18.コーンワルドの朝
翌朝、爽やかな朝日と鳥の鳴き声で目が覚めた。
普段は固くて小さめのベッドで寝てるせいか、ふかふかで超快適な寝具のはずなのに、かえって体が痛い。
首を回して肩を回して、ぼきぼきと言わせていたら、そっとノックの音がした。
「はい」
返事をするとセレナらが入ってくる。
「朝の御支度をしてもよろしいでしょうか?」
うわ、呼ばなくても人が来た。しかもすでに用意一式を持っている。
「よく眠れましたか?」
「はい」
顔を洗って、また驚く。わざわざお湯を用意してくれてる。汲みたての清潔なお湯。
さっぱりして、さて着替えようかなと思って、辺りを見渡す。
「昨日の服は——」
脱いでおいた服がそういえばなくなっている。
「あちらは昨日のお召し物ですので」
あ、そうか。普通貴族は二日続けて同じ服を着たりしないのか。
「あのドレスがお気に召されましたか? 申し訳ありません、洗濯に2日を要するので、すぐには同じものは着ていただけないのですが」
あんな繊細そうな生地を洗うのだからそりゃあ時間も手間もとんでもないことになるだろう。
セレナが案内してくれた先には、小さなドアで小部屋につながっていた。クローゼットだったらしい。
「本日のお召し物はこちらからお選びいただけます」
「うわ……ドレスがたくさん……」
小部屋といってもワンルームくらいは優にある。そこに数えきれないほどのドレスと靴と、装飾品色々。
「これも、ルイーナ様が」
「こちらは公爵様のご指示なんです」
「えっ」
「もちろん大奥様も準備はされていたのですが、それに加えて直前で指示が出されまして」
直前で……。
「あ、そう言えば出発前に私、摂政殿下に、ナノリア様の服の数とか、荷物の数を聞かれました。それでですかね」
そう言って入って来たのはパウラだった。いつものメイド服が公爵家のメイド服に変わっている。
出発前というと、一昨日の事じゃないだろうか。そんな、某密林サイトじゃあるまいし。こんなに早くどうやって揃えたんだろう。
「気心の知れたパウラにお世話をしてもらった方がよろしいでしょうか?」
セレナが私とパウラを交互に見た。
パウラが慌てて両手を振る。
「私はこういうすごいドレスの扱いは分からないので、部屋の掃除でもしてます」
そう言ってパウラは慣れた手つきでベッドを整え始めてしまった。
「パウラも移動が大変だったでしょう? ちょっとは休んだらいいのに」
使用人らは荷馬車のようなところに沢山乗って移動するから、揺れるし跳ねるし、全身痛くなるって誰かが言ってるのが聞こえた。
「じっとしてるのは性に合わないんで、大丈夫です」
確かにパウラは強そうだ。疲労の色も見えない。
「本日はどちらにいたしますか?」
どちらに、と言われても。選ぶだけで何分かかるだろう。毎日どころか、朝昼晩着替えても、全部着る事はない量だ。
「多すぎて、どれがどれやら……」
よくわからないので、もう全てセレナに任せることにした。
支度が終わって朝食を摂りにダイニングへ行くと、ちょうどブレイクが廊下の向こうからやってくるところだった。
朝からシャワーを浴びたようで、髪が少し濡れている。
水も滴るいい男だ。黒い髪が濡れると少し伸びて見えて、昨日より若く見える。
「私もシャワーを浴びるべきだったかな」
貴族にはそういう風習が、と思ったら、違うらしい。
セレナがそっと教えてくれた。
「公爵様は早朝訓練に出られて、汗を流されてますので」
あ、なるほど。私が寝ている間に既に一仕事終えている、と。
「やあ、おはよう、ナノリア」
「おはようございます」
「不便はなかったか? 夜はよく眠れたか」
「はい、一度も目覚めず。あの……服がたくさん……ありがとうございます」
ブレイクはふっと目を細めた。
「昨日の黄色いドレスも良かったが、今日の赤いドレスも良く似合っている。ナノリアは肌が白いから、何を着ても似合うな」
「あ、ありがとうございます……」
ああ、またそんなことを言って。じっと見つめながら言われると、どうしても顔に熱が集中する。
「サイズは大丈夫そうだな。また別の服も着て見せてくれ」
この感じは、アレだな。親戚の子供に服を買って帰ったおじさんみたいな。
子供扱いされるのにもちょっと慣れてきた。
「サイズ、よく分かりましたね……」
「目算だし急拵えだから、融通のきくデザインしかないんだ。一度採寸に行くのもいいかもしれないな」
目算で女性のサイズがわかるなんて……経験豊富でいらっしゃるのかしら。年の功ってやつか。
「あの、そんなにたくさんは、滞在中に着れないかと」
「気に入ったものがあれば持って帰ったらいい」
「えっ、いえいえ」
あんな高価そうなもの、とても受け取れない。
アディノスにすぐに取り上げられてしまいそうだし。
私は首を振った。
「君のために作らせたものだから、置いていても仕方ないんだ」
確かに、このドレスも他も、全て背中に羽を出す切れ目が開いている。破いたんじゃなくて、ちゃんと綺麗に、自然に。
それでますます恐縮してしまうんだけど。
「言っただろう? 公爵領にいる間は、不自由はさせないと。幸い、うちは財政にかなり余裕がある。気にせず、欲しいものがあったら言ってくれ」
「じ、じゅうぶんです」
「欲がないんだな」
ふむ、とブレイクは腕を組んだ。
「まあ、まずは食事にしよう。——グレアムス」
「は」
そうして指示がされて、朝食が始まった。




