25. 援軍要請
夕暮れの冒険者ギルドは、依頼を終えた人たちが集まり賑わっている。
昨日の受付嬢は他の人と話しているので、私は後ろに並んで待つことにした。
レイナは待合室のソファーに座って休憩している。
順番を待っているときも妙に緊張してしまい落ち着かない。
(明日からどうしようかな。とりあえず簡単な依頼を探してお金を稼がないと……)
頭の中ではこんなことばかり考えていた。
しばらくして私の順番がくる。
受付に顔を出すと、お姉さんに昨日の明るい笑顔はなく、真面目な顔で書類を手に取り確認している姿が見えた。
なにか嫌な予感がする。
「昨日のドラゴンの件で来ました。あれから新しい情報は入りましたか?」
私が尋ねると、受付嬢は書類に目を通しながら険しい表情でうなずいた。
「どうやら討伐隊で死傷者が出たようですね。救援物資と援軍要請を受けました」
「えっ!? 援軍要請ですか」
驚きと同時に不安が押し寄せてくる。
すでにドラゴンは討伐されてしまい、ここで無事に冒険を終えたい気持ちもあったからだ。
でも、ここまで来たからには内容だけでも確認してみようと思う。
私は依頼書に目を通した。
【ドラゴン討伐:援軍要請 場所:演習場跡地 成功報酬:4000G】
依頼内容、救援物資(食料・薬品など)の補充と運搬。
次に援軍の要請、戦闘に参加できる者1名、治癒魔法を使える者1名。
間違いなく王国の騎士団からの依頼のようだ。
なぜか依頼書にはレサリア王国の勲章が入っていなかった。
王国からの依頼なら、派遣騎士は優先して受けられるし報酬も少し多くもらえる。
今回は討伐隊からの個別の依頼となるので、派遣騎士としてのメリットは何もなかった。
幸いにも私とレイナのふたりで援軍要請の条件は満たしている。
けれど提示された報酬額が少なすぎる。
「あの、ドラゴン相手にこの報酬額って安くないですか?」
「これはあくまで最低限の報酬です。討伐に成功して素材を換金できたら、追加報酬も支払われると記載されてますので」
たしかに小さな字で下のほうに書かれていた。
ドラゴンの上質な素材を手に入れることができれば、一攫千金することも夢ではないけど……。
報酬に関しては納得できても、この依頼にはおかしなところが多すぎる。
私が悩んでいると受付のお姉さんが心配そうに話しかけてくる。
「こんなこと言いたくありませんが、この依頼にはおかしな点があります。だって騎士団直属の討伐隊ですよ? それが苦戦してるからといって冒険者ギルドに援軍要請を出すとも思えません」
お姉さんの言う通り、私も何か引っかかる気がした。
最初から騎士団が動いたなら、任務中に死傷者が出たとしても、直接騎士団に援軍要請を送ればいいだけのことだ。
ルミナスにも隣町にも、各町に騎士団の拠点は設けられている。
それに騎士団にも面子というものがあるわけだし……。
でも戦争のこともあるから、もしかしたら人手が足りないだけなのかもしれない。
「セラさん、どうしますか? 嫌なら断ってもらってかまいませんよ」
「ちょっと仲間と相談してから決めますね」
受付嬢は後ろのソファーに座っているレイナをチラッと見て、にっこりと微笑んでうなずいた。
「わかりました。お仲間とよく相談してきてください」
私は待合室まで戻ると、レイナに依頼書を渡して内容を詳しく説明した。
「本当にごめん。報酬も安そうだし、かなり危険みたいだから断ってくれてもいいよ」
レイナは真剣な表情で依頼書を確認している。
そして顔を上げると、私の目を見て静かに口を開いた。
「セラはどうしたいの?」
「えっ、私はその……」
すでにドラゴンが倒されていたなら諦めるしかないと思う。
でも、まだ倒されていなかった。
それどころか正式に騎士団からの依頼でドラゴン討伐隊として参加できるかもしれない。
かなり危険な任務だということもわかっている。
もしレイナが大怪我や死亡した場合、私は責任なんてとることができない。
それでも私の正直な気持ちを彼女に伝えた。
「ドラゴン討伐に参加したい! お願い、レイナもついて来てくれる?」
「もちろん! 一緒に頑張ろうね」
レイナは立ち上がると力強くうなずく。
彼女の瞳はやる気に満ち溢れているのがわかった。
苦楽を共にする冒険の仲間として、戦闘では命を預け合う仲間として、彼女のことを信頼している。
私は嬉しくて彼女の手をギュッと握ってお礼を言った。
「ありがとう」
「どういたしまして……って恥ずかしいよ?」
「えっ」
レイナは頬を染めると目で何かを訴えかけている。
振り向くと、受付のお姉さんがニマニマしながらこちらを見ていた。
今までのやり取りをずっと見られていたのかもしれない。
ちょっと恥ずかしくなってしまった。
☆☆☆
受付のお姉さんと話して、援軍要請を正式に引き受けることにした。
「この援軍要請、引き受けます」
「それではこちらに名前を記入してください」
私は依頼書に自分とレイナの名前を記入して提出した。
それを受付のお姉さんが確認すると、心配そうな顔をして話しかけてくる。
「お仲間は魔術学院の生徒さんですよね? 友達同士なんですか?」
「はい、しばらく一緒に冒険をすることになって」
「先ほどの会話が聞こえてしまって、ふたりとも情熱があって素晴らしいですね」
やっぱり会話を聞かれていた。
なんだか恥ずかしくて早くギルドから出たかった。
「いやぁ~、若いって羨ましいです。私も若いころは騎士に憧れていたんですが、結局は諦めて今の仕事に就いてしまって。おふたりを見てたらこう冒険心がくすぐられると言いますか……」
「は、はぁ……」
受付のお姉さんは、若いころに騎士を目指して奮闘していたときの話を熱く語り始めた。
私はその話がいつ終わるのか心配しながら聞いていた。
しばらくして受付嬢は、真剣な顔をして私にこう忠告してくれた。
「いいですか? まだ若いんだから絶対に無理はしないでください。死んでしまったら意味なんてありませんよ。私はそれが怖くて夢を諦めましたから……」
優しい声と潤んだ瞳、本当に私たちのことを心配してくれていた。
「ありがとう。やれるだけやってみます」
「頑張ってくださいね」
受付のお姉さんが依頼書に判を押す。
これで依頼の受託が成立した。
正式にドラゴン討伐隊の援軍として参加することができた。
「必要な物資はこちらで用意しておきます。準備をして明日の朝6時までにギルドにいらしてください」
「明日の朝6時ですね。わかりました」
「目的地までの移動はこちらで馬車を手配します。くれぐれも時間には遅れないように」
「仲間にも伝えておきますね。ありがとう」
私がお礼を言うと、受付のお姉さんはにっこりと微笑んだ。
ギルドで馬車を手配してもらえるなら、荒れ地までの移動の心配はなさそうだ。
レイナにも明日の段取りを説明して準備を終える。
こうして冒険者ギルドを出るころには、外はすっかり暗くなっていた。
「どうする? 今から宿屋を探すのも大変だし、よかったらあたしの寮に泊まる?」
「バレたら怒られそうだね。近くの安い宿屋でも探すから大丈夫だよ」
「そっか、もし部屋が取れなかったらいつでもきてね」
「ありがとう。それじゃ、また明日って剣を忘れちゃったよ」
「はうっ!? あ、あたしがちゃんと持ってくるから」
こうしてレイナは魔術学院の寮に戻り、私は通りにある安い宿屋に泊まることにした。
しばらくお風呂に入れないかもしれないので、髪と体を綺麗に洗っておく。
その後は質素な夕食を食べて、早めに就寝して明日の冒険に備える。
遊び疲れたのか夜明けまでぐっすり眠ることができた。




