17. カボチャと笑顔
宿屋に入ると、奥の食堂から子供たちの賑やかな声が聞こえてくる。
食堂から宿屋のおかみさんが出てくると、私に気づいてこちらに駆け寄ってきた。
「あっ、無事に戻ってくれて良かったよ。レイナちゃんから話は聞いてるから……セシルちゃんのことは残念だねえ……可哀想にさあ……」
おかみさんは悲しそうに瞳には涙を浮かべている。
「なんとか魔物は討伐しました。これで森も少しは安全になると思います」
「そうかい、ありがとうよ」
おかみさんはお礼を言うと、奥の食堂まで案内してくれた。
「お腹空いてるだろ? みんな待ってるからさ。お風呂はその後でいいかい?」
「はい、ありがとうございます」
みんなが誰のことなのかはわからなかった。
食堂に入ると、テーブルにはレイナと子供たちが座っていた。
森の秘密基地まで案内してくれた、生意気なぽっちゃりした子と、気弱そうな眼鏡をかけている子だ。
「あっ、戻ってきたね。セラが帰ってくるのをふたりとも待ってくれてたんだよ」
「騎士の姉ちゃん、すげぇや! オオカミと小悪魔と吸血鬼の化け物まで倒したんだろ?」
レイナはにっこり微笑んで、ぽっちゃりした子供は興奮している。
「す、凄いです。お姉さんはガロナの、この町の英雄です」
気弱そうな子は尊敬の眼差しで私を見ている。
「いやいや、そんな大げさな」
「はうう……ごめんね。そこまで大げさには言ってないよ?」
私がレイナのほうを見ると、申し訳なさそうに愛想笑いをしていた。
調子に乗って子供たちに大げさに話してしまったようだ。
私がテーブルに座ると、厨房からおかみさんが料理を運んできてくれた。
物凄い量のカボチャ料理が目の前に並べられていく。
「はう~、すごくいっぱいだね」
「これ4人で食べきれるのかな」
おかみさんは少し呆れた様子で謝りながらこう言った。
「この時期はカボチャが余るからさ。このご時世、食料の価格も高騰してるだろ? 捨てるのはもったいないからねえ」
たしかにおかみさんの言う通りだと思う。
食べ物を粗末にするのはいけないことだ。
「おかみさんのカボチャ料理は美味しいから、いっぱい食べれて嬉しいです」
「そうかい、そう言ってもらえると嬉しいよ。それにさ……」
おかみさんは子供たちのほうを見る。
「姉ちゃん、このカボチャはオレたちの巨大カボチャなんだぜ! コンテストで優勝したんだ!」
ぽっちゃりした子供が自慢げに語り出した。
子供たちが育てた巨大カボチャは、収穫祭のカボチャコンテストで優勝していた。
「おぉ凄いね! これってあの巨大カボチャだったんだ」
「そういうこと、あんたたちもこんな巨大カボチャを育てるなんて凄いじゃないか」
おかみさんが褒めると、ふたりは照れながら嬉しそうに笑っている。
そんな子供たちの喜ぶ顔を見ていたら、さっきまで落ち込んでいた気分が少し楽になった。
「さぁ、冷めないうちに食べとくれよ」
「いただきまーす!」
「はうっ、いただきます」
「すげぇ美味そう!」
「この量は……」
私たち4人は巨大カボチャのフルコースを食べ尽くそうと頑張った。
普通のカボチャと巨大カボチャの味の違いはよくわからない。
お腹が空いているのでまったく気にならなかった。
パン、スープ、サラダ、デザートのケーキと果物も全て食べきることに成功した。
「ごちそうさま、お腹いっぱいだよ……」
「はう~」
「さすがにお腹いっぱいだぜ。魔女の姉ちゃん大丈夫か?」
レイナはお腹をさすって苦しそうにしている。
「女性ふたりと子供ふたりで食べるなら、このカボチャの量は異常だと思います」
気弱そうな子は眼鏡をクイッと動かして冷静に分析する。
「ってお前が一番食ってねぇじゃん! オレと姉ちゃんたちでほとんど食べたんだろ」
「ごめんなさい……。ぼく少食なんです」
「あはは、べつに気にしなくていいよ。でもいっぱい食べないと大きくなれないぞ~」
「そ、そうですよね。ぼくも大きくなれるように頑張ります」
気弱そうな子は恥ずかしそうに笑うと、私たちもにっこりと笑顔になる。
こうして子供たちとの楽しい食事の時間が終わった。
夜も更けてきたので、子供たちは宿屋の主人が家まで送り届けた。
私たちはお風呂に入ってからベッドで休むことにする。
温かいお湯に浸かると気持ちがいいけど、コウモリに噛まれた脚の傷口がちょっとしみる。
昨日今日と森を歩き続けて、戦闘もしたのでかなり疲労がたまっていた。
今晩は宿屋のふかふかのベッドでぐっすりと眠ることができた。
☆☆☆
翌朝、ふたり揃って寝坊をしてしまった。
窓の外を見ると、今日はあいにくの曇り空が広がっている。
急いで出発の支度をして、軽めの朝食を食べてから宿屋を出ることにした。
「おかみさん、いろいろありがとう」
「本当にお世話になりました」
「そんなのいいって。ふたりとも嫌な顔ひとつせず依頼を引き受けてくれたからね。おばちゃん、それがなんだか嬉しくてさ」
「騎士として困ってる人を助けるのは当然のことなので」
「あらまぁ、若いのに本当に立派だねえ」
おかみさんは私の言ったことに感心しているようだ。
「そうだ、これ、お昼にでも食べとくれ」
おかみさんに手渡された紙袋の中には、カボチャケーキが詰め込まれていた。
冷めたらパサパサしてまずくなるのがちょっと残念だ。
「あ、ありがとうございます。これ甘くて美味しいですよね」
「ごめんね、カボチャ料理が余っちゃってさ。誰か食べてあげないともったいないからねえ」
おかみさんは申し訳なさそうに愛想笑いをしている。
私とレイナがお礼を言っていると、宿屋の主人が息を切らして駆け足で戻ってきた。
「君たちは魔術街に向かうんだろ? 知り合いの牧場から荷馬車が出るから、途中まで乗せてもらえるそうだ」
「いいんですか? ありがとう、助かります」
途中まで歩こうと思っていたので、荷馬車に乗せてもらえるならありがたい。
「ここでお別れだね。またガロナに寄ったら、ここに泊っておくれよ。サービスするからさ」
「ありがとう、それではまた~」
「おかみさんもお元気で~」
「ふたりも体には気をつけるんだよ~」
私とレイナはおかみさんに手を振り、お世話になった宿屋を後にした。
宿屋のおじさんに案内されて町の外にある牧場まで向かう。
しばらく歩くと小さな牧場が見えてきた。
すでに荷馬車には2頭の大きな馬が繋がれていて、御者台には大きな体のおじさんが座っている。
その後ろ姿ですぐに誰なのかわかった。
「ジャックおじさん!? こんなとこで会うなんて奇遇だね」
「おっ、やっぱり嬢ちゃんたちか、なんか大活躍したそうじゃないか。途中の牧場までだが乗っていきな」
「ありがとう、助かるよ」
「町の人間として礼を言わないといけないのはこっちだ。魔物を倒してくれてありがとよ。見かけによらずやるじゃねぇの」
「えへへ、それほどでもないけど……」
もしかして私たちは、ガロナではちょっぴり有名になってるのかもしれない。
「もう忘れ物はないか? そろそろ出発するぞ」
「準備完了、いつでも出発できるよ」
「あたしも大丈夫です」
私とレイナは後ろの荷台に乗り込む。
ジャックおじさんが手綱を握ると、荷馬車はガタっと揺れてゆっくりと動き出した。
宿屋のおじさんが私たちに向かって手を振っている。
「いろいろありがとう。ふたりが美味そうに料理を食べてくれるから、うちのかみさんが喜んでたよ」
「おかみさんのカボチャ料理、とっても美味しかったよって伝えてください」
「あぁ、ちゃんと伝えておくよ。それじゃ、気をつけて~」
「お世話になりました」
私とレイナも手を振ってお礼を言った。
遠ざかっていくガロナの町を眺めていると、少し寂しい気持ちにもなってくる。
寄り道をすることにはなったけど、依頼を引き受けてよかったと思う。
そのおかげで町の人たちと仲良くなることができた。
それに……。
隣に座っているレイナが、馬車の揺れに合わせるように肩を寄せて小声で話しかけてくる。
「あのね……ありがとう。セラって優しいよね」
「えっ、いきなり優しいってなに?」
「嬉しかったの。行方不明の子を助けようとしてくれて」
突然のことで驚くというよりも恥ずかしかった。
そして彼女は真剣な表情をしている。
「もしその依頼を断るなら、あたしはルミナスで別れようと考えてたの。セラが優しい人でよかった」
「困ってる人を助けるのは騎士の仕事だからって言ったでしょ」
「そうだね。これからもよろしくね」
「こちらこそよろしく」
レイナは私の顔を見ると嬉しそうに微笑んだ。
仲間からも信頼されたのが嬉しかった。
それに修道院ではあぶないところを助けてもらったから、私も彼女のことは信頼している。
派遣騎士と魔女見習い、私たちって意外と相性がいいのかもしれない。
こうして荷馬車に揺られながら、北の黄金平原にある牧場に向かって街道を進んだ。
次の目的地は魔術街ルミナスだ。




