16. 涙の帰還
私はひとりで冒険者ギルドに向かった。
小さな町のギルドは、夕方でも人が少なく空いていた。
椅子に座って休憩することもできずに、そのまま受付で依頼の報告をする。
鞄から回収したアイテムを提出した。
吸血鬼の遺灰と牙、インプの角を受付のカウンターに並べていく。
最後にセシル君が身に着けていたと思われる、木で作られた鳥のブローチを置いた。
ここで提出するのはこれだけだ。
私は淡々と任務の経緯を事細かに説明していく。
不愛想な受付嬢はそれを聞きながら、ブローチを手に取ると眺めていた。
「そうですか……その子供は殺されてましたか……」
「はい。助けられなくて残念です」
「わかりました。それでは少しお待ちください」
子供を無事に見つけられなかったので、成功報酬が支払われるのか不安だった。
すぐに不愛想な受付嬢が戻ってくる。
「今回の討伐報酬です」
【カーミラ……1,600G インプ……150G】
討伐報酬には素材を換金した金額も含まれている。
宝石以外の素材は安く、ほとんどが討伐報酬の金額だろう。
「あの……無事に発見できなかったので、依頼報酬は受け取れませんよね?」
とりあえず確認してみると意外な返事が返ってきた。
「いえ、これは町の人からの依頼なので、遺体で発見されても報酬はお支払いできます。ただ……」
不愛想な受付嬢は言いづらそうに私から視線をそらした。
その瞬間、なにか嫌な予感がした。
「その子供が身に着けていたブローチかどうか、その子の家族に確認してもらってください」
「私が直接その子の家まで行ってですか……」
「はい。依頼報酬はその後にお支払いします」
「わかりました……」
嫌な役をまかされてしまった。
本来であればギルド側で確認することなのに、人手が足りないのか面倒なだけなのか、私が直接その子供の家族に報告することになった。
明日にはこの町を出発したいから、なるべく早く報酬を受け取りたい。
ここは我慢するしかないだろう。
☆
夕焼け空は日が沈みかけて、はっきりと星が見えるほど薄暗くなっている。
まだランタンを灯すほどでもなく、完全に日が沈むまでに急いでセシル君の家に向かった。
町の広場からはずれた通りにある小さな家だ。
玄関の周りは散らかっていて、花壇の花はしおれて枯れている。
私は手に握った鳥のブローチを見つめながら、セシル君の家族になんて伝えればいいのかを考えていた。
母親の誕生日を祝うため、野イチゴを摘みに森に入って魔物に殺された。
きっとふたりで仲良く幸せに暮らしていたのだろう。
子供が殺されたと聞かされたら、母親は泣き崩れてしまうかもしれない。
「はぁ……嫌だな。こんなこと伝えないといけないなんて」
ゆっくり考えている時間はない。
私がこの依頼を引き受けたわけだし、きちんと伝えないといけないことはわかっている。
深呼吸と軽く咳払いをしてから家のドアを叩いた。
すぐに男性の声で返事が聞こえた。
玄関のドアが開くと、目つきの鋭い長身の若い男性が出てきた。
「はい、誰?」
「ギルドからの依頼でセシル君の捜索をしました。その件について報告があります」
母親とふたり暮らしと聞いていたので少し驚いてしまう。
話の途中で私が言葉を詰まらせると、男はめんどくさそうに舌打ちをしてせかしてくる。
「それであいつどうなったの?」
「それが……月影谷で魔物に襲われ殺されていました。その魔物は討伐しましたが、このブローチはお子さんが身に着けていた物か確認してもらいたくて」
私が鳥のブローチを差し出すと、長身の男性は黙ってそれを受け取った。
玄関からは奥のテーブルに座っている女性が見えている。
男がその女性にブローチを見せにいった。
「お前の子供死んだってよ。これを確認してくれって冒険者の子がきてる」
「知ってる……聞こえてたから」
ランプの灯かりに照らされ後ろ姿しか確認できないが、声からしても女性はまだ若いと思う。
私は複雑な心境でそれを見ていた。
「あぁ、これ。あの子ので間違いないよ。代わりにお礼を言っといて」
「ちっ、なんなんだよまったく」
男は舌打ちしながら玄関まで戻ってくると、めんどくさそうに私にお礼を言った。
「あいつのガキのもんで間違いないって、わざわざどうも」
「たしかにお渡ししました。それでは失礼します」
そう言って私はすぐにその場から離れた。
後ろからはバタンと強くドアが閉まる音が聞こえた。
私はいつも依頼主に直接報告するときは、拳を胸に当て王国騎士団の敬礼をすると決めている。
そのほうがカッコいいのと印象に残ると考えたからだ。
でも今日はそんな気分にもなれなかった。
しばらく町を歩いてから、私は小さくため息を漏らす。
「はぁ……ひとりできてよかった。レイナにまで嫌な思いをさせたくないし」
セシル君の家庭環境がどうなっているのかはわからない。
あの若い男が父親とも思えないけど、奥で座っていた女性は本当の母親のような気がする。
女性は妊娠しているのか、お腹が大きいようにも見えた。
子供が殺されたのにあの態度は薄情だと思うけど、なにか事情があるのだと自分に言い聞かせる。
ただ、亡くなった子供が可哀想だ。
聖堂教会の人が少しでも早く修道院を訪れて、その子と殺された人たちが安らかに眠れるように、きちんと弔ってあげてほしいと願う。
残念な結果になったとはいえ、その子供の最期を知ることはできたし、修道院に巣食う魔物も討伐できた。
後は報酬をもらえばこの依頼は完了だ。
ギルドで報酬を受け取り、宿屋に着いたころには辺りは真っ暗になっていた。




