33. 寄せ集めの部隊
付近にドラゴンがいるかもしれないので、声は出さずに静かに歩いて近づいた。
崖際の二人の騎士は派手な装備をしているのがわかる。
少し離れた場所には、ポツンと大きな弓を整備している弓兵が一人。
私たちに気がついて崖際の二人に手で合図を送っている。
二人の騎士は振り向くとこちらに近づいてくる。
なんとか無事に討伐隊と合流することができた。
「おいおい、援軍って女のガキかよ……」
「せっかく来てくれたんだ。もう少し態度をなんとかしてくれないか、誤解されるだろ?」
「ちっ、うるせぇよ」
体の大きな重装鎧の兵士が舌打ちする。
(せっかくここまで重い荷物を運んで来たのに……)
なんだか嫌な感じがしてくる。
少し腹も立つけど、私たちは丁寧に自己紹介をした。
「ギルドからの依頼で援軍要請と救援物資を運んできました。派遣騎士のセラです」
「同じく、魔女見習いのレイナと申します。よろしくお願いします」
レイナは三角帽子を脱いで丁寧に一礼した。
「騎士団所属、隊長のクラウドだ。よろしく頼む」
クラウド隊長は装飾の豪華な上級騎士の鎧を装着していた。
白銀に輝くオリハルコンの鎧、王国の紋章が描かれた豪華な赤いマント。
年齢は二十代前半、金髪で青い瞳、顔も整っていてカッコいい感じのお兄さんだ。
「俺様はガルムだ。騎士団に所属してたが、まぁいろいろあってな。今はこのクソ討伐隊に参加させられちまった」
ガルムは真っ赤な火竜の鱗で作られた派手な鎧を装着している。
近くには黒鉄の巨大な両手斧が立てかけられていた。
年齢は四十代くらい、筋肉質で大柄、頬に傷があっていかつい顔をしているおじさんだ。
「向こうで大弓の調整をしてるのがヘイルだ」
私が大弓のほうを見ると、弓兵の人がこちらを見ていたので会釈をした。
向こうも軽く手を振り返してくる。
「あいつ膝に矢を受けたらしく走れないらしいぜ。役に立たないからって、こんな部隊に入れられちまうなんてな……」
「そういう言い方をするな。これも立派な仕事さ」
クラウド隊長はガルムを注意する。
レイナは眉をひそめて、心配そうな表情で私を見ている。
私もすごく不安になってきた。
この騎士団直属のドラゴン討伐隊はどうもおかしいとこだらけだ。
「あの……みなさんはドラゴンや魔物の討伐を専門にされてるんですか?」
気になったので素直に聞いてみる。
「いや……それは……」
隊長は視線を逸らして言葉を詰まらせた。
「がはは、ガキどもに正直に言ってやれよ隊長さん」
そう言うとガルムは笑うのをやめて、急に真剣な顔をして話し始めた。
「ここはな、騎士団で不祥事を起こしたか、戦力外になった奴が送られてくるのさ。つまり寄せ集めの部隊ってわけよ!」
クラウド隊長は深いため息をついた。
「この隊長なんざ任務で護衛対象と警備の兵士を死なせちまったんだぜ。たしかこの討伐任務が失敗すると降格するんだよなぁ?」
ガルムは馬鹿にするように笑いながら隊長を見ている。
「だからどうした、お前には関係ないことだ!」
クラウド隊長が声を荒らげてガルムを怒鳴る。
「わりぃな、そんな怒らないでくれよ、クラウド隊長」
とても嫌な雰囲気だ。
なんて声をかけたらいいのかわからないし場の空気も重い。
こういう理由があったから、騎士団ではなくギルドに援軍要請を出したようだ。
しばらくして大弓の整備をしていた弓兵もこちらに合流する。
ヘイルは王国兵士の軽装の皮鎧を装着している。
年齢は三十代半ばくらい、薄く髭を生やした普通の男性、脚が悪いのか歩き方が少しぎこちない。
「はぁ……またですか……。ふたりとも落ち着いてくださいよ。ここで揉めてもしょうがないでしょ」
ため息をつきながらヘイルは隊長とガルムの間に入る。
「すまない、話を続けようか」
「ぺっ、クソが……」
ガルムは地面に唾を吐いた。
隊長はガルムから視線を逸らすと、ガルムは不貞腐れたのかその場であぐらをかいて座り込んだ。
ヘイルはやれやれと言わんばかりの顔をしている。
私とレイナは弓兵のヘイルにも挨拶をした。
ヘイルが間に入ってくれたおかげで、隊長とガルムも少しは落ち着いたようだ。
しばらくしてガルムが口を開く。
「で、どうするんだ隊長。援軍は来た、補給物資も届いた、いつまで待機させる気だよ。ヤツを討伐する気はあるのか?」
ガルムは隊長を睨みつける。
「無論だ、準備は整った。日暮れ前までにドラゴンを討伐する」
クラウド隊長は私たちを見ると力強くそう言い放った。
その言葉を聞いて、私の心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
ガルムは嬉しそうに大声で叫んでいる。
「そうこなくっちゃな! はやくこんなクソみたいな任務は終わらせて、砂まみれの場所とおさらばしたいぜ」
「まったくだ。その前にふたりにも説明しておかないとな」
クラウド隊長は崖際に移動すると、鞄から双眼鏡を取り出した。
「とりあえずドラゴンの様子を確認しようか、こっちに来てくれ」
「はい!」
私は元気よく返事をした。
☆☆☆
(いよいよドラゴンの姿を見られるんだ)
ドキドキしながら私とレイナは崖際に移動した。
私が鞄から双眼鏡を取り出すと、クラウド隊長が優しく微笑んだ。
「準備がいいな」
「最低限の道具は持ってきました」
「それならこの双眼鏡はキミが使ってくれ」
「すみません、お借りします」
レイナは隊長から双眼鏡を借りた。
隊長が指を差した先には、赤い鱗のドラゴンが寝そべっているのが見えた。
私たちは双眼鏡をのぞいてドラゴンの様子を確認する。
赤い鱗は一部分が剥がれ落ちているのか、後ろ脚には何かで攻撃されたような痛々しい傷がある。
その姿を見ていると、私はなぜか悲しくなってしまった。
子供のころにフルーレの湖で目撃したドラゴンは、青い鱗をキラキラと輝かせながら、翼を広げて気持ちよさそうに空を飛んでいた。
とても美しく綺麗なワイバーンだった。
そして今、私が見ているドラゴンは傷つきボロボロで惨たらしい姿をしている。
「あのドラゴン、弱ってるのかな? なんか可哀想……」
「だが体力を回復して動けるようになれば、近くの牧場や集落が襲われるだろうな」
「そうですよね……。やっぱりここで倒しておかないと!」
「よく見てみな、ドラゴンの後ろ脚の傷を」
「あれ? なんか傷口に緑色の変な液体が付いてる。ドラゴンの血じゃないみたい」
「帝国の魔道兵器に撃たれたようだ。討伐しようとしたか、試し打ちしたのかはわからないがな」
ドラゴンの後ろ脚は、液体の影響なのか赤い鱗が茶色に変色している。
ここからだと確認できないけど、脚の肉が腐っているようにも見えた。
私は昨日の夜のことを思い出していた。
その時、ちょうどガルムが魔道兵器の話を始める。
「昨日の夜、ヴァルドニアの空に薄気味悪い花火が打ちあがったよな! あれには俺様も驚いたぜ」
「それ知ってるよ。私たちも見たから、流れ星のように降り注いでた」
「上空から広範囲を攻撃できる魔道兵器のようだ。試し打ちと王国への脅しのようだ」
私たちが話していると、双眼鏡でドラゴンを見ていたレイナが口を開く。
「おそらく魔法と毒の成分も配合されてると思います。それでドラゴンの脚は……」
「マジか、帝国は毒まで仕込んでるのかよ!」
「放っておいたらそのうちドラゴンは死ぬかな?」
やっぱり怖いし可哀想だから、なるべく戦闘は避けたかった。
レイナは少し考えてから答えた。
「ドラゴンは体も大きいから、弱らせることはできても、毒だけで殺しきるのは難しいかもしれない」
「やっぱり弱ってるうちに倒さないとダメか……」
私がこう言うと、ガルムは崖下にある大岩を指差した。
「嬢ちゃん、あの岩の近くをよく見てみな」
「えっ、あれって人?」
私は双眼鏡で大岩を確認すると、すぐ近くに黒焦げの死体が転がっていた。
「誰か焼かれて死んでる……」
「死んでるのは聖堂騎士のカイルって男だ。治癒魔法が使えるからと、この部隊に援軍として入れられてあの様だ。弱ってると言っても火竜には違いねぇ」
「彼には申し訳ないことをした……」
隊長は崖下にある黒焦げの死体を見つめて落ち込んでいる。
ガルムは呆れた顔をしてこう怒鳴った。
「しかたねぇだろ! あの野郎、ドラゴンは神聖な生物だ、とか吐かして自分から近づいて行っちまったんだからよ。それで焼き殺されてりゃ世話ないぜ」
「そんなことがあったんだ。さすがに三人で討伐するのは大変だよね」
「いや、もうひとりいたんだがよ。止めようとしたジェイクってガキが巻き添えをくらっちまってな。負傷して戦えねぇから、連絡役としてギルドまで向かわせたってわけだ」
「ふたりが援軍に来たということは、彼は無事にルミナスまで戻れたようだな」
「さてはジェイクの野郎、ここには戻ってこねぇつもりだな」
ガルムの機嫌がまた悪くなってくる。
でも討伐隊の人数が少ない理由がわかった。
五人で部隊を組まされて、そのうち一人が死亡、一人が負傷して離脱。
残りの戦力では、いくらドラゴンが弱っていても討伐するのは難しいだろう。
「しかたないさ、この五人でドラゴンを討伐する」
隊長が私たちを見てこう言うと、私とレイナは力強くうなずいた。
「それはわかってるぜ。でもよ……その前にテントに戻って腹ごしらえしねぇか?」
ガルムは可愛く自分のお腹をポンッと叩く。
「腹が減ったら戦はできねぇだろ? 物資の中に食い物も入ってるよな?」
「はい、レーションやお菓子が入ってます」
「お菓子ってガキのピクニックじゃねぇぞ」
そう文句を言ったかと思えば、ガルムは子供のような笑顔でにやけていた。
「とりあえずテントに戻ろう。そこで作戦を説明する」
「あのクソコウモリがうじゃうじゃいる洞窟をまた通るのかよ」
「上から糞が落ちてくるから注意しないとね」
私たちが洞穴に戻ろうとすると、ガルムは立ち止まってレイナの三角帽子をじーっと見ている。
「その魔女の帽子いいな。糞除けにかぶっていいか? 俺の火竜の鎧が糞で汚れねぇようにさ……」
「はうっ!? ダ、ダメですよ~」
レイナは慌てて三角帽子を両手で押さえた。
ガルムはお構いなしにレイナに抱きついて帽子を奪おうとする。
「や、やめてください」
「おじさん、いい加減にしてよ!」
私がおっさんを止めようとすると、隊長がガルムの肩当てをガチャっと力強く握る。
後ろ姿からもかなり怒っているのがわかった。
「ふざけすぎなんだよお前は……」
「ったく冗談にきまってんだろ……ほらよ」
ガルムは笑いながらレイナの頭に三角帽子をのせる。
「この魔女の嬢ちゃんから甘い匂いがするぞ。お菓子の食いすぎだろ、がはは」
そう言うと笑いながら、おっさんは重装鎧をガチャガチャと鳴らして洞窟に入っていく。
私とレイナは呆れた様子でそれを見ていた。
後ろからヘイルが申し訳なさそうに話しかけてくる。
「大丈夫かい? あのおっさん、あんな性格だから前の部隊でも嫌われて追い出されたそうだよ」
「だろうね」
「でしょうね」
私たちは即答する。
これからドラゴンを討伐するというのに、この部隊でまともに戦えるのか不安になってしまう。




