04. 隣町の収穫祭
私たちは荷馬車に揺られながら、ヘルム草原を北東に向かって進んでいた。
途中、食料を買うために立ち寄った農場で、ガロナの町まで仕入れに向かう荷馬車を見つける。
事情を説明してお願いしたら、町まで乗せてもらえることになった。
「やっぱり移動は馬車が楽だよ。歩いて隣町まで行こうとしちゃダメだね」
「はう~、まったくだよ。昨日から歩き疲れたよね」
馬車はカタカタと音を出しながら草原沿いの街道を走っていた。
手綱を握っているおじさんが話しかけてくる。
「ほらっ、もうすぐガロナに到着するぞ」
草原地帯を抜けると、ようやくガロナの町が見えてきた。
荷馬車に乗せてもらえたおかげで、日暮れ前には町に到着することができた。
ガロナはそこまで大きな町ではないけど、王都との中継地点ということもあり立ち寄る人は多い。
周辺には牧場や農園が広がる自然豊かで静かな場所だ。
今日は何かのお祭りでもあるのか、町の入口は綺麗に飾り付けられている。
「なんか賑やかだね。お祭りでもしてるのかな?」
「ちょうどガロナは収穫祭の時期さ。農作物の収穫に感謝して祝うんだよ」
「そうなんだ、知らなかったよ」
「お嬢ちゃんたちも祭りを楽しんでおいで」
「おじさん、ありがとう」
「お世話になりました」
おじさんは馬を牧場まで移動させるからここでお別れだ。
私たちはお礼を言って荷馬車から降りた。
町を歩いていると、視界に入ってくるのはカボチャカボチャカボチャカボチャカボチャ……。
目と口がくり抜かれたカボチャが、通りや家の玄関、畑の中といたるところに置かれている。
「このカボチャ、なんで目と口がくり抜かれてるの?」
「キャンドルを中に入れるからだよ。悪霊を追い払う魔除けの灯りにするの」
「なるほど、だから町のあちこちにカボチャが飾られてるのか……」
レイナが優しく教えてくれた。
私の故郷の町では、お祭りといえば女性がワイン造りのお手伝いでぶどうを踏んで潰すくらいだ。
収穫祭なんてしないからよくわからなかった。
せっかくだし収穫祭を楽しみながら、町の冒険者ギルドに向かうことにする。
今晩は宿屋に泊まるから、先に入手した素材を換金しておきたい。
「ギルドの場所ってわかる? この町は詳しくないんだよね」
「宿屋の近くにあるよ。こっち、あたしが案内するね」
レイナが一緒にいてくれて本当に助かった。
彼女の案内で冒険者ギルドに向かう。
☆☆☆
ガロナの町の冒険者ギルドは、王都と比べると質素でとても小さな建物だ。
不愛想な受付嬢に戦利品と素材を渡して報酬を受け取る。
「こちらが報酬となります」
「どうも……」
報酬の200ゴールドを受け取った。
昨日はあれだけ歩きまわって魔物を倒しても報酬はこれだけ。
小さな依頼をコツコツ頑張っても生活が苦しいのは当然かもしれない。
討伐報酬については、ギルドから依頼を引き受けていないから支払ってもらえなかった。
なんだか気分が落ち込んでくる。
私が深くため息をつくと、レイナは心配そうに話しかけてくる。
「どうしたの? もしかして報酬が少なかったとか?」
「それが討伐報酬はもらえなくてさ。これじゃルミナスまでの馬車にも乗れないよ」
「元気出して、きっといいこともあるから」
「そっちはどうだったの?」
「スライムの破片は買い取ってもらえたよ。なんとか宿代にはなりそうかな」
レイナは運良く納品依頼が見つかり安堵の表情をしている。
私も一晩の宿代くらいは持っているから、今晩はベッドでゆっくりと眠れそうだ。
「日が暮れる前に宿屋を探そうよ。たしかギルドの近くなんでしょ?」
「この通りの何軒か先だね。案内するよ」
私たちはギルドを出ると、同じ通りにある宿屋に向かった。
宿屋に到着すると、玄関で水撒きをしていた宿屋のおかみさんらしきぽっちゃりした女性が駆け寄ってくる。
なんだか慌てている様子だ。
「あんた達、冒険者かい? さすがギルドに依頼を出すとすぐに動いてくれるんだねぇ」
「えっ!?」
もしかしてギルドから依頼を受けた冒険者と間違われてるのかもしれない。
レイナと顔を見合わせる。
いきなりのことで私たちは困惑していた。
「この前もヘルム草原にキマイラが出たときなんて、すぐに兵士と冒険者がきて討伐してくれてね」
「えーっと……そうなんですか……」
「あら? ギルドに依頼を出してるんだけど、もしかして違うのかい?」
この町の冒険者ギルドでは依頼の確認はしていない。
なので宿屋のおかみさんが出している依頼のことは知らなかった。
もしかしたら旅費を稼げるかもしれないし、せっかくなので話だけでも聞いてみることにする。
私はレイナの顔を見てうなずくと目で合図を送った。
(いいから私に話を合わせて)
と言った感じだ。
レイナはすぐに理解したのか話を合わせてくれた。
おかみさんには、私とレイナがギルドから依頼を受けてきた冒険者ということにする。
「よければ詳しい事情を聞かせてください」
「やっぱり冒険者だったのかい、わたしったらてっきり早とちりしたのかと。玄関で立ち話もなんだから、部屋を用意するから入っとくれよ」
部屋が空いてるなら今晩はここに宿泊しようと思う。
おかみさんはニッコリと笑うと、私たちを2階の部屋まで案内してくれた。
「ありがとうね。もちろん今晩はタダにするから、カボチャ料理もお腹いっぱい食べとくれよ」
なんと宿泊代が無料になって、カボチャ料理もお腹いっぱい食べれるそうだ。
さっきまでの落ち込んでいた気分が吹き飛んだ。
「おかみさん、ありがとう!」
「はう~、ありがとうございます!」
やっぱり人に親切にするといいことが返ってくる。
私たちはお礼を言って、おかみさんのご厚意に甘えることにした。
案内された部屋は、ベッドがふたつ並んでいて、小さなテーブルと椅子、化粧台がある普通の部屋だ。
私とレイナは床に荷物を置いてベッドに腰を掛ける。
おかみさんは椅子に座ると、神妙な面持ちで町で起こったことを話してくれた。
「3日前のことなんだけどね。町の子供が行方不明になってしまって、みんなであちこち探したけど見つからなくてね……。どこを探しても手がかりもないし、ギルドに依頼を出してみたらどうかって」
「なるほど、それは心配ですね」
どうやら行方不明の子供を探す依頼のようだ。
ただの迷子なのか、魔物や獣にでも襲われて殺されたか、子供なら誘拐されて人買いに売り飛ばされることもある。
こんなことは言いたくないけど、無事に発見できる可能性は低いだろう。
行方不明者の捜索は時間と労力を費やすから、冒険者や忙しい騎士団なら嫌がる内容だ。
(う~ん、どうしようかな……)
おかみさんの話をここまで聞いてから断るのも嫌だ。
もし無事に発見できればギルドからも報酬を支払ってもらえる。
それに今晩はタダで宿屋に泊まって、お腹いっぱいカボチャ料理を食べたい。
私はレイナと相談して、この捜索依頼を引き受けることにした。
「私たちにまかせてください。子供の捜索をしてみます」
「心配だから放ってなんておけないよ」
「ありがとうねぇ。今日はうんとサービスさしてもらうからさぁ」
おかみさんの瞳はうっすらと涙ぐんでいるのがわかる。
きっと情に厚く優しい人なんだろう。
部屋でゆっくり休憩している時間はない。
ひとまず冒険者ギルドで正式に依頼を受けてから、町で行方不明の子供の情報を集めることにする。
まだ日が暮れるまでは時間もある。
さっそく行動開始だ。




