23. 魔術街の休日
「次はどこに行きたい?」
「歓楽街なんだし他になにかある?」
「少し歩けばルミナスの美術館があるけど、芸術品に武器や魔導具まで。セラの好きそうなものがあるといいけど……」
「せっかくだから行ってみたいよ」
そんなわけで、次はルミナスの美術館を見物することにした。
歓楽街を少し歩けば大きな建物が見えてくる。
「ここは魔術学院が管理してるの。学院の生徒は無料で入れるんだよ」
「さすがに私までは無理だよね?」
「きっと大丈夫、上手くいくと思うから話を合わせて」
そう言うとレイナは受付のおじさんに魔術学院の生徒手帳を見せた。
おじさんがちらりとこちらを見る。
私は制服じゃなくて軽装鎧を着ているから、嘘がバレないか心配になってくる。
「学生2人です。その……友達が寮に生徒手帳を忘れてしまって」
「生徒さん? 勉強熱心だね~。さぁ、どうぞ」
「ありがとう、おじさん」
なんとか学生だと誤魔化せたようだ。
受付のおじさんにお礼を言って美術館の中に入った。
展示コーナーには様々な貴重な品物が種類別に飾られている。
最近流行りの闇ギルドの強盗団に狙われたりしないか心配だ。
とはいえ館内は兵士が巡回しているから安全そうだ。
私は絵画や陶芸、彫刻などの美術品にはあまり興味が湧かなかった。
それよりも珍しい武器や、高そうな宝石があしらわれた装飾品に目がいってしまう。
「うわぁ、この剣かっこいいね。これは青水晶で作られてるそうだよ」
「サンドラ地方から輸入した貴重な鉱石らしいね。氷の魔力を帯びてるって、ほら」
レイナは青水晶の剣の刃を指差す。
「なになに……この刃って凍ってるの? 溶けたりしないのかな」
「氷の魔力の影響だね。きっと触ると冷たいと思うよ」
展示ケースには、他にも様々な貴重な武器や装飾品が並べられている。
私は剣が好きだから珍しい武器が見られて楽しかった。
最後の展示室では、王国や帝国で使われた魔道兵器の精巧な模型が置かれている。
「これが魔導兵器か、戦争になればこういうのが使われるわけでしょ? なんか怖くなってくるよ」
「そうだね、この型は昔からある魔導式の旧型かな」
「よくわかんないけど古いタイプなんだ」
魔導兵器については騎士学校でも教わったけど詳しくは知らない。
生物や物質から抽出した魔力を溜め込み、濃度を高めて一気に撃ち出す武器だと説明には書かれている。
そういえば帝国が新型を作っているとレイナが言っていたのを思い出した。
私は周囲に誰もいないことを確認してから彼女に質問した。
「ねぇ、もし帝国が攻めてきたらさ、王国は勝てると思う?」
「う~ん、そうだね……」
「誰もいないから正直に言って大丈夫だよ」
こんなことを兵士に聞かれでもしたら怒られるかもしれない。
レイナは口元に指をあてると、真剣な表情で考え込んでいる。
「山岳地帯を越えての侵攻は大変だから、いくら帝国でも王国に攻め入るのは難しいよ。国境で迎え撃つ王国が有利だからね」
「たしかに、きっと帝国も脅しだけで終わらせるんじゃない?」
「そう願うしかないかな。戦争なんて起こらないほうがいいよ」
「平和が一番だよね」
私の考えでは戦争なんて起こらないと思う。
帝国のほうが領土もかなり広く、兵士の数もこちらと比べると圧倒的に多い。
しかし物資や食料が不足している貧しい地域も多く、今でも下水道すら整備されていない町もあるそうだ。
本当に新型の魔導兵器なんて存在するのかも疑わしかった。
「えへへ、ちょっとだけ賢くなっちゃった。だって騎士学校は魔導兵器のことなんて詳しく教えてくれないしさ」
「勉強になってよかったね」
こうして私たちは一通りの展示品を鑑賞してから美術館を出た。
☆☆☆
ルミナスの大通りを歩いていると、多数の露天商や店が立ち並んでいる。
なにか掘り出し物でも見つかりそうな気がした。
「なにか買いたいものはない?」
「えっと、安くて小型の双眼鏡がほしかったんだよね。ちょっと見ていってもいいかな?」
「双眼鏡か……冒険に役立ちそうだね。あたしも選ぶのを手伝うね」
私たちは大通りの雑貨屋を何軒か見て回った。
価格も安くて小型で使いやすい、丁度いい感じの双眼鏡をレイナが見つけてくれた。
「これとかどうかな?」
「どれどれ……持ちやすいし鞄にも入るね。価格は150ゴールドか~」
双眼鏡を手に持って悩んでいると、にこにこした店主のおじさんが話しかけてきた。
「この双眼鏡なら安くしとくよ。お嬢ちゃんたち可愛いからさ、100ゴールドでどうだい?」
「えへへ、可愛いってそんな……。これ買います!」
「うはは、まいどあり~」
私が即答すると、レイナはにっこり微笑み、おじさんも笑って上機嫌だ。
おかげで良い買い物をすることができた。
朝からいろんな場所を観光して、お昼が過ぎていたことにも気がつかなかった。
ホテルで朝食をお腹いっぱい食べたけれど小腹がすいてしまう。
「次はどこに行きたい?」
「ちょっと小腹がすいてきちゃったよ」
「それならハニークリームケーキでも食べにいこうか」
「はに~くり~む!?」
すっごく甘そうな響きをしている。
レイナの案内でルミナスの人気のスイーツを食べることにした。
カフェに到着すると甘いハチミツの香りが漂ってくる。
「このカフェのハニークリームケーキは、ルミナスのお菓子の中で一番人気があるんだよ」
「名前からして甘そうだわ~」
さすが人気のお菓子ということもあり、カフェの客は学生や女性が多かった。
椅子に座って待っていると、ケーキとコーヒーが運ばれてくる。
薄く焼いたハチミツたっぷりの生地に、クリームをのせてくるっと丸く巻いたお菓子だ。
口に入れた瞬間、あまりの甘さと美味さでほっぺたが落ちそうになる。
「すごい甘い! でもこれ美味しいよ」
「でしょ」
「ルミナスの蜂蜜のお菓子は最高だね」
「学生や観光客に人気なんだよ。あたしもよく自分へのご褒美に食べにきてたんだ」
ケーキを一口頬張るとレイナが嬉しそうに微笑む。
私も甘いものを食べているときは幸せな気持ちになってくる。
コーヒーの苦みとハニークリームの相性は絶妙だ。
魔術街の人気スイーツはとても美味しかった。
☆☆☆
ケーキを食べ終わり休憩していると、ルミナスの教会の鐘が町中に響き渡った。
平和な午後の穏やかな時間に、澄み切った綺麗な鐘の音が流れてくる。
「休日だし礼拝でもしてるのかな? ここの教会って凄い綺麗って聞いたことがあるよ」
「いかにも魔術街って雰囲気の造りで綺麗だよ。王都やセントノエルの教会よりは小さいけど」
「せっかくだから行ってみようよ」
「わかった、案内するね」
次は魔術街にあるルミナス教会に向かうことにした。
通りから外れた路地の長い階段を登っていく。
両側の建物にはガーゴイルの彫刻が一列に並べられ不気味に感じてしまう。
「ここにもガーゴイルがいるよ。なんか見た目が苦手なんだよね」
「ルミナスのシンボルみたいなものだから、探せば町中いろんなとこで見かけるよ」
王国のシンボルであるグリフォンはかっこいいけど、ガーゴイルは悪魔のような姿をしているから気持ち悪いし嫌いだ。
「こう見えて魔除けの効果もあるから、あんまり気味悪がると可哀想だよ」
「あはは、たしかにそうだね」
レイナはガーゴイルの彫刻を見上げて悲しそうにしていた。
路地の長い階段を登ると教会が見えてくる。
とんがり屋根の上には十字架、ステンドグラスは外からだとくすんで暗く見える。
黒っぽいレンガ造りの立派な建物だ。
すでに礼拝堂には大勢の人が集まっていて、これから午後の礼拝が行われるようだ。
私たちは慌てるように椅子に座った。
神父様は女神に祈りを捧げてから聖書を朗読する。
そして聖歌隊の子供たちが、月の女神ルナの彫像の前に並んで聖歌を歌った。
礼拝堂にいる人たちはその美しい歌声に耳を傾けていた。
私は小声でレイナに話しかける。
「ねぇ、レイナはどの子が好み?」
「えっ、なに言ってるの……」
「だからどの子が好きかって話。私はあの子が一番可愛いと思う。ほら、下段の左端……金髪の幼い感じの男の子」
「たしかに可愛いけど、あれは女の子じゃないの?」
「いや、あれは間違いなく男の子だよ」
「あっ、言われてみるとたしかにそうかも。セラっていい趣味してるね」
聖歌隊の子供たちの澄んだ歌声を聴いていると、まるで心が洗われるような気持ちになってくる。
ルミナス教会のステンドグラスも、一度見たら忘れられないほどに美しかった。




