24. 黄昏の約束
空はうっすらと夕焼け色に染まっていた。
私たちが最後に訪れたのが、家族連れやカップルにも人気の祈りの広場。
広場の周囲は花畑に囲まれていて、時計塔と中央には噴水がある綺麗な場所だ。
私とレイナは広場のベンチに座って休憩していた。
とくに何か話をするわけでもなく、私はただ座ってぼーっと噴水を眺めていた。
その周りでは、恋人たちが寄り添い語り合ったり、家族団らんの子供のはしゃぎ声が聞こえてくる。
しばらくしてレイナが口を開いた。
「今日は楽しかったね。こんなにゆっくりできた休日はひさしぶりかな」
「楽しい時間ってあっという間だよね」
「そうだね……。さっきから元気ないけど大丈夫? もしかして疲れちゃった?」
レイナは心配そうに私の顔を見る。
私は深くため息をついた。
この冒険がもうすぐ終わってしまうからだ。
「なんか夕焼けを見てたら悲しくなってきちゃった。仲間と泊りがけの冒険なんて初めてだから、レイナが一緒にいてくれてよかったよ」
そう言うとレイナは照れくさそうにしている。
「そうなんだ、セラって友達が多そうなイメージだけど……」
「騎士学校は女の子が少なかったからね。男友達はいたけど遊ぶといっても剣術訓練や乗馬だし」
「はう~、男の子の友達がいるのはうらやましいよ」
「そうかな? 私は女友達とオシャレや恋愛の話とかもしてみたかったよ」
「それなら……あたしがセラの友達になってあげる」
レイナが優しく微笑んだ。
「あ、ありがとう」
「この冒険が終わっても、もう会えないってわけでもないから」
「たしかにね……」
でも、この冒険が終わればレイナと会うこともなくなるだろう。
ルミナスで暮らすわけにもいかないし、今さら王都に戻ることもできない。
故郷の町に帰れたとしても私はどうするのかわからない。
私がまた黙ってしまうとレイナが声を上げた。
「そうだ!」
レイナは立ち上がると鞄から一枚の硬貨を取り出した。
「祈りの噴水にコインを投げると、願いが叶うって噂があるの。やってみようよ」
「願いごとか……。せっかくだしやってみようかな」
レイナは私の手を優しく握ると、そのまま噴水に向かって歩き出した。
噴水の中を覗くと、水底に沈んだ硬貨が夕日を反射してキラキラと輝いている。
私も硬貨を一枚取り出して、それをふたりで一緒に噴水に投げ入れた。
レイナは目を閉じて何か願いごとをしている。
(う~ん、私はなんてお願いしようかな)
目を閉じて何でもいいから願いごとをしようとしたけど、とくに願いなんて思いつかなかった。
私が望んでいることは……。
(とりあえず無事にフルーレまで帰れますように……)
夢も希望も何もない。
すっかりドラゴン退治のことは諦めてしまっていた。
それこそ功績を上げて王国騎士団に入隊するなんて、はるか遠い昔の夢のような気さえもしてくる。
目を開けるとレイナはまだ願いごとをしていた。
(いっぱいあるのかな? なにをお願いしてるんだろ……)
少し遅れてレイナがゆっくりと目を開けた。
そして彼女は恥ずかしそうにこちらを見た。
「いろいろお願いを言いすぎたよ。これじゃ叶えてもらえないよね」
「どんなお願いをしたの?」
「えっとね……セラと一緒にドラゴンを倒せますように、魔女試験に合格できますように、戦争が起こりませんようにって」
レイナはまだドラゴン退治のことを考えてくれていた。
それを言い出した本人が諦めているなんて、なんだか彼女に申し訳なくなってしまう。
「さすがにみっつは欲張りすぎだよね」
「そんなことないよ。せめてひとつくらいは叶えてほしいよね」
「セラはどんなお願いをしたの?」
「えっ、私? その……ふたりでドラゴンを倒して、お金もいっぱい稼いで、私とレイナの夢が叶いますようにって……」
私は嘘をついてしまった。
そんなの無理ってことは自分でもわかっている。
ただ、レイナの前ではそんな弱音を吐きたくはなかった。
「きっと叶うよ。もしダメなら次の目標に向かって進めばいいだけだし、ねっ」
夕日のせいかもしれないけど、彼女の瞳の中には希望があるかのように輝いて見えた。
なんだか私も少し元気をもらえた気がする。
「ありがとう。やっぱり夢があると頑張れるよね!」
「うん!」
「そろそろ日も暮れるしギルドに行こうか。ドラゴンが私たちを待ってるよ!」
「おぉ~、やる気満々だね~」
私もレイナも最後は笑顔だ。
こうして魔術街の休日が終わっていく。
☆☆☆
暮れゆくルミナスの町を歩いていると、どことなく寂しい気持ちになってしまう。
すでに辺りは薄暗くなり、街灯の魔鉱石が艶やかな光を放っていた。
私たちはドラゴン討伐の依頼を確認するため、大通りを歩いて冒険者ギルドに向かった。
そこでレイナとも別れる予定だ。




