34. 作戦会議
テントに戻った私たち討伐隊は、さっそく腹ごしらえをしながらドラゴン討伐の準備をする。
小さなテントに五人も入るとさすがに狭く感じてしまう。
隊長とヘイルが椅子に座って、残りの私たち三人は地べたに座った。
ガルムはあぐらをかいて、補給物資のビスケットをバリボリと笑顔で食べている。
私とレイナも満腹にならない程度に少しだけお菓子を食べる。
ヘイルは私たちが運んできた補給物資を確認すると、椅子から立ち上がり慌てた様子でこう言った。
「ふたりが持ってきた補給物資はこれだけ? 太矢も何本か必要なんだけどな……」
「えっ!? ギルドから渡された補給物資はこれだけですよ」
なにか間違いがあったのかと不安になってくる。
たしかに忘れ物はないはずだ。
「そうか……。太矢の残りが少ないから、ついでに補充も頼んだはずなんだけど」
「私たちは聞いてませんよ。ギルドの人が間違えたのかな?」
私が説明しているとガルムが呆れた様子で口を開く。
「犯人はジェイクのガキだろ! あいつが言い忘れたに決まってるぜ。最初からヤル気もなさそうだったからよ」
「太矢の残りは三本しかありませんよ。隊長、どうしますか」
隊長は少し考えているようだ。
私とレイナはお菓子を食べる手を止め、不安そうな表情で隊長を見つめた。
隊長はコップの紅茶を飲み干してから立ち上がる。
「戦力と薬品は揃っている。これから作戦を伝える」
それを聞いたガルムは、残っているビスケットを口に放り込んでバリボリとかみ砕きながら、缶詰のスープを一気に飲み干した。
私たちは小さなテーブルを囲むように立つ。
隊長はボードにペンでそれぞれの立ち位置と役割、戦闘での立ち回りなどを詳細に描いて説明してくれた。
「この作戦でいこうと思う。何かあれば今すぐ意見してくれ」
「私は問題ありません」
「あたしもその作戦で大丈夫です。回復に専念します」
「開幕かませねぇがその作戦で問題ねぇよ。まぁ最後は俺様がとどめを刺すがな」
「それでいきましょう。太矢の残りが少ないのは心許ないですが……」
こうしてドラゴン討伐の作戦が決まった。
私たちは少し休憩をしてから戦闘地点へと移動する。
みんなの口数も少なくなり、戦いの前の静けさを感じ取れた。
レイナは隊長の指示で、水がめから水を汲んで馬に飲ませるため外へ。
ガルムは座り込んで鼻歌交じりに、大きな両手斧の手入れをしていた。
ヘイルは鏡を見てうっすらと生えた無精髭を剃っている。
クラウド隊長は椅子に座って、なにか思いつめたかのように作戦ボードを見つめていた。
私も戦闘前に最後の確認をしていた。
剣の刃が欠けていないか、防具はきちんと装着できているか、鞄の薬品の位置を何度も確認する。
「よし! 問題ないかな」
レイナが戻ってくると、ガルムが立ち上がりテントの外に出ようとした。
「しょうべんをしてくる。お前らもちゃんと出しとけよ」
そういうとガルムは少し離れた草むらに歩いて行った。
それを聞いたレイナは少し照れている。
「私もしてこようかな。レイナも一緒にいく?」
「あ、あたしはその後でするから、お先にどうぞ……えへへ……」
「そっか、わかった」
こうしてドラゴンと戦うための全ての準備が整った。
私たち討伐隊の五人は再び洞窟を抜けて、演習場にある高台へと向かった。
☆☆☆
まだ日は高く上っている。
ドラゴンは夕刻になると動きが活発になるので、日が暮れるまでには倒しておきたい。
隊長は双眼鏡でドラゴンの状態を確認する。
「尾が地面についてるな。どうやら完全に眠っているようだ」
「呑気なもんだぜ。だが奇襲をかけるにはちょうどいいだろ」
「しかし他に仲間がいないか警戒されてるはずだ。そこは注意してくれ」
「へっ、注意しようもないだろ。ここまできたら後は倒すだけだ! なぁ、そうだろ?」
ガルムは振り向いて私たちに賛同を求めてくる。
「あっ、はい」
私はガルムの目を見て元気がなさそうに小さな声で返事をする。
隣ではレイナが心配そうな顔で力なくうなずくと、それを見たガルムが呆れてこう言い放つ。
「おいおい、これからドラゴンと一戦交えるんだぜ。こいつらで本当に大丈夫なのかよ」
本当に私たちで大丈夫なのかと心配になってきた。
自信をなくしていると、ドラゴンの様子を確認していた隊長がこちらに歩いてくる。
そして優しい声で話しかけてくれた。
「緊張しているようだな。僕もそうだ、ドラゴンと戦うのは怖いさ」
「へっ、怖気づいたのかよ……」
ガルムが鼻で笑う。
「しかし誰かが倒さないといけない。今回はそれが僕たちの役目だ。この五人なら必ずドラゴンを倒せると確信している」
クラウド隊長は手に持っていた上級騎士の兜を装着する。
「それでは行こうか……」
兜の中からこもった声が聞こえた。
「いくとするか! ドラゴンなんざ俺様がぶっ倒してやるぜ!」
「やってやる! ドラゴンを倒してやるんだから!」
ガルムと一緒に私も気合を入れる。
「セラ、頑張ろうね!」
レイナが私の顔を見てにっこりと微笑む。
「俺は先に配置に付きますね。それでは健闘を祈ります」
「あぁ、援護は頼んだ」
ヘイルは高台の大弓が設置してある場所まで移動する。
私たちは隊長の案内で、演習場の広場に降りられる場所まで向かった。
この演習場が使われなくなってから、どれくらいの年月が経っているのかはわからない。
土砂の坂道はあちこちが崩壊していて歩きにくい。
足場の悪い道を慎重に進みながら、演習場の広場に続く通路を進んだ。
前を歩いていた隊長が立ち止まる。
「ここからは敵に気づかれないように静かに行動してくれ、作戦は先ほど説明した通りだ」
私とレイナは黙ってうなずく。
ガルムは肩に担いだ両手斧の位置を動かすと、ニヤリと笑みを浮かべながらうなずく。
クラウド隊長は手で進めの合図を送った。
広場へと続く通路は、両側が崖に囲まれていて、後ろは崖が崩れて急斜面になって登れそうにもない。
前に進むと演習場の開けた場所に出て、少し進むと大きな岩が転がっている。
そのすぐ近くにはカイルの焼け焦げた死体が放置されていた。
血と肉が焼け焦げたような嫌な臭いで、私は思わず目を逸らしてしまう。
私たち四人は静かに移動しながら大岩の陰に身を隠した。
岩陰からドラゴンを確認すると、尻尾をだらんと下げてすやすやと眠っているのが見える。
ガルムとレイナは岩陰で待機して攻撃する隙をうかがう。
隊長は私に進むように手で合図を送った。
私は静かにうなずき、覚悟を決めて岩陰から出るとドラゴンに向かって歩き出した。




