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遺跡の上に作られる建設物

私は念のために検査入院をした美明を見に行く。


美明は思いのほか元気そうだった。

「考えてみれば、

世の中の全てのものが解明されているわけじゃないわ。

私があなたの事を好きになった理由も、説明できないし。

まぁお腹が大きくなった理由は、説明できるけどね」


「お腹が大きくなったって、まさか……」


「うん。時期的に花火大会の晩かな」


「そうか。いつ知った?」


「今回の検査入院で」


「そうか。どうする?」


「どうしたい?」


「俺は父親という者がよくわからん。ただムスッとして、眉間に皺を寄せ、あまり言葉を話さなかった」


「誰かが言ってた。親というのは、役割なんだって。大学で言うと、准教授、教授、学長みたいなものよ」


「そうか。それなら出来そうだ」


「籍は?」


「君は斑鳩いかるが姓では、なくなるのだぞ」


「いいわよ。舎利弗とどろきって名前も面白いわ」


「そうか。じゃあ、明日役所に行ってこよう。両親には?」


「黙っておきましょ。授かり婚だなんて、言えないわ」


そんなやり取りで、美明は妻になった。


石室と棺は当初、国立の研究所に移送するという案が出ていたが、

財団と軍から、この上に研究所を建設しようという事になった。


莫大な予算が組まれ、交通の便も悪い片田舎に巨大な研究所が建設される。

俺はその研究所の所長、美明と桜井は副所長を務めることとなった。


研究は、

基本的に財団や軍部から送られる指針に沿って行われた。

自分達がやりたい研究というより、クライアントの意向通り行われる調査と言ったほうが良いだろう。


しかし研究は進まない。

厳密には進まないというより、調査結果を報告するだけで、その調査結果に面白い発見がないのだ。

俺は疑問を感じていた。

なぜこんな何の結果も生まない調査を進めるのか。

基礎研究の大切さは理解できるし、否定するつもりはない。

しかし、財団、軍部が一枚噛むというのは、理由があるはずだ。


そんなある時、一歳になった息子と娘を、美明が研究室に連れてきた。

研究所に併設された託児所が、一斉点検という事で、研究室に連れてこざるを得なかったからだ。


細菌は見つからず、感染症の恐れもないと判断し、半年ほど前から、俺たちも防護服なしで調査をしている。


それに棺は長年何の反応も見せず、いつしか研究員達は作業台代わりに使うことさえあった。


あと両親の職場を見せておきたかったという気持ちが美明にあったのだろう。


大人しくしている息子翠明すいめいに対して、元気な娘美祝みのりは桜井にちょっかいを出す。


始めは、そのちょっかいに、温厚に答えていた桜井。

しかし、美祝が背中を押したことで、ボールペンがすべり、書類を書き直すことになった。


「ここでお利口にしててね」

桜井が娘の美祝みのりに、棺の上に座らせようと棺の上に乗せた瞬間、

美祝は棺の中に吸い込まれそうになった。

桜井が驚いて引き上げ、何事もなかったが、

その一件以来、棺と共に美祝は調査対象となってしまった。


俺は抗議をしたが、聞き入れられる事はなかった。


家族を守るためにも、俺は組織に忠実でいるしかなかった。


桜井は何度も謝ったが、元はと言えば、美祝の撒いた種。

桜井を責める事はできなかった。


それから二年後、

美明は、俺に別れを告げた。


「わかってるでしょ」

そう言われた。


「あぁ」

そう返すしかなかった。


俺たちは離婚した。

娘は俺、

息子は美明が育てる事で、決着がついた。


美明は、研究所も退所した。

財団から数億円もの退職金が出たそうだ。


「口止め料だわ」

美明はそう言っていた。


美明は実家に戻った。


実家では何も言われず、歓迎されたそうだ。

傾きかけていた家業が、離婚が決定し、実家に戻ることが決まった直後、大手の商社に多額の資金で買収された。

そう言っていた。


美明は何か言いたげだったが、

「そうか」

としか言えなかった。


……


離婚から二年が過ぎた頃、

とある国の遺跡調査を依頼された。

メンバーは研究所の若手を十人ほど。

桜井はそのまま残り、

美祝は幼く、抵抗力も弱いという理由で、遺跡調査には同行できないと言われた。


「美祝はしっかり見ておく」

桜井の言葉を信じて、俺は遺跡調査を行った。

半年かけたが、何も見つからなかった。


半年後、俺は帰国する。

美祝に会いに行くと、まるで別人のように変わっていた。

明るく元気な姿はなく、

陰鬱な表情、真っ黒だった髪の毛は、真っ白に変わり果てていた。


「どうした?」

と聞いても何も答えない。


桜井に聞いても、

「別に何もない」

としか答えなかった。


「別に何もないじゃないだろう。あんなに元気だったのに……」

そう言っても、

桜井も何も答えなかった。


そして桜井も目が虚ろだった。


……

ある日、

俺と桜井、美祝は軍部の人間に呼ばれた。

男は東と名乗った。

東を中央にその横に二人の兵士が立つ。

服装と威厳から、

明らかに上層部の人間だと理解した。


モニターに、いなびかりのようなモノに包まれる、黒っぽい魔物のようなものが見える。


俺は、

自らの質問を止めようと決意した。

「情報を持つことが常に正しいとは思わないで」

美明の言葉を思い出したのだ。


「これは害雷がいらい生物を喰らう魔物。世界の敵だ」


沈黙

誰も声を発しない。


「この魔物には通常兵器はあまり役に立たない」


重苦しい空気が流れる。

兵士の額に、

うっすらと光が見える。


巨火子おおかみは害雷を喰らう捕食者だ」


映像が流れる。

黒い狼のようなモノが、害雷を喰らう姿が映し出される。


桜井と美祝は、

震え怯えている。


舎利弗金剛とどろきたける!お前を巨火子団長官に任ずる。

桜井! お前を巨火子団副長官に任ずる。

そして舎利弗美祝みのり!お前を巨火子の操縦種に任ずる」

そう東は言った。


「ちょっと待ってくれ。どういう事だ。なぜ美祝が操縦を。それより、あれは石棺だ」


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