとって、親戚の子みたいな私からいきなり好きとか言われても困るかな。

 年下すぎて恋愛対象にはなりえないのに。

「分かっている、ありがとう」

 ブレイクはもう結論が出たみたいな言い方になった。何をどう分かってるのか、困った様子もない。

 ああ、伝わったのか伝わっていないのか。伝わったと思っても恥ずかしくてたまらないけど、伝わらなかったとしても、何か悔しい。

 でもまあ、そうよね。

 私がここで本気の告白をしても、子供の憧れだろうとかって、取り合ってくれなさそう。

 はあ。

 思わずため息が漏れた。

 すると、ぽん、と慰めるように頭に手を置かれた。

「花の量を減らすようセレナに言っておいた」

「——あ、はい」

 触れられるだけで、そこからじわりと温かみが伝わってくる。

 ブレイクはベッドのそばに座り、私の顔を覗き込む。

「新しい花は、これまで通り届けてもいいか? ナノリアの喜ぶ顔が見たいんだ」

 その言葉があまりにも優しくて、胸が熱くなる。

 私は布団から少しだけ手を出して、ブレイクの袖をそっとつまんだ。

「……ありがとうございます」

 ブレイクは歯を見せて笑ってくれた。

「では、また」

 そう言って立ち上がると、ブレイクはドアに向かって歩き出した。そして一度だけ振り返る。

「昨日のナノリアは可愛かった。だから、もうあの姿を私以外には見せてはいけないよ」

 私は布団の中で叫びそうになった。

 扉が閉まる音がして、静寂が戻る。

 可愛いって。ブレイクから可愛いって言われると……どうしてこんなに、泣きそうになって叫びたくなって、走り出したくなってしまうんだろう。

 ——どうしよう。ブレイクのことが、ますます好きになってしまう。

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