↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/37

05. 消えた子供

 冒険者ギルドからレイナがパタパタと走って戻ってくる。


「依頼を受けてきたよ。やっぱり行方不明者の捜索は人気がないんだね」

「そりゃ報酬も安くて面倒だからね。どれどれ~」


 私は依頼書に目を通した。


【行方不明者の捜索・成功報酬 2,000G 】

 名前はセシル、年齢は8歳、男の子。

 青い服に灰色のズボン、胸には木製の鳥のブローチ。

 母親の誕生日に行方不明になったようだ。


「母親とふたり暮らしだって。その子の家は貧しいから、町の人たちで報酬を出し合ったそうだよ」

「そっか……」


 現在わかっている情報はこれだけだ。

 子供が行方不明となると、きっと母親は身が裂かれる思いをしているに違いない。

 だけど報酬は手間を考えるとこれでも少ないくらいだ。

 それでも、なんとか無事に子供を見つけ出してあげたかった。


 私とレイナは手分けをして、町の人からセシル君の情報を集めることにした。

 収穫祭のおかげで普段よりも人通りは多いはず。

 しかしセシル君の手がかりとなる情報は何も得られなかった。


「目撃情報も手がかりもなしだね。どうしようか?」

「大人に聞いてもダメなら、子供のことは子供に聞いてみるしかないね」


 日が暮れると子供は家に帰ってしまうから、それまでに話を聞いておきたかった。

 しばらくして町の中を流れる小川で遊ぶ子供たちを見つけた。

 網を持って魚でも捕まえているようだ。

 レイナが近づいて優しく子供たちに話しかける。


「こんにちは、ぼくたち。行方不明のセシル君を探してるんだけど、何か知ってたらお姉さんたちに教えてくれないかな?」


 ぽっちゃりした生意気そうな男の子が口を開く。


「ヤダよ! 女子なんかに教えてやるもんか!」

「はう~、そんな~」


 レイナはガッカリした様子で落ち込んでいる。

 私は子供たちの目を見てこう言った。


「この鎧がわかる? お姉さんは王国騎士なんだから! 言うことを聞かないと酷い目に遭わすよ!」

「えぇ~っ!? マジかよ、姉ちゃんは王国騎士団の人なの?」


 生意気そうな子は口をあんぐりと開けて驚いている。

 王都の子供にならすぐにバレそうな嘘だ。

 子供たちは驚くと同時に、尊敬の眼差しで私を見ているようだ。

 そして眼鏡をかけた気弱そうな男の子が口を開いた。


「その子、数日前に森の入口で見かけたんだけど……。きっと森の巨大カボチャに食べられてしまったんです」

「えっ!? 巨大カボチャ!?」

「おいやめろよ! あのカボチャはオレたちだけの秘密だろ!」


 生意気そうな子が慌てて、気弱そうな子を口止めしようとした。

 どうやら子供たちは大人に何かを隠しているようだ。


「お姉さんたちに全部話しちゃいなさい。そうしないと~っ、こうしてこうだからね!」


 私は身振り手振りで子供たちを怖がらせて問い詰める。

 子供たちは観念したのか、大人たちに隠している秘密を教えてくれた。


「姉ちゃん、オレたちの秘密基地に案内してやるよ」


 生意気そうな子が近くの森を指差した。


「今から森に入るの? もうすぐ暗くなるからあぶないよ」

「森の奥までは行かないから平気だって。こっち、ついてきなよ」

「ちょっと待ってよ」


 子供たちは元気よく走り出した。

 川を隔てた向こう側には、鬱蒼としたガロナの森が広がっている。

 この森の中に子供たちの秘密基地があるようだ。


 ☆☆☆


 夕暮れの森の中は薄暗く、町から離れていくにつれて危険になる。

 遠くからは教会の日暮れを知らせる鐘の音が聞こえていた。


「どこまで行くの? もうすぐ夜になるから森の奥に行っちゃダメだよ」

「もうすぐそこ、誰も住んでない木こりのボロ小屋がオレたちの秘密基地なんだ」


 少し森を歩くとボロボロの小屋と小さな畑が見えてくる。

 その小さな畑には、ひとつだけ異様に大きく育ったカボチャがあった。


「うわぁ~!? なにこの大きなカボチャは」

「はう~、すっごく大きい……」


 私とレイナは巨大カボチャを見て、目を丸くして驚いた。


「えへへ、凄いでしょ。オレたちが収穫祭(コンテスト)のために育てたカボチャなんだぜ!」

「このカボチャだけこんなに大きく育ってしまったんです」


 子供たちは大人に隠れて、収穫祭のコンテストに出すカボチャを育てていた。

 そのうちのひとつだけが巨大化して、牛くらいの大きさになっている。

 巨大カボチャを眺めていると、気弱そうな子が心配そうにセシル君のことを話し始めた。


「あの子、ひとりでよく森に入ってたから、もしかしてこのカボチャに……」

「絶対そうだよ! 犯人はこのお化けカボチャだ」

「えっ」

「このお化けカボチャが子供を食べてしまったから、こんなに大きく育ったんじゃないでしょうか?」


 気弱そうな子は眼鏡をくいっと上げた。


「カボチャが人間を食べる!?」


 カボチャの魔物なんて聞いたことがない。

 魔法や錬金術の知識があるレイナなら何かわかるかもしれない。


「レイナは何か知ってる?」

「えっと、カボチャの魔物だよね? 魔法や錬金生物でもそんなの聞いたことがないよ」


 レイナはしゃがみ込むと、森の土を掴んで指先でこねながら眺めている。


「この森の土には栄養がたくさん含まれてるから、偶然そのカボチャだけ栄養をいっぱい吸って大きくなったんじゃないかな? だから子供を食べたりなんかしないから安心してね」


 レイナは子供たちに優しく微笑んだ。


「ちぇっ、お化けカボチャじゃなかったのかよ。つまらねぇの」

「魔物じゃなくてよかったです。お姉さんたち、調べてくれてありがとう」


 レイナの話を聞いて、生意気そうな子はガッカリしている。

 気弱そうな子は胸をなでおろしてお礼を言った。


 子供たちと話をしているうちに、日が沈んですっかり辺りは暗くなってしまった。

 私は鞄からランタンを取り出して腰ベルトに装着する。

 ランタンの優しい灯りが、不気味な夜の森をうっすらと照らしていた。


「夜の森はとってもあぶないんだから! そろそろ町に帰るよ」

「そうだな、腹も空いたし」

「暗くなるとお化けが出そうで怖いですね……」

「それなら手をつないで帰ろうか、これで怖くないよ?」


 レイナと手をつなぐと、気弱そうな子はもじもじと恥ずかしそうにしている。

 生意気そうな子は帰るときも賑やかで元気いっぱいだ。


「明日はカボチャコンテストがあるんだぜ。町の広場でするから、姉ちゃんたちも来るよな?」

「任務があるからどうかな? 時間があれば見に行くよ」

「必ず来いよな、優勝してやるから」

「あはは、楽しみだね」


 町まで戻って子供たちを無事に家まで送り届けた。

 すでに日も沈んで辺りは真っ暗だ。

 ひとまず私たちも宿屋に戻ることにする。


 ☆☆☆


 宿屋に戻ると、おかみさんが夕食の準備をして待っていてくれた。

 テーブルには美味しそうな料理がずらりと並べられている。

 パン、スープ、サラダ、ケーキ。

 なんと夕食はカボチャ料理のフルコースだ。


「ははは……。この時期ってカボチャが大量に余るんだよねぇ」


 おかみさんは少し困った様子で苦笑いをしている。


「今日は疲れたろ? お腹いっぱいカボチャ料理を食べて明日に備えな。これ全部おばちゃんのサービスだから遠慮するんじゃないよ」

「わぁ美味しそう、いただきます」

「おかみさん、ありがとうございます」


 まともな食事をしたのは何日ぶりだろうか……。

 パンはふっくら焼きたて、熱々のスープはとろりと甘くて、サラダは新鮮な野菜がシャキっとしている。

 デザートのケーキはしっとりとした甘くて上品な味わいだ。

 カボチャ料理のフルコースはとても美味しかった。


 満腹になった私たちは、部屋に戻って明日の打ち合わせをする。

 ベッドに腰を掛けて地図を広げた。


「明日はどうするの?」

「セシル君はよく森で遊んでたわけだし、やっぱり森(ここ)で迷子になってるんじゃないかな。もしくは襲われたのか……」

「ガロナの森ってそこまで危険ではないと思うけど……」

「うん、北西部を除いてはね」


 レイナは眉をひそめる。

 私は地図に描かれた赤いバツ印、ガロナの森の北西部で指をとめた。


 そこは別名、迷いの森とも呼ばれている。

 生い茂る木々が太陽の光を遮り、森の中は昼間でも暗く、凶悪な魔物が生息している。

 無事に森を抜けられても、その先は断崖絶壁でルピカの海が一望できるだけ。

 王都近郊では、熟練の冒険者ですら近づかないほど危険な場所だ。


「もしかして迷いの森に入ったのかも。それなら今ごろは魔物のお腹の中だよ」

「そんな……。待って、北の月影谷ならどうかな? 子供の足でも抜けられそうじゃない?」

「あっ、ここだね」

「崖の上には修道院もあるそうだよ」


 私は地図を指差しながら、ある程度まで捜索範囲を絞ることにした。

 子供の足でも移動できるとしたら、北の月影谷か、東の街道沿いしか考えられない。

 北西部(迷いの森)は避けて、比較的安全な北の月影谷を目指すルートを選んだ。

 もし子供が見つからなければ、そのまま谷から街道に下りてルミナスの町に向かう予定だ。


「これが現実的かな」

「わかった。無事でいてくれたらいいけど……」

「明日は朝一番に出発だよ。森の中で日が暮れたら大変だからね」

「それなら今晩は早めに休もうか」


 ふたりで打ち合わせをしていると、おかみさんが部屋にやってきた。


「お風呂の準備ができたけど、ふたりとも入るかい?」

「ありがとう、入らせてもらいます」


 私とレイナは順番にお風呂に入った。

 暖かいお湯に浸かると、心も安らぎ疲れも少しだけ取れたような気がする。


「はぁ~、いいお湯だな~」


 風呂場の小さな窓から夜空を眺めていると、幼いころに読んでもらった童話を思い出した。

 旅人がガロナの森を抜けようとして、道を間違えたのか迷いの森に入ってしまう。

 最後は魔物に食べられて物語は終わったような気がする。


「最後が思い出せないや。迷いの森か……」


 風呂場の棚には、目と口がくり抜かれたカボチャが置かれている。

 その中に入れられたキャンドルの炎が、薄暗い浴室をぼんやりと照らしていた。

 明日は収穫祭のカボチャコンテストが行われるそうだ。

 ゆっくり見物していきたいけど、依頼もあるから諦めるしかない。


 その夜は早めにベッドに入って休むことにした。

 こうして夜が更けるころには、ぐっすりと眠って夢の中だ。

 明日は早朝からガロナの森を探索する。

 行方不明の子供は無事に見つかるだろうか……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。