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31. 北の荒れ地

 旧演習場跡地。

 私のような若い世代なら、北の荒れ地と呼ぶほうがわかりやすい。

 昔は王国騎士団と聖堂騎士団も加わり、ここでよく合同演習が行われていたそうだ。

 もしかすると魔導兵器の実験も行われていたのかもしれない。


 周囲を警戒しながら慎重に荒れ地を進んでいく。

 私は重たい荷物を背負っているので、周囲の警戒はレイナにまかせることにした。

 演習場へと続く道は、両端が崖で囲まれていて、なんとか馬車が通れるくらいの道幅はある。

 乾いた地面はひび割れてガタガタしている。


「なんか歩きにくいとこだね。敵が飛び出してきたら魔法を撃っていいから」

「わかってる。今のとこ何もいなさそうだけどね」


 レイナは触媒を手に持つと、周囲を警戒しながら奥へと進んでいく。


「荒れ地っていうだけあって何もないとこだね」

「火炎草と鉱石を見つけたけど、そこまで価値はなさそうかな」

「とにかく討伐隊の野営地を見つけないと……」


 周囲は乾いた岩肌が続き、ひび割れた地面は風が吹くと砂埃が舞って視界も悪くなる。

 少し蒸し暑く、この荒れ地の北東にある火山の影響なのかもしれない。


「うぅ、口の中に土が……ぺっ。もう最悪だよ」

「喋ると砂が口に入るよ」


 文句を言いながら地面に唾を吐き捨てた。

 砂埃が口や目に入らないように、口を閉じて目を細めながら先に進む。


 しばらく歩いていると、レイナが立ち止まり前方に転がっている岩を指差した。


「あそこの岩陰、なにか音がしたから気をつけて」

「動物か何かの気配がするね……」

「魔物かもしれない。静かに近づいて確認してみようか」


 レイナは触媒を構えて、すぐに魔法を撃てるように身構えている。

 私は背負っているリュックを地面に下ろすと、剣を構えて岩陰へと近づいていく。

 岩陰からはバキバキという変な物音が聞こえていた。


 恐る恐る岩陰をのぞいてみると、大きな砂色のトカゲが散らばっている骨を噛み砕いていた。

 それが動物か人間の骨なのかはわからない。


「こいつはロックリザードだね」

「食事中なのかな?」

「まだこっちに気がついてないみたい」


 ロックリザードは石のように硬くて頑丈な鱗をもつ大型のトカゲだ。

 肉食で大きな個体ほど狂暴になり、動物や人間も襲ったりするので危険だ。


 レイナが静かに魔法を唱えて奇襲をかける。

 ファイアボールが勢いよくロックリザードに向かって飛んでいく。

 火の玉が直撃したロックリザードは、驚いたのか尻尾を振って遠くへ逃げていった。


「火(魔法)をくらってもなんともないんだ。頑丈なトカゲだわ~」

「あの硬い鱗は熱を通しにくいようだね。火の魔法だと倒すのは難しそうかな」

「もう追い払えたからいいよ。とにかく注意して進もう」


 ☆☆☆


 私とレイナは周囲を警戒しながら、さらに荒れ地の奥へと進んでいく。

 周囲にはこれといってなにもなく退屈な風景が続いていた。

 崖に挟まれた岩肌むき出しの道は、演習場といっても建物や人工物すら見えてこない。

 たまにあるのは転がっている岩くらいだ。


 しばらく歩いていると、岩肌からぽろぽろと小石のようなものが落ちてきた。

 いきなり崖が崩れてきたりしないか心配になってくる。


「なにこれ小石?」


 崖を見上げると、私はいきなり大きな悲鳴をあげてしまった。


「いやぁぁぁぁぁぁ!? なんなのこれ、虫じゃん!」

「えっ、ちょっと落ち着いて、いったいどうしたの?」


 レイナが慌てて駆け寄ってくる。


「うぅ、上から石ころが降ってきたかと思ったら、よくわかんない小さな虫だったの!」


 私は勢いよくリュックを地面に下ろすと、慌てながら髪や服を手で払った。

 レイナは私の服にくっ付いた虫を手で掴むと眺めている。


「これは岩蟲だね。とくに害はないから安心して」

「でも、なんか虫って気持ち悪くて苦手でさ……」

「この岩蟲は硬いから、水に入れて柔らかくしてからすり潰すの。錬金術の材料になるんだよ」


 レイナは岩蟲を見つめて微笑んだ。

 そして指先で岩蟲を転がしながらもてあそんでいる。


「ねぇ、背中に付いてないよね?」

「ちょっと動かないでね。くっ付いてる岩蟲を全部取るから」


 レイナに背中に付いていた岩蟲を取ってもらった。


「これで全部取れたみたいだけど」

「ありがとう……。蝶々は平気なんだけど、こういう変な虫は嫌いなんだよね」

「そうなんだ。小さな虫が苦手ってなんか可愛いね」

「もう虫は無視するから! はやく先に進もう」


 レイナはくすっと微笑んだ。


 ☆☆☆


 それからは魔物と変な虫にも警戒しながら、私たちはさらに荒れ地の奥へと進んでいく。

 しばらく歩いていると草木がまばらに生えている場所に出た。

 周囲の崖は低くなり、高く積もった砂の山を登れば崖の上まで行けそうだ。

 レイナが前方の枯れ木を指差した。


「気をつけて、枯れ木に火食い鳥(フレイムバード)がとまってるよ」


 フレイムバードは全身が真っ赤で火を食べるとされる中型の魔鳥だ。

 普段は人を襲わないが、縄張りに近づく者に対しては激しく攻撃をしてくる。


「さすがに火の魔法とは相性が悪そうだね」

「う~ん、試したことはないけどおそらく……」

「それなら私にまかせてよ」


 私はリュックを地面に下ろすと、剣を握りしめて枯れ木に近づいていく。

 しかしフレイムバードは微動だにせず、頭だけをこちらに向けて、じーっと私のほうを見ている。

 私は不気味な真っ赤な鳥を睨みつけてこう言った。


「私たちはここを通りたいだけなの! もし襲いかかってきたら酷い目に遭わすよ!」


 大声でこう叫ぶと、フレイムバードは私から視線を逸らした。

 そして大きな羽を広げてバサバサと羽音を響かせながら飛んでいった。

 フレイムバードのグアッグアッという低い声が聞こえてくる。

 

「なんなのあいつ、この枯れ木はあの鳥の縄張りじゃなかったのか」

「なるべく戦闘は避けたいから逃げてくれてよかったよ」

「そうだね、ちょっと疲れちゃった」

「せっかくだから休憩する? まだ野営地まではありそうだし……」


 近くには腰を掛けられる場所もあるので、ここで少しだけ休憩することにした。

 荒れ地は蒸し暑く、重い荷物を背負って移動するだけで体力を消耗する。

 ドラゴン退治をする前にヘトヘトになっているかもしれない。 




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