28.ここにいたい
アウルラディスと別れ、私達は揃って山を降りた。
山の麓から馬車に乗って屋敷に向かう。
「疲れただろう」
ブレイクが私の顔を見てそう言う。彼の方はまったく疲労の色が見えない。荷物をもって山を登って降りているのに、余裕そうだ。
確かに足は痛いし、体力も尽きて今すぐ横になりたいくらいだ。
何より色々な事があって。泣いちゃったりもしたし……。
「はい」
私は素直に頷いた。
「屋敷まで少しあるから、眠ったらどうだ」
ブレイクは自分の横にあったクッションを私の横に置いてくれる。私のところにあったのと合わせて4つ。積み上がって、ふかふかの寝床みたいになる。
「帰ったら、お湯にゆっくり使って、明日はいつまでも眠っているといい」
ここにもたれかかると本当にすぐ眠ってしまいそうだ。
「天幕の綻び……もしかかして、他の領地でも起きるんでしょうか」
「ああ……それは、私も気になっていた。今はまだそういう報告もないが、特に調べたわけでもないからな」
各領地の統治は、基本的には領主である貴族の采配に任せている。領内の事で国の助けを借りたいときには王家へ陳情がなされるが、それも王家との関係性によるだろう。
「だったら、トリスタン様のような病の人が出てくるかもしれないって事ですよね」
「少し積極的に調べるか……」
ぼそりとブレイクが呟いた。
摂政の立場として言っているんだろうか。
借り物の国政を、きっちり回すって並大抵じゃないだろうなと思う。そりゃ、公爵ってだけでそういう事は役割の内なんだろうけど。
やる気出るもんなのかな。私にはよくわからない。
「——まあ、余り気負いすぎないでくれ」
黙って考えていた私をどう思ったのか、ブレイクが気遣うように言ってくれる。
「我が国は、元々が恵まれすぎていたんだ。病が少なく、他国に攻められる事もなく。気候にも恵まれて、繁栄を続けてきた」
陸続きなのにこの国だけが何故か今日まで災害から程遠かった。
あの天幕が本当に妖精によるもので、守られてきたのだろう。
「結果、美術音楽といった遊興の文化は繁栄したが、実用的な文明の発達は、他国に大きく後れを取っている、という面もある」
実用的な、文明。
「人間は逞しいから。病がはやればそれを克服しようと医療が発達するし、戦争が起きれば守りを固くする」
ブレイクはふっと笑った。
「それがいい事か悪い事はかさておき、な。——だから、普通に戻るだけだ。ナノリアが請け負う必要はない」
それでも、数百年受けてた恩恵がなくなるということは、簡単な事ではないはずだ。
調査してみて、他の場所でも綻びが見つかったら……このコーンワルドだけ修復したって、追いつかないんじゃないだろうか。
それに、この事実が伝わればきっとアディノスは許さないだろう。あの王子がどう出るのか、予測がつかないけど。
でも、気休めでもブレイクがそう言ってくれるのはありがたかった。
「あの……」
私は姿勢を正した。
「私……コーンワルドにいたいです」
ブレイクが破顔した。
「決めてくれたのか」
嬉しそうな顔をしてくれると、胸が熱くなる。私は頷いた。
「天幕の事があってもなくても、いたいと思っていたんですけど……ここにいる事で綻びが直るなら、尚更」
居候としてじゃなくて、わけあって滞在できる。
「あ、でも、天幕の事とか、あまり皆には——」
本当に直るのか確信もないし、期待されすぎたら重荷だし。都合いいけど。
「そうだな。私もそれがいいと思っていた」
ふとブレイクが心配そうに私を見る。
「無理はしてないか?」
「その……詳しいことは言えないんですが、アディノス殿下にはできれば二度と会いたくないんです」
「そう、なのか? 本当に……?」
ブレイクが驚いて目を見開いている。
これまでの噂からするとそうだろうな。
何があったのかと聞かれると困ると思ったけど、ブレイクは聞いて来なかった。
「分かった。帰りたくなったらいつでも帰れるようにするから」
「ありがとうございます」
言った。
これで良かったのかとか、色々気になる事はあるけど。
新しい気持ちで、私の居場所はここだと思えるとすごくすっきりひたきがした。
それから屋敷に帰った私たちは、私がコーンワルドに留まることを伝えて。
皆が喜んでくれた。
こうして、私のコーンワルドでの生活が始まった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
歳の差の恋を書きたかったのに、気付けば28話…!
あれ?
これから二人の話にできると思います。
引き続き、お読みいただけますと嬉しいです。
よろしくお願いいたします。




