表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
8/10

知る

珈琲の匂いが鼻をかすめる。

あぁまた戻った。

俺はパソコンの時間を見る。

また同じ事の繰り返しだ。


一体どうすれば、

くり返しを止められるのだろうか。

どうしたら、

害雷から、二人を守れるのだろうか。


「珈琲熱いうちに飲めよ」

桜井が言った。


「ミルクと砂糖はないのか?」


「珍しいな」


「あぁ。少しは甘いもの、マイルドなものもいいだろう」


「変わったな。少し待て、取ってくる」



「ほら」


「ありがとう」


俺はミルクと砂糖を入れる。


「うん?これはミルクじゃないな」


「あぁ植物性の油でできてるミルク風のだ」


「本当のミルクはないのか?」


「長期保存が効かないからな」


俺は一口飲む。


「なるほど、生クリームの雰囲気を再現しているのか」


「そうだな。きっと生クリームの成分を分析し、それを長期保存に適し、かつコストの安いモノに替えたのだろう」


「なるほど。知るという事か……」


「そうだな。我々は学者だ、知るというのが、一番大切な人種だ」


「桜井、調査してもらいたいことがある」


「なんだ」


「実は……」


一週間後――――


「これが調査結果だ」


「すまん」


俺は調査結果に目を通す。


ーーーーーーーーーーー

斑鳩翠明の調査報告書

・学業:成績は学年でも最下位に近く、常に補習の対象

・友人関係:小学1年~現在まで クラス行事などで、最低限の会話はするが、学校帰りに遊びにいくような友人関係は確認できなかった。

・教師の評価:不良というわけではないですが、人間関係を作るのが苦手なようでした。ただイジメの対象になっていたという事でもなく、人と距離を作るタイプの生徒でした。

ーーーーーーーーーーー


「桜井、お前はこのレポートを読んだか?」


「あぁ」


「どう思う?」


「どうって……」


「翠明は、”友達もいたんだよ””テストも頑張ったんだよ”そう言った」


「あぁ言ったな。それがどうした?」


「あれはウソだったのか?」


「いや……。

ウソとも言えないだろう。

最低限の会話をしただけでも、友達だと認識することはある。

それに、テストも頑張ったと言っただけで、成績が良かったとは言ってはいない」


「そうか……、

言葉というのは、案外とイメージだけで、都合のよい解釈をしているものだな」


「なぁ桜井。人はなぜ戦う?」


「敵がいるからじゃないのか?」


「そういう意味じゃない。敵がいても戦わない奴もいるだろう」


「そうだな。好戦的だとか?」


「美祝は好戦的だと思うか?」


「いや思わない」


「では何だ。なぜ美祝は戦う」


「お前を、世界を守りたいからじゃないのか?」


「つまり、戦いたくない人も、守りたいものがあれば戦うと」


「うーん。どうかな。守りたいものがあっても、恐怖が強すぎると、戦いを拒む」


「もう一つ。一度戦って勝った、しかしその後精神的に壊れる。なぜだ?」


「勝ったのに壊れる理由か……。負荷が強すぎたんじゃないか」


負荷か……

どうやれば、負荷は下がる?

いや……、

負荷を下げれば良いという問題じゃないな。

なんだ……、

守りたいという欲求か。


「なぁ人間関係が希薄な人間が、人を守りたいという感情が強くなるか?」


「難しいだろうな」


「そうだな」


俺はまったく答えが見つからなかった。

ただわかっていたのは、今の俺の力では、この難局をクリアできないという事だけだった。


「桜井。

美明の墓参りがしたい。

美祝と翠明と共に、

手配してくれないか?」


「わかった。では明日行けるように手配しよう」


「すまん」


……


「父さん。母さんのお墓に行くって」

美祝は言った。


「あぁ、付き合ってくれ」


「父さん。準備ができたよ」

翠明は言った。


「じゃあ行こう」


俺たちは研究所のヘリで、美明の墓近くのヘリポートまで向かう。

そこからは、軍の護衛のもと、墓に向かった。


「研究所を出たの久しぶりね」

美祝は呟いた。


そうか……、

何年も研究所に閉じこもりっきりか。


「辛い立場にさせてしまったな」


「いいのよ。

父さんも桜井さんも、他の皆も、どこへも出かけていない。

皆研究所の中で生活してるでしょ」


「父さんも姉さんも、ずっとあそこで生活してるんだよね」


「翠明は、いろいろな場所へ行ったか?」


「行ったよ。遠足にも行った。修学旅行にも行った」


「修学旅行はどこに行ったの?」

美祝は興味深そうに聞いた。


「雪山にスキーをしに行った」


「ねぇ翠明。スキーって何?」


「スキーというのは、板に乗って、雪山をすべり落ちる遊びだよ」


「なにそれ。雪山に昇るの?そしてすべるの?何が楽しいの?」


「僕もはじめはそう思ったんだ。でもすべってみると、ちょっと怖くて、でもスリルがあって楽しいんだ」


「へぇ。そうなんだ。私もやってみたいな」

美祝は呟いた。


「運転手さん。この辺でスキーができるところはないか?」


「今の時期、雪がないですからね。ただグラススキーでよければ、近くにスキー場がありますよ」


「墓参りの後、それを手配できるか?」


「はい。手配いたします」


「美祝。スキーは雪の上でやるものだが、グラススキーという、スキーと同じ場所で、同じように遊べるものがある。それをやりに行こう」


「父さんありがとう」


「翠明、姉さんに教えてあげられるか?」


「そんな僕、ヘタクソだよ」


「俺もスキーをしたことがないんだ」


「父さんもなの?」

美祝はうれしそうだ。


「あぁ。気にはなっていたんだが、やったことはない」


「じゃあ、僕が少しだけ教えるよ」

翠明は嬉しそうに言った。


……

俺たちは墓のある寺についた。

住職に案内される。

墓には、美明の母親もいた。


「お祖母ちゃん。ひさしぶり」

翠明は手を振る。


美明の母親は、微笑み返す。


「御無沙汰しております。こちらは娘の美祝です」

俺は言った。


美祝は会釈をする。


「まぁ。美明の若い頃にそっくりだわ。初めまして、あなたのお祖母ちゃんよ」

美明の母親はかがみ込み、美祝と視線を合わせる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ