◆2 送信された検死調書の写し
■■様(インク滲みにより判読不可)
拝啓
前略失礼致します。
ご要望の御座いました書類の写しが手に入りましたので、早速お送り致します。
ご存知の事とは思いますが、当書類は部外秘です。
お電話でも申し上げましたが、決して外部に洩れない様にお願い致します。
情報機関は勿論の事、法廷等での使用も厳禁です。
一読されましたら、早々に処分する様、お願い致します。
追記
インクの滲みにより、一部の名称等、判読の難しい箇所があります。
何度コピーし直しても、何故か直りません。
自署は証拠になってしまうので、加筆せず、このまま送信致します。
今後も貴方とは良い関係が保てます事、心の底から信じております。
◆◆◆
■■年■月■日(インク滲みにより判読不可)
埼玉県警察署 司法警察員 上城田 悟志
本職は、埼玉県検察庁検察官の指揮により、下記の通り変死者又は変死の疑いのある死体の検視をした。
記
申告者 ■■■■■(判読不可。以下略)
死者
住所 埼玉県 ■■■■■■■
職業 1号警備(県内商業施設勤務)
氏名 ■■■■
年齢 ■■歳 男性
着衣 当該商業施設の警備員用制服
発見日時 ■月■日 午前三時前後
発見者 同僚の警備員。同日、同時間帯勤務
発見者の氏名 ■■■■
発見状況 状況報告者■■氏(同上)
死亡男性の当日の行動
当日、午前2時15分頃、商業施設の防災センター警備室にある警報盤より深夜発報あり。(熱源感知式センサーによる警報)
男性が確認の為に現場へ向かう。
現場到着後直、変な音がするという内容の無線連絡を警備室に残っていた■■氏(発見者と同一)が受ける。
途中から無線連絡が途絶えた事を不審に思い、■■氏が現場に赴いたところ、男性が倒れているのを発見。
警察に通報。
無線応答が止まった時刻は2時45分前後。(■■氏の申告より)
死亡者所持品
二輪免許証、定期券、携帯電話、財布、鍵。
所持金 6725円
無線機、警棒、懐中電灯、鍵束、その他、当該施設より支給品。
懐中電灯と無線機の一部破損。
懐中電灯は使用不可。無線機は稼働した。
検視時死体状況
◆全身所見
皮膚 白色、一部青紫(寸法詳細は添付写真に加筆)。
高度気胸あり。
死斑、背面に集中。
右側頭部に内出血痕。
まぶた裏側に溢血点。
鼻粘膜、口腔内に出血痕。口腔内壁と舌下に泥の様な物が付着。
鼻下、唇に強い圧迫痕(部位写真添付)。
上顎骨微細骨折。(レントゲン写真添付)。
耳周辺に裂傷多数。両耳内より出血多量。
内耳確認の為、解剖。所見は後述。
両側腹部に強い圧迫痕2ヵ所。内出血あり。
右脚部踝、腰部右側面、右上腕部、及び右掌に擦過痕。
右手首骨折(レントゲン写真添付)。
左手首に強い圧迫痕(部位写真添付)。
左手人差し指、中指、薬指の爪三枚が剥落。
左手中指の先端からMP関節の手前まで、血液、体液付着(本人のもの)。
◆各部位写真詳細
右手首骨折。
外傷性、竹節状。
手を突いた時に出来たものと思われる。
左手首の圧迫痕。
他者のものと思われる右掌痕。
大きさ
中指先端〜手首母指球筋まで約13cm。
横幅 約7cm
男性の左手首を、右掌全体で掴む形状に強く圧迫。
上顎骨微細骨折、及び、鼻下圧迫痕。
他者のものと思われる左掌痕。
大きさ
中指先端〜手首母指球筋まで約13cm。
横幅 約7cm
男性の鼻下から口元全体を、拡げた掌で覆う形状。
◆外耳〜内耳の解剖所見
右耳
右鼓膜破損 右耳骨含む内耳複数ヵ所亀裂骨折。
強い衝撃によるものと思われる。
左耳
左耳介(耳全体)剥落
左外耳道内部 裂傷多数。
左耳道内に男性本人のものと思われる爪を三枚確認。
爪は左耳鼓膜、耳小骨を損壊し、内耳まで到達。中耳内壁上部で1枚、内耳の蝸牛周辺で2枚発見。
◆開胸
食道
内壁に大量の泥の様な付着物。黒茶色。付着部位全体に激しい炎症の痕跡。
胃
晩食と思われる内容物に混じって、上記と同じ物と思われる泥状物質あり。
気管支
上記同様のものと思われる泥状物質多量。気道狭窄。
肺胞内部
上記同様のものと思われる泥状物質。一部肺胞破裂。内圧に因るもの。
医師 神奈木 徹
立会司法警察員 上城田 悟志
◆
医師 神奈木 所見
右半身に拡がる擦過痕、右側頭部の打撲痕、右手首骨折箇所に生活反応あり。傷の形状は単独転倒時に負ったものと酷似。
両腹部圧迫痕、左手首の握痕、口元の圧迫痕は、男性転倒後、第三者に覆いかぶされた時についたもの。生活反応あり。
左耳介(左耳全体)の剥落は、擦過痕の形状、左手親指と小指の爪の間から発見された皮膚片より、男性自身によるもの。
左外耳道内に見られる多数の裂傷。男性の中指が押し込まれた際に裂けたものと思われる。生活反応あり。
左中耳・内耳内部の裂傷・骨折は、男性の爪が押し込まれた事が原因。生活反応あり。
食道、胃、気管支、及び肺胞内に残っていた泥の様な物が当該男性生来の病気に因るものかは不明。
直接の死因は、気管支から肺胞に至るまでを埋め尽くしていた泥状の物質による気道の狭窄。及び、肺胞破裂に因る低酸素症。
個人的見解
症状は肺水腫に酷似。
だが、食道や胃の内部にまでに溜まって居たのは血漿や赤血球等ではない。
成分不明。分析に送る。
遺体の状況は、湖沼底の泥に埋もれていた溺死体と類似。
付記
炎症の酷い気管支・両肺全体を摘出しました。
生検へ送ります。
◆
司法警察員 上城田 私見
生活反応、内出血量等を鑑み、どの様な経緯で被害者が死に至ったか、神奈木先生と話し合った際の私見を付します。
被害男性は、現場で加害者に突然襲われて転倒。
その際、右手で防御姿勢を取りながら、右側面を下側にして倒れ込む。
コンクリート製の床に手をついた際に手首を骨折。
勢いを殺しきれず右側頭部、その他を打ち付けた。
次に、仰向けに倒れた男性の上に加害者が覆い被さる様にして跨り、両膝で男性の両側腹部を圧迫。拘束。
男性は残った左手のみで抵抗するも、加害者の右手で押さえつけられた為に凶行を防げなかった。
耳介の剥落はその前に起きたものと思われるが、男性本人が何故、自分で自分の耳を落としたのかは不明。
加害者が男性の口を押さえたのは、大声を発する事を防ぐ為。
男性の上顎骨に微細骨折を発生させるくらいなので、加害者は全体重を、男性の顔面に加えていたと思われる。
左耳介剥落の際に、左手人差し指、中指、薬指の爪三枚が剥がれ落ちたものと思われる。
その爪を加害者が男性の左耳の奥に押し込み、男性自身の中指を使って、耳の奥へと無理矢理に押し込んだのではないかとの事。意図は不明。
男性の体内から採取された泥は、現在分析中。
侵入経路は口腔内から食道、気管支を通って肺胞。
肺胞が破裂した際に漏れた空気が気胸の原因。
かなり強い圧力を掛けて流し込んだ可能性がある。
現物は酷い悪臭。
肉片と思われる物が混在。
押さえつけられていた掌痕の大きさから、加害者は女性か小柄な男性。
他殺である事に間違いはないが、方法は一切不明。
◆付記
神奈木先生は、男性の歯に、欠けや欠落が見られない事に注目しておられました。
生存中に手首を骨折し、耳を削ぎ落とし、耳の中に爪を押し込まれる程の激痛。
その最中、この男性は一度も歯を食いしばった様子が無いそうです。
恐らく筒状のものを咥えさせ、口が閉じられない様にした後、泥の様な物を無理矢理流し込んだものと考えられます。
以上の事より、加害者は押さえつける者と流し込む者の二名、若しくはそれ以上と想定されます。




