03. 魔女見習い
雑談しながら草原を歩いていると、同時にふたりのお腹がぐぅーっと鳴った。
「はう~、ごめんなさい。朝から何も食べてなくて……」
「私も急いでたから何も食べてないんだよね」
レイナはお腹を押さえて恥ずかしそうにしている。
紙袋に入れてきた食料が邪魔だし、早めに食べて中身を減らしておきたい。
パンとミルク、果物とお菓子もあるだけ入れて持ってきていた。
「良かったら一緒に食べる? パンとリンゴ、あとはお菓子もあるよ」
「いやいや、そんなの悪いよ」
「気にしないで、ゴブリン退治を手伝ってもらったお礼もしたいから」
近くの倒木に腰を掛けて、ふたりで少し遅い朝食を食べる。
パンは焼きたてじゃないから硬くてパサパサしていて不味かった。
私はパンを食べながら、なんとか彼女を仲間にできないかと考えていた。
傷と毒の治癒魔法が使える仲間がいると、冒険での危険度が大幅に下がるからだ。
火の魔法は魔物や獣、不死生物と戦うときにも心強い。
どうせ北の荒れ地に向かうなら、魔術街ルミナスにも立ち寄ることになる。
世間話をしながら話を切り出すタイミングをうかがう。
レイナはパンを食べ終えると、魔術学院のことを話してくれた。
「魔術学院での生活も大変だよ。だから薬品を合成したり素材を売ったりして学費の足しにしてるの」
「ほえー、薬品とか合成できるんだ。レイナって凄いんだね」
「えへへ、そんなことないよ」
レイナは顔を赤らめて照れた。
「あたし、錬金術師にも憧れてるんだよね。もし卒業試験に受からなかったら、魔女になるのを諦めて錬金術師を目指そうかなって」
「やっぱり魔女になるための試験って難しいの?」
「5つの魔法を使う実技試験に合格しないといけないの。才能があるなら簡単だけど、あとお金もかかるからね……」
「そっか~」
レイナはうつむいてため息をついた。
そういえば、王都の騎士学校よりも魔術学院のほうがお金もかかると聞いたことがある。
どうやら彼女も学費に困っているようだ。
もしかしたらドラゴン退治を手伝ってくれるかもしれない。
「ねぇ、お金を稼ぎたくない? 一攫千金できるかもしれない話があるんだけど」
「えっ!? それって流行りの闇ギルドのあぶない仕事とか?」
「いやいやいや、そんな犯罪じゃないから。普通に討伐系の仕事だよ」
いきなりすぎて誤解されてしまった。
ちなみに闇ギルドとは、窃盗や強盗で荒稼ぎをしている犯罪者集団の呼び名だ。
私は慌てながら北の荒れ地に出現したというドラゴンのことを話した。
レイナは真剣な表情をして考えているようだ。
「北の荒れ地って、旧演習場のことだよね?」
「そう呼ぶ人もいるよね。今は使われてなくて荒れ地になってるって噂」
「う~ん……ちょっと怖いけど、ドラゴンの素材とか高く売れそうだね」
「もちろん上手く倒せたらの話だけどね。ギルドからの依頼もあれば報酬も出るはずだよ」
「北の荒れ地なら手伝えるよ。あたしもルミナスに戻ろうと考えてたし」
「やったぁ、ありがとう」
レイナは私の顔を見るとにっこりと微笑んだ。
この無謀ともいえるドラゴン退治の冒険に仲間ができた。
「火と治癒魔法が使えるなら道中も心強いよ。頼りにしてるからね」
「頑張ってみるけど、まだ見習いだからあんまり期待しないで……」
私はレイナと握手を交わした。
彼女は自信がなさそうに目を逸らしてしまう。
「これからガロナに向かうけど、もう王都ですることはないよね?」
「大丈夫だよ。今から王都まで戻ると時間もかかるからね」
「近くに牧場もあるからなんとかなるよ。それじゃ、ガロナの町を目指してしゅっぱ~つ」
「うん、行こうか」
まだ日も高い、今のうちに少しでも隣の町まで近づきたかった。
☆☆☆
私たちはヘルム草原を北東に向かって歩き続けた。
旅費を稼ごうと他にも魔物を探したけど、なかなか遭遇することができなかった。
途中で見かけた狼の群れは、警戒心が強くて近づく前に逃げられてしまう。
いつしか空は夕焼け色に染まっている。
街道沿いには、ようやく王国の監視塔が見えてきた。
王都と隣町の中間地点にある監視塔には、数人の兵士が滞在して周辺の警備をしている。
この周辺は魔物やアンデッド、盗賊被害なども少なく比較的安全な場所だ。
「やっと半分まできたよ。馬車に乗らないと明日中にガロナまでは無理かな」
「今日は朝からスライムを探し歩いてくたくただよ~」
「どこか休めそうな場所を見つけないとね」
私は街道から草原を見渡した。
少し離れた場所には、旅人が野宿をしたのか焚き火の跡が見えた。
ちょうどよく倒木もあるから腰を掛けることもできる。
近くには小川も流れているので、水辺があると衛生的にも安心だ。
「あそこ、焚き火の跡があるよ。野宿するのによさそうじゃない?」
「この付近なら安全だね。暗くなる前に焚き火をしようか」
私が木の枝を集めると、レイナが魔法で火をおこして燃やしてくれた。
やっぱり魔法が使える仲間がいると心強い。
こうしている間に、日も沈んでしまい辺りは真っ暗だ。
昼間は大勢の人が行き交う街道も、夜になると人影すら見えない。
草原の夜はとても静かだ。
耳を澄ますと、虫の鳴き声とパチパチという薪の音だけが聴こえてくる。
「初日から野宿か……」
「野宿するのは初めてなの?」
「うん。遠出の任務のときは宿屋に泊まるし、野宿するのはちょっと怖いかな」
「あたしは素材集めで遠出するとき、節約のためによく野宿をするの。もちろん町からそんなに離れてない場所でね」
「旅慣れてるんだね。私も見習わないとな」
レイナは鞄からティーポットを取り出すと、お湯を沸かして紅茶をいれてくれた。
夜の風は少し冷たく、温かい紅茶を飲めたのは嬉しかった。
飲み水の確保も大変だから、水筒を忘れずに持ってきたのは正解だ。
「この紅茶、蜂蜜の味がして甘くて美味しいよ」
「蜂蜜はルミナスの名産なんだよ。疲労回復効果もあるから、おかわりもあるよ?」
レイナは紅茶を飲みながらにっこりと微笑む。
「そろそろ夕食にしようよ。ってリンゴとチョコとクッキーしかないけど……」
「あたしもお菓子なら持ってるよ。チョコレートだけ……」
紙袋から残りの食料を取り出して、ふたりで分けて食べることにした。
今晩の夕食は、リンゴとバター風味のクッキー、デザートには甘いチョコレート。
「夕食が果物とお菓子だけってちょっと味気ないね」
「そうだね。たまにならいいけど」
「明日は宿屋に泊まって、お腹いっぱい食べようね。お風呂にも入りたいし、あったかいベッドで眠るの」
「そうしようか、頑張って素材も集めたしね」
町から離れた場所で野宿をするのは初めてだし不安になる。
騎士学校で野営の演習をしたときは、他にも生徒や騎士団長がいるから賑やかで楽しかった。
もしレイナがいなければ、心細くて途中で王都に逃げ帰っていたかもしれない。
こんな無謀な冒険に誘ってしまい申し訳なくなってしまう。
「レイナ、その……冒険に付き合ってくれてありがとう」
「そ、そんなの気にしないで。あたしも興味があるから協力するわけだし」
お礼を言うと、レイナは少し驚いた表情をしていた。
彼女は私のことを何も聞いてこなかった。
だから私もレイナのことはいろいろと詮索しないようにする。
今日は朝から歩き回り疲れたのか、まだ夜も更けていないのに眠たくなってしまった。
私は焚き火を見つめながら小さくあくびをする。
「眠たくなった? あたしが火を見ておくから先に休んでいいよ」
「ごめん、それじゃ先に寝かせてもらうね。しばらくしたら起こして……おやすみ……」
「おやすみなさい」
野宿には慣れていないけど、草の上でもすんなりと眠ることができた。
こうして初日の冒険が無事に終わった。




